親が決めた婚約者ですから

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あの親が決めた婚約者

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「親が決めた婚約者ですから。」

最近婚約したマールズ公爵子息リチャードはまた今日もご令嬢達の質問責めに笑顔で答えていた。

マールズ公爵子息は、その見目の良さと宰相である父と、その父から譲り受けた頭の良さと、物腰の柔らかさで、婚約者のいない子息の中で一番の有望株として、ご令嬢方に人気であった。

彼の相手に決まったのは、宰相である父の希望によって決まった伯爵令嬢。彼女は所謂平凡な見た目で侮られたのか、マールズ公爵子息の相手として、純粋に疑問があがり、ご令嬢の質問責めにあっているのだ。

当の伯爵令嬢は、アルマ・デニスと言って、デニス伯爵家の次女で、成績はそれなりに良く、見た目は地味、である。

でも、彼女を選んだのは尊敬する父なのだ。だとすれば彼女はきっと優れた女性であることに間違いはない。彼女のことはよく知らないし、何なら自分では調べたところで彼女の良さに思い至らないが、兎に角あの父が選んだ女性なのだ。

何かしらの理由があって然るべきだ。

ご令嬢達は、リチャードが言葉に込めた意味を読み取ることはなく、ただ、大切な婚約を親に決められてお可哀想だと思っていた。彼女達は、勿論リチャードの親に問い詰めたりはしない。皆、分不相応にも選ばれた伯爵令嬢の元へ、婚約について何か一言言いに行く。

リチャードの興味はその後。

どんなご令嬢も、彼女と話した後には、リチャードに寄ってこなくなる。明らかな愛想笑いを浮かべ、逃げるようにしていなくなる。リチャードとしては集団だと気が強くなるご令嬢達に囲まれることを望まない為に、有り難く、彼女がどのようにしてご令嬢達をあしらったのか伝授して貰いたいぐらいだった。

中でもずっとしつこく、言い寄ってきていたある子爵令嬢をリチャードから引き剥がし、そればかりか自身の信奉者にしてしまった手腕には見倣うことも多く、感心したものだ。


そうして日々を過ごしていた時、またもや彼女に立ち向かうご令嬢がいた。ただ、おかしなことにはそのご令嬢にリチャードは覚えがなかった。自慢ではないが、自分に言い寄ってくるご令嬢の顔は一度見ただけでちゃんと覚える。記憶力には自信がある。だが、そのご令嬢は、見たこともなければ、家名すらわからない。

「あのご令嬢はどちらの方なのだろうか。」

つい周りにいたクラスメートに尋ねると、怪訝な顔をしながらもちゃんと教えてくれる。

「あの有名な方を知らないんですか?ああ、噂の通りなんですね。彼の方は、最近辺境伯家で保護している隣国の王女様ですよ。辺境伯のご次男に言い寄って、断られているそうです。」

「隣国の王女?隣国には王子しかいなかった筈だが?」

「最近、現れたのですよ。陛下のお手つきのメイドの娘だとかで。平民同然の生活から王女ですからね。中々マナーが身につかないのは仕方がないのでしょう。」

「何故、そんな方が私の婚約者にあのような態度を取られているのか。」

「……御父上にお聞きすれば宜しいのでは?婚約を纏められたのは宰相閣下なのでしょう?」
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