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エリザベート・ロートス
しおりを挟む目覚めてすぐ気づいた。
あぁ此処は、あなたが存在しない世界だって。
あなたの居ない世界だって。
わたくしは、すぐに気づいたのよ
ーーティリス。
運が良かったのね。
あの娘は才能があったわ。
もちろんわたくしもよ。
記憶は水面を照らす七色の光のように鮮明に残っているわ。
あなたは戦火の中で輝いていた。
荒ぶる神のように全てを焼き尽くした。
月を纏って、碧が赤に染まるまで。
それをわたくしがさせているなんて、初めて女の悦びを知ったようだったわ。
身体の芯から疼いて、熱くなって、
もう動かないあなたの模倣品の上でわたくしは淫らに踊り続けたの。
はしたないだなんて言わないでちょうだいね?全てあなたのせいなんだもの。
ホンモノだったらどんなに快いのかしらっていつも思っていたのよ。
あなたの熱い楔を打ち込まれ、獣のように乱暴に犯されながら胎内に飛沫を感じるの。
何度も何度も何度も、溢れるまであなたの子種を注がれて命を孕むの。
わたくしとあなたの子どもだったらきっとどんな獣より美しいわ。
…思い出したら吐息まで熱くなってくるわ。
わたくしはまた良家に産まれ落ちたのよ。
少し物足りないのは身分かしらね。魔力は問題はないから心配しないで。
上手くやれるわ。だっていっぱい学んだもの。この国の魔術の扱いはてんで駄目だったけれど、あなたのために頑張ったのよ。
褒めてほしいわ。口づけをさせてあげる。
あなたが照れ隠しでわたくしを遠ざけると知っていたから、結界を通る方法も見つけたの。大丈夫だったのよ。安心したでしょう?
そうして見つけた。
やっと会えた。
愛しいあなた。
正確にはあなたの魔力かしら。
思わず微笑んでしまったのよ。またはしたないと呆れられてしまうかしら?
……だけどね、愛しいティリス。
あなたの隣にいた、あの女。
わたくしからあなたを奪った淫売。娼婦。
忌々しい黄金の、空の色。
でもわたくしは耐えた。やっぱり口づけはして欲しいわ。
だって耐えたのは二度目よ?まだ乳離れもしていない餓鬼の時に会った時も我慢したのだもの。…どうしてあなたに会う前にあの女に会わなければいけなかったの!
意地悪なティリス。わたくしは涙まで流したのにぬぐってもくれないなんて!
この世から消してやったのにまたわたくしの御前を穢したのよ。
…………そういえばあなたは時折り酷く意地が悪くなる事があったわね。
あなたがわたくしの国を滅ぼした時。
あなたはわたくしを独りぼっちにしたわ。
お父様もお母様もお兄様も大臣も侍女も庭師も料理人も。わたくしのお人形たちもみんな屠っていったのに。
空っぽにした王宮にわたくしだけを置いていった。
民はどうだったかしら。どうでもいいわね。
とにかくわたくしはそこで独りになって、動けなくなったんだわ。
どうしてあなたはそんな意地悪をしたのかしら。邪魔者を消してあげたわたくしに愛を乞い、跪くべきだったのに。
けれどそんな意地悪なあなたも愛おしいのだわ。お陰でわたくしはもう一度あなたに会えたのだから。
わたくしのこの美しい髪。煌めく瞳。愛らしい声。愛さずにはいられない美貌。
艶めかしい身体。高貴な血。魂、魔力。
わたくしという至高の存在全てを捧げて唱えた魔法。
ーー成功したわ。
成功した、けれど。
あなたは居なかった。
どうしてなのかしら。
狂おしいほど美味だったあなたの血も、捧げたのに。
ティリス。愛しい人。
まったく仕方のない人だわ。
ここまでわたくしを困らせるあなたにはちょっとしたお仕置きが必要よね。
だからまた、奪う事にしたの。
あんな女に媚を売るなんて死んだほうがマシなくらい屈辱だわ。
だけどあなた。
あなたの絶望した顔はこの上無いほど魅力的なの。興奮してまた疼いてしまうの。
たまらないわ。
魔力が激情に駆られながらわたくしを甘く抱きしめた時なんてーー。
とても、素敵だったわ。
上手くいっているわ。
わたくしはとても上手くやっている。
あの女は漸く身の程を弁えた態度だし、あの娘もわたくしの言いなり。お友達って素晴らしいのね。
わたくしが何も言わなくても、下々の者は勝手に噂を広めてくれるわ。
あの女を奪って、今度はもっと苦しめて殺してやるわ。
そうしてあなたを取り戻すの。
わたくしの中へ、たっぷりと注いでね。
お寝坊さん。
早く起きてちょうだい。
色鮮やかな世界を見て。
わたくしとあなた、二人だけの世界を。
応援ありがとうございます!
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