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事件は王宮で起きている?
しおりを挟む豪華な造りの部屋の中で、寝台に座っている男を見つめて、わたしは心の中で呟いた。
──殿下が30までにカッパ頭になればいいのに…。
わたしは殿下を睨みながら呪いの言葉を吐いていた。
「サブリナ夫人。心の声が駄々漏れですよ」
そう声を掛けたのは青みがかった銀髪のメガネ君だ。
名前はある。しかし、全く覚えられない程長いので、わたしは『メガネ君』と命名した。
緑の髪の八重歯が可愛いと人気の『ドラちゃん』わたしには、牙の様に見えるので、吸血鬼から命名した。
赤毛の現騎士団長の息子『キンニ君』歩く脳筋のような彼をそう呼んでいる。
金髪の癒し系の『テンちゃん』は、天然キャラで食べるのが好きな子だ。いつも何かお菓子袋を持っているぽっちゃりさん。
彼らを見てわたしは思う。
赤・青・緑・黄…。
王太子殿下は何を目指しているのだろうかと。
ここにピンクブロンドのサスキア妃殿下と黒髪の王太子殿下が集合すれば、国を守る何やら戦隊の出来上がりだ。
くだらない妄想を浮かべて、昨夜からの怒りを鎮めているわたしは、一夜にしてやつれた殿下を睨んでいる。かなり不敬だが、殿下達が悪いのだ。
折角、侍女達が「今日の奥様は最高傑作です」といって送り出されたおめかしも、一晩中牢獄の中で過ごせば、髪もドレスもボロボロだ。
こんな姿にした彼らが憎くて仕方がない。
そして、又も私は呟いた。
「殿下が国王陛下と同じになればいい」
「やめろ。サブリナ夫人。本当になったらどうするんだ」
やっぱり、殿下は頭の事情を気にしているんだな。
国王陛下は王冠が手放せない病気だという事は有名な話だ。
それは王冠を取れば、東洋の妖怪…カッパの様な頭だからだ。
だが、残念ながら頭にお皿はのせていない。
わたしたちのこの不毛なやり取りは、昨夜のデビュタントでの出来事が関係している。
* * * * * * * *
初々しい新人たちが社交界にデビューする為の式典に呼ばれたわたしは、教え子?達の晴れ舞台を会場の端で見守っていた。
ここ数年で、この国のデビュタントは様変わりして、近隣諸国が表敬訪問する時の目玉イベント化にまでなっている。
昨夜も隣国イバール国の王女と宰相がその場にいたのだが、そこで事件は起きた。
軽快な音楽と共に『闘牛ステップ』を踏む新人たちを微笑ましく見ていた筈なのに…。
いつの間にか音楽が止んで、会場の中央で殿下とワガママン王女がダンスを披露していた。
今、サスキア妃殿下は3人目のお子を身籠っており、殿下の相手は務まらない。
今日は、カッパ陛下や美魔女王妃殿下の隣で、貴賓席から観覧をしていた。
すると、ニコニコとガマガエル隣国宰相が近寄ってきて、殿下に飲み物を渡しているのを見た。
数刻前にわたしはその飲み物に何かを混入している所を見たので、密かにそのことを妃殿下に教えねばと、サスキア妃殿下を探している所に、ふらふら状態の王太子殿下と遭遇したのだ。
明らかに何かおかしなものを口にした殿下の様子がおかしい。
「サスキア…サスキア…愛しい妻よ」
と譫言のように私に向かって呟いている。
兎に角、どうにかしようと殿下の口に手を突っ込んで吐かせようとしたが…。
ん?待って…症状が出ているということは既に消化しているのかもしれない。ならば下から出させるしかないと思った私は、以前殿下が体調を崩した時の事を思い出した。
そして、例のお茶『グリーンティー』を殿下にしこたま飲ませたのだ。
殿下は嫌がったが、鼻をつまんで無理矢理口から流し込んだ。
涙と鼻水で美麗なお顔が大変な事になっていたが、そんな事を気にする余裕はなく。何とかしなければとわたしは懸命?に処置をした。
それを目撃した騎士達は「王太子殿下暗殺!!」と叫んで大惨事になった。
わたしは、その場で取り押さえられて、殿下の側近らに尋問される事に…。
殿下はお腹が弱いのだろう。
ピーピーゴロゴロと妙な音を鳴らして、猛ダッシュで何度もトイレに駆けんで行った。
そして、いつしか殿下はトイレから帰れなくなり、結局『トイレの住人』となってしまった。
殿下がそんな状態なので、詳しい事情が聞けず、わたしは重罪を犯した貴族が入る牢屋に入れられたのだ。
『王太子殿下暗殺未遂』事件の首謀者として…。
何度も事情を説明したのに、誰も信じて貰えなかった。
「今までの夫人の行動からすればな…」
とメガネ君が言った事をわたしは生涯忘れないだろう。いつかこの礼は倍にして返そうと心の中に深く刻んだのだ。
その後、明け方になり、事の顛末を聞いた殿下は既に何度もトイレに通ったせいかものすごーくやつれて疲れ果てていた。
傍で心配そうにしている妃殿下の方が倒れそうになるくらい青ざめている。
こうして、晴れて無実を勝ち取ったのだ。
「取り敢えず、手段はともかく、私を救ってくれた事には感謝する。すまなかった。そしてありがとう」
「いえ、臣下としては当たり前の事をしたまでです」
「それにしても思い切った事をしましたね」
「わたしには他に手立てが思いつかなかったんです」
そこへ、わたしが無罪放免になったと聞いたレイモンドが駆け付けた。
「ところで、話は変わるが夫人は、レイモンドにあの日、何を言ったんだい?」
「はあーっ、それはですね。『君を愛することはない』と言われる前に『貴方を愛する事はありません』と言いました」
その言葉を聞いたその場の全員が…主に殿下と側近の赤青緑黄レンジャーが顔色を悪くした。
これは何かあると、鈍いわたしでも簡単に想像が出来た。
そして、彼らから聞いた真実に、
──やっぱり、全員カッパ頭になる呪いをかけよう。
と心に誓ったのだった。
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