親が決めた婚約者ですから

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処世術

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リチャードの心配は杞憂に終わった。当然ながらイザベル嬢はアーサー殿以外に興味がなく、彼以外に話しかけることはなかった。それは未だに彼女達が王女にすら話しかけないことから分かり切ったことだった。

今起きていないことに対処などしようもない。彼女達は今ここに来ていないし、存在すらしていない。少なくともその認識で今のところは間違いない。

「イザベル嬢をそのままにしておいていいのか?」

リチャードの独り言に反応したのはアルマ嬢。苛々しながらも、リチャードと話をしてくれるのは彼女が優しい証拠だ。

「此方が彼女をいない者として扱っているのと同様に彼方側も彼以外を認識していないのよ。私達のことは塵ぐらいにしか思っていないから話なんて無理よ。」

「塵って、王女様も?」

「勿論。彼女にとっては家族であっても同じような対応らしいから、あまり気にしなくて大丈夫よ。」

「あの……お恥ずかしながら、聞いても?その……そういう情報はどこから仕入れてくるの?」

「私だけの、やり方でよければ話せるけど……特別なことはないわ。単に話を聞くだけよ。噂話をしている時って人は話に夢中になって、無防備になるの。その人達の近くに密かに回り込んでいるだけ。

貴方には難しい方法だと思うわ。貴方は友人がいないというけれど、貴方の周りにいる人達は皆目立つもの。皆貴方の視界に入ろうと頑張って輝こうとするから。目立って仕方がないのよ。」

「もしかして、君がずっと地味にしていたのは……」

「面と向かって地味とか、失礼じゃない?まあ、いいけど。そうね、私は元からキラキラした見た目をしていないし、よくある顔だから紛れることは苦にならないわ。逆に貴方の婚約者になって目立つのが嫌だった。女性達はまだいいのよ。貴方よりも合いそうな相手を紹介すれば良いのだもの。だけど、そうじゃない人達が面倒だった。」

そうじゃない人?

「ああ、そうじゃない人!」
「わかった?普通に私自身に嫉妬の目を向けてくる人。宰相閣下を忌々しく思いながら、私に嫉妬をぶつけてくる人達。貴方にも心当たりがあるでしょう?」

リチャードに話しかけては、嫌味な態度で去っていく何人かの顔が浮かんだ。表立って突っかかっては来ないけれど、此方を勝手に認めない、とか言って来る暇な人達。

「アーサー殿がああいう態度を取るのは、此方に被害がないように、なのよ。もし誰かを介してしまったら、王弟殿下と、その誰かが敵対関係になってしまうでしょう?

ましてや、イザベル嬢は人の話なんか聞かないんだから。思い込みは、それだけで殺傷能力は高くなるわ。」

リチャードは話を聞いてどこかで似たようなことがあった気がする、と思い出した。どこだっけ?と考えた結果。

イザベル嬢をあしらうアーサー殿がまるで少し前の自分みたいだと思い至る。

こうしてみると、アルマ嬢には随分助けてもらっていた。
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