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 徳増は拗ねる次元ではなく、優子を見限る勢いだ。

 本当に見限られるかは別として優子の心は揺れる。返す言葉を失い、肩を落とす。
 徳増はそんな優子を通り過ぎて寝室の扉を開けた。優子の傷付いた顔を気遣わない。

「あ、あなただって恋情が伴わない女性を抱いたりしていたじゃない? それは可哀想じゃないの?」

「えぇ、可哀想ですよ。愛しい人を抱けず、愛しい人に少しでも似た女を探して慰めているのですからね。ですが、それでいいのです。私が触れたらいけない、穢してしまう」

「愛しい?」

 寝台へ秀人を放り、荷物を下ろしたと言わんばかりに腕を回す。後ろ姿から怒りの類が滲み出て、張り詰めた空気が広がる。
 
 徳増の怒りは一言で言い表せない、様々な要因が複雑に絡む。と、またもや優子が見当外れな事を言う。

「つまり、お姉様が好きなんでしょう?」

「は?」

「暁月に付いて来たのを後悔しているんでしょ? お姉様に会ったよね?」

 ほとほと呆れるくらい察しの悪い優子だが、徳増が良子と会ったのは見破る。どうしてか分かってしまうのだ。

「お姉様の元へ行きたいなら行っていいよ、わたしはここで生きていくと決めたの。だから可哀想とか言わないで。他ならぬ徳増に言われると辛いよ」

 優子はそれでもと笑顔を作った。美しく誇り高いと評された姿を意識して。

「さぁ、もう行って。わたしは大丈夫」

 徳増に寝室から出るよう促す。優子は抱かれなくとも、秀人と一夜を共に過ごそうと部屋に残ることにする。

 徳増と姉がどんな会話をしたのか、詮索してしまうのを堪える。自分に対する態度が急に冷たくなった理由が良子にあるとしか考えつかない。

 あの夜の良子を想う。良子は何もかもかなぐり捨てて、徳増を愛そうとしていた。あんな情熱的に求められれば徳増も応えたくなるだろう。仕方ない、仕方ない。

 ーー仕方がない、のだろうか。

 優子が心の巡りに滞りを覚えた時、徳増が出ていこうとする。視線が合って、ぱっとそらされ、優子の胸は重くなった。

「……どうか、元気で」

 絞り出した別れの声が届いたかは分からないが、静かに扉は閉められる。
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