親が決めた婚約者ですから

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蚊帳の外

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対応してくれた執事とは、おそらく初対面。何故自信がないかというと、デニス伯爵家に来たことが二度目で、使用人の顔など覚えていないからだ。

「直ぐに帰られますか?」
アルマ嬢と普段なるべく離れている弊害がこんなところに。少しぐらいなら待たせて貰おうとしたのだが、友人宅に何日か泊まるために今日は戻ってこないという。

執事の対応は幾分そっけない。しかし、当然か。だって会ったことすらない自称婚約者が今ごろになってノコノコ現れたのだ。他の使用人達からの表情からしてもあまり歓迎はされていない様子。それでも勇気を振り絞って情報を得ようとすると。

「ご友人宅はこちらから近いのですか。」

「いえ、辺境伯家ですので、遠いですね。」

また辺境伯家。リチャードはこの執事を問いただすことを一瞬考えたが、初対面の婚約者に彼が心を開くとも思えず、日を改めることにした。

「もし、お急ぎなのでしたら、こちらからご連絡することも可能ですか、いかがいたしましょう?」

「いや、また日を改めようと思います。次はちゃんと彼女側のご都合を聞いてからにします。」

そう言い、馬車に戻ると、次は学園で流れている噂について調べることにした。

辺境伯家のことで頭がいっぱいで、一旦聞き流していたが、最初にあの王女様と辺境伯家のことを教えてくれた生徒は確かに「あの噂の通り」と言った。

もしかして、リチャードとアルマに関する噂がある?

リチャードは見た目からよく噂をされる事がある。それは大抵根も葉もないものでしかないが。リチャードは何となく今までの噂とはタイプが違う、噂のような気がして、とてもモヤモヤしていた。

一番良いのは、先の発言をしたクラスメートに聞けば良いのだが、彼の名前を知らないことにふと気づく。

自分に纏わりつくご令嬢の名前は知りながら、クラスメートの名前すら把握していないなんて、まるで自分が女好きのようではないか。羞恥で、かあっと体が熱くなる。それでも、名前と顔が一致する男で噂に詳しそうな人物、と考えると何人か浮かぶ者がいた。

その内の一人は、リチャードの数少ない友人の一人で、騎士団長を兄に持つレナード・スリフ侯爵令息。彼は所謂女好きで婚約者がいないことをいいことに女性を取っ替え引っ替えしているロクデナシだ。それなのに女性から苦情がないのは、彼の人柄の所為なのか、家の力の所為なのか。

こんなことすらなけりゃあまり近づこうとしなかったレナードだが、背に腹は変えられない。

意外にも、こちらから連絡すれば、渋々ではあるが時間を取ってくれた。

「そろそろくる頃かな、と思ってた。お前、友達いないもんな。」
失礼な、とは思ったが図星なので、黙る。

「それで、何が聞きたいの?」
口を開こうとしたリチャードに、手振りで待ったをかけるレナード。

「あ、その前に、お前、俺に何をしてくれる?」
「え?」
「いや、だって。俺らは友人であるが、情報には価値があるんだ。ならそれに見合った対価を示さなければ、得られないかもしれないことをお前なら理解できるだろう?」

普段ボーっとしているくせに、こういう抜け目のないところがレナードの良いところでもあるのだが。

足元を見られていることに舌打ちをしそうになってやめた。それだけ悟られた自分が悪い。

「何が欲しいんだ?」

「んー、お前の婚約者と、話をする機会が欲しい。」

「……何故?」

「何故ってそりゃお前……ああもしかしてまさか噂は本当なのか?」

「それ……その噂って何なんだ。それを聞きに来たんだ。」

リチャードの剣幕に押されたロバートは目を点にした後、豪快に笑い出した。
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