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24.一難去って
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勇者と魔王。
この勝負、一体どっちが勝つんだ…?
『すまん。殺られた。』
数秒経たずにそう言ってきた。
『あれは器として不十分だったんだ。そもそも、あんなにすぐレベル100になるような器じゃダメだ。』
「言い訳はいいから! 何か代案をくれ!」
こう漫才を繰り広げている間にも、アルマは刻一刻と迫って来ていた。
『また、器を作るか…。いや、あの塔を崩落させてくれ。』
進行方向にそれらしき塔が見えた。その下には大勢の人影も。
「崩す事は出来るが…、あれを崩したら何人が死ぬ…?」
『だが、確実にアルマは塔の崩落から人々を助けようとするだろ。このまま追い付かれて殺されるか。何人かを殺して逃げ延びるか。カリム君が選んでいいぞ。』
怖かった。ただ、今殺される事が怖かった。
だから僕は殺されたくない一心で、指輪の指示通りに戦鎚で塔を崩落させた。
その時、塔の下に居た少女と一瞬だけ目が合った。ほんの一瞬だけだったが、数秒後に死ぬかもしれない純新無垢なその瞳や顔が、頭に焼き付いて離れなかった。
その後にゆっくりと塔は傾き始めて、背中に感じていた寒気が引いた。
後ろを見る勇気は出なかったが、爆音のような激しい轟音が鳴り響き、後ろから砂塵のようなものが飛んで来た。
『凄い迫力だったぞ。アルマも巻き込まれてたら良いんだけどな。』
そのまま何も言えずに情けなくダンジョンまで到達した。
ダンジョンの中腹辺りまで来ると、安心したのかどっと疲れが覆いかぶさってきたように感じた。
吸血鬼になってからは、疲れなんて感じ無くなっていた筈なのに。
「誰か…、死んだか?」
『まあまあの人数死んでたよ。あ、殺したって言った方がいいかな。もう、偶然殺したとか言い訳出来ないぞ。観念してレベルを上げるんだな。』
…。
『とまぁ。まだ終わってないんだけどね。』
「まさか、アルマが来てるのか?」
『いや違う。…今日の私はミスばかりしていただろう?』
「まあ、そうだな。」
『実はシエルキューテ達のサポートもしていたんだ。』
「どういう事だ?」
『勇者の家名持ちが三人、多分だけどカリム君の腹違いの兄弟かな。それらがダンジョンに乗り込んで来たんだ。丁度、カリム君が王城に乗り込んだタイミングでね。』
「何をしに入って来たんだ?」
『私が知る訳ないだろ。まあ、アルマが瀕死になった次の日だ。興味本位か報復のどちらかだろう。
ただ藪をつついて楽しんで居るだけならば対処は楽なんだが、中々帰ってくれなくてね。今はシエルキューテと他の魔物達に対処させている。』
「大丈夫なのか?」
『分からない。本音を言うならカリム君にも援護してもらいたい。でも消耗しているだろ? 休んでくれていいぞ。』
「いや、援護しに行くよ。」
『…。カリム君、まだ人殺せないでしょ。一度殺せば慣れてくれると思ってたけど、ちょっと考えが甘かったよ。
センチメンタルじゃないとか粋がってたから厳しく催促したのに。カリム君、めちゃくちゃセンチメンタルだったし、それに一度殺しただけで延々と凹み続けてたし。最後の崩落とかもやばかったでしょ。』
…。
『とりあえず、シエルキューテの部屋で休んでなさい。』
「…分かった。」
◇□◇□◇□◇
数十分前。
「シエルキューテ様、浮かない顔ですね。」
「あら、そうかしら。まあレミィが言うのならそうかもしれないわね。」
「カリムさんが居なくなってからずっとそんな感じですよ。」
「そ、そんな訳ないわ。いい加減なことを言わないでくれるかしら。」
シエルキューテ様、カリムさんについて話すと露骨に反応するのです。
「シエルキューテ様はやっぱりカリムさんの事が好きなんですか?」
「ば、馬鹿な事を言わないでくれるかしら。あんな半端な子供の何処を好きになれというのかしら。」
早口で手がプルプル震えているのです。ここまで来ると面白いのです。
「でも、前はほっぺにチューしてたじゃないですか。」
「…レミィ、見てたのね。」
「見てたのです。」
「…まあ、ちょっとだけよ。と言っても母性みたいなものだから。そうすぐ恋愛に結び付けないでくれるかしら。」
苦しい言い訳に必死です。そんな所もシエルキューテ様は可愛いのです。
「じゃあ、私がカリムさんとくっ付いたらど──」
「それはダメよ。」
もはや、隠す気ゼロなのです。
「やっぱりカリムさんを取られたくないんですね!」
「だから! そういうのじゃないと言っているでしょう。もういいわ、向こうで飲んでくるからついてこないで。」
やっぱり、シエルキューテ様もカリムさんの事が好きなのですね。
それは…、かなり苛つくのですね。
『聞こえるか? 勇者の家名持ちが三人侵入して来た。シエルキューテ達は今から言う場所に集まってくれ。』
シエルキューテ様が戻って来たのです。
「レミィ、付き従いなさい。家名持ちの侵入者を仕留めに行くわよ。」
「はいです!」
この勝負、一体どっちが勝つんだ…?
『すまん。殺られた。』
数秒経たずにそう言ってきた。
『あれは器として不十分だったんだ。そもそも、あんなにすぐレベル100になるような器じゃダメだ。』
「言い訳はいいから! 何か代案をくれ!」
こう漫才を繰り広げている間にも、アルマは刻一刻と迫って来ていた。
『また、器を作るか…。いや、あの塔を崩落させてくれ。』
進行方向にそれらしき塔が見えた。その下には大勢の人影も。
「崩す事は出来るが…、あれを崩したら何人が死ぬ…?」
『だが、確実にアルマは塔の崩落から人々を助けようとするだろ。このまま追い付かれて殺されるか。何人かを殺して逃げ延びるか。カリム君が選んでいいぞ。』
怖かった。ただ、今殺される事が怖かった。
だから僕は殺されたくない一心で、指輪の指示通りに戦鎚で塔を崩落させた。
その時、塔の下に居た少女と一瞬だけ目が合った。ほんの一瞬だけだったが、数秒後に死ぬかもしれない純新無垢なその瞳や顔が、頭に焼き付いて離れなかった。
その後にゆっくりと塔は傾き始めて、背中に感じていた寒気が引いた。
後ろを見る勇気は出なかったが、爆音のような激しい轟音が鳴り響き、後ろから砂塵のようなものが飛んで来た。
『凄い迫力だったぞ。アルマも巻き込まれてたら良いんだけどな。』
そのまま何も言えずに情けなくダンジョンまで到達した。
ダンジョンの中腹辺りまで来ると、安心したのかどっと疲れが覆いかぶさってきたように感じた。
吸血鬼になってからは、疲れなんて感じ無くなっていた筈なのに。
「誰か…、死んだか?」
『まあまあの人数死んでたよ。あ、殺したって言った方がいいかな。もう、偶然殺したとか言い訳出来ないぞ。観念してレベルを上げるんだな。』
…。
『とまぁ。まだ終わってないんだけどね。』
「まさか、アルマが来てるのか?」
『いや違う。…今日の私はミスばかりしていただろう?』
「まあ、そうだな。」
『実はシエルキューテ達のサポートもしていたんだ。』
「どういう事だ?」
『勇者の家名持ちが三人、多分だけどカリム君の腹違いの兄弟かな。それらがダンジョンに乗り込んで来たんだ。丁度、カリム君が王城に乗り込んだタイミングでね。』
「何をしに入って来たんだ?」
『私が知る訳ないだろ。まあ、アルマが瀕死になった次の日だ。興味本位か報復のどちらかだろう。
ただ藪をつついて楽しんで居るだけならば対処は楽なんだが、中々帰ってくれなくてね。今はシエルキューテと他の魔物達に対処させている。』
「大丈夫なのか?」
『分からない。本音を言うならカリム君にも援護してもらいたい。でも消耗しているだろ? 休んでくれていいぞ。』
「いや、援護しに行くよ。」
『…。カリム君、まだ人殺せないでしょ。一度殺せば慣れてくれると思ってたけど、ちょっと考えが甘かったよ。
センチメンタルじゃないとか粋がってたから厳しく催促したのに。カリム君、めちゃくちゃセンチメンタルだったし、それに一度殺しただけで延々と凹み続けてたし。最後の崩落とかもやばかったでしょ。』
…。
『とりあえず、シエルキューテの部屋で休んでなさい。』
「…分かった。」
◇□◇□◇□◇
数十分前。
「シエルキューテ様、浮かない顔ですね。」
「あら、そうかしら。まあレミィが言うのならそうかもしれないわね。」
「カリムさんが居なくなってからずっとそんな感じですよ。」
「そ、そんな訳ないわ。いい加減なことを言わないでくれるかしら。」
シエルキューテ様、カリムさんについて話すと露骨に反応するのです。
「シエルキューテ様はやっぱりカリムさんの事が好きなんですか?」
「ば、馬鹿な事を言わないでくれるかしら。あんな半端な子供の何処を好きになれというのかしら。」
早口で手がプルプル震えているのです。ここまで来ると面白いのです。
「でも、前はほっぺにチューしてたじゃないですか。」
「…レミィ、見てたのね。」
「見てたのです。」
「…まあ、ちょっとだけよ。と言っても母性みたいなものだから。そうすぐ恋愛に結び付けないでくれるかしら。」
苦しい言い訳に必死です。そんな所もシエルキューテ様は可愛いのです。
「じゃあ、私がカリムさんとくっ付いたらど──」
「それはダメよ。」
もはや、隠す気ゼロなのです。
「やっぱりカリムさんを取られたくないんですね!」
「だから! そういうのじゃないと言っているでしょう。もういいわ、向こうで飲んでくるからついてこないで。」
やっぱり、シエルキューテ様もカリムさんの事が好きなのですね。
それは…、かなり苛つくのですね。
『聞こえるか? 勇者の家名持ちが三人侵入して来た。シエルキューテ達は今から言う場所に集まってくれ。』
シエルキューテ様が戻って来たのです。
「レミィ、付き従いなさい。家名持ちの侵入者を仕留めに行くわよ。」
「はいです!」
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