親が決めた婚約者ですから

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当事者② アルマ視点

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「ちゃんと聞きましたよ。」アルマは再度周囲に人がいないかを見渡して、用心深く口を開いた。

「やっぱり昔からあの女、前からぶっ飛んでいたみたいですね。彼は初対面でいきなり「貴方と結婚する!」と言われたみたいで。ただ彼の周囲ではよくあることだったらしく、あまり印象には残らなかったとか。

彼、彼女の名前も記憶に残らなかったそうです。」

アルマはオーブリーに渋々答え合わせを行った。オーブリーは眉間に皺を寄せて少し言葉を選んでいる。

「ええ……凄いわね、何それ。完全に一方通行じゃない。それ、元の出会い方を間違えたとかそういう?」
アルマに聞いていた情報と、オーブリーの興味が合わさって、想像は膨らんでいく。

「うーん、確か本来ならあの二人は初めて会った時に互いに惹かれ合うみたいな感じだったと……初恋同士で、拗れたみたいな話だったと思うのですけど。正直又聞きなのであまり知らなくて。」
アルマも結末は詳しいものの、二人の馴れ初めまでは詳しくない。

「それにしても、一旦聞き逃したのだけど、やっぱり凄いわね。今ではあんなボーっとした男になっちゃったけれど幼い頃からモテてたのね。」

オーブリーは当初予想していた印象と随分異なる姿だったリチャードを思い出して不思議な感覚に陥る。アルマに聞いていたリチャードは、今よりもっと優秀でアーサーより腹黒なイメージだったのに。アルマも婚約話が持ち上がった際に彼に会って、「違う」と感じたらしいから、オーブリーは間違っていない。

「本人も想定外だったんじゃないですか。伯爵家の話が出た時も、私が指摘するまで何も言いませんでしたから。」

忘れていたと言うよりは忘れていたかったようなリチャードの表情に、この世界がアルマが知る本来とはかけ離れた方向へ進んでいることを理解した。

だからといってアルマは手放しで喜ぶわけにはいかなかった。彼女の知らない道が突如現れている可能性もあるにはあるからだ。


それにいつリチャードが目覚めて、今までの彼を全て無しにしてしまったりすると、もうアルマの手には負えなくなってしまう。

リチャードの婚約者になってから色々な場面で巻き込まれた身としては、怒りに身を任せてしまうことはあっても、彼の穏やかな性格は好ましいと言わざるを得なかった。欲を言えば、もう少し周りの人と歩幅を合わせてほしいけれど。

穏やかなリチャードはアルマの知る本来の姿ではなかった。彼は良く言えば情熱的、悪く言えば、独断専行な俺様タイプ。根拠のない自信は側から見る限り、好意的に考えていたが、実際に見ると「馬鹿じゃないの?」と思うほど、滑稽なものだった。

アルマはリチャードに近づく為に忍び込んだ集まりでまさかの宰相閣下に絡まれると言う愚行を犯しており、それもこれもあの女のせいだと、逆恨みにまで至っていた。

だけど、リチャードの彼女に対する態度を知ると、何故か可哀想な気持ちが生まれたのだからアルマ自身もいよいよ傲慢になったのかと、首を捻る事態になってしまった。
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