12 / 16
番外編① アンジェリカ視点
「アンジェリカ・ハリエ公爵令嬢」その名がやたらと持て囃されるようになったのは、ヴィクトリアのために働く人が増えるようになってからだ。
要は監視役と言うのだろう。アンジェリカの行動は彼らによって逐一王女に報告され、アンジェリカは精神的に追い詰められていた。
ただ彼らの中にも、アンジェリカの味方は何人か紛れ込んでいるようで、アンジェリカの偽物がいるとしか思えない誤情報もその中に紛れ込むようになっていた。
彼らの中には、アンジェリカに純粋に憧れを抱いていて、うっかり見間違えてしまった者や、アンジェリカに憧れを抱くあまり、自分がそうだと思い込んでしまった者もいた。
王女は聞いてもいないのに、その情報を小出しにしては、こちらの反応を見て楽しんでいる。
アンジェリカはうんざりした。彼女の茶会は、いつも彼女のご機嫌取りに終始する。
母が良く言っていた「王女様は茶会の仕方を知らない」と言うのは言い得て妙と言ったところだ。
彼女は茶会の作法を知らずに好きな事だけ話せば良いとさえ思っている。ならば、とアンジェリカは母と共に公爵家の為に動いてくれそうな人を探し始めた。
王女の求心力というのはどういうわけか、若い男性にしか発揮しない。社交界では全く力のない味方ばかり作る王女に本気で女王になる気があるのか、と問いたくなる。
「ただ王女の取り巻きに既成事実なんて作られたら逃げるなんてできなくなるわよ。」
母の言葉を聞いて、容易にその絵が想像できてしまうことに血の気が失せた。主人を簡単に裏切る人間に人生を台無しにされるなんて、冗談じゃない。
彼らと王女の関係は一見仲が悪いように見える。そこが小賢しいところだが、知っている人から見ればバレバレというのがまだまだ小娘だということだ。
「王女の取り巻きは何か赤いものを身に付けていることがあるからすぐにわかるわ。」
母から言われた通り、ヴィクトリアの愛する赤の主張が強く、彼らがマシューではなくヴィクトリアを主人にしていることは一目瞭然だ。
彼らは嘘つきだ。口では、マシューを主人だと言い、アンジェリカを守りたいと言い、ヴィクトリアに情報を流す。淑女教育で培った忍耐力がなければ、アンジェリカは嫌悪を彼らに顕にしていただろう。
茶会での情報源は侍女のレア。彼女は王女の犬だ。ジョシュアが彼女に火傷をさせた時は、うっかり頬が緩みそうになってしまった。だってそのおかげで一時的にも監視が離れたのだもの。それから、密かにジョシュアには恩義を感じていたから、彼から話が来た時は、一も二もなく、飛びついてしまった。
彼から最初に聞いた相談は「恋人と平民になりたい。」だった。
「それは可能だけど、侯爵家の後継者としては良いわけ?貴方一人っ子でしょう?」
「一族には優秀な奴もいるから大丈夫。」
「平民になるのは、恋人も承知のことなのね。」
「彼女は男爵家の庶子なんだ。元は平民で貴族が辛いって言っているから、大丈夫だ。」
ジョシュアはそう言っていたが、女の子が男性と女性の前で態度が違うのは良くある話。
恋人の前では謙虚でも、実は野心を持っていたりするのはよくあること。会ってみないと本音はわからない、とアンジェリカは彼女を茶会に呼んだのだが。
見事にジョシュアの言う通りの女の子が現れた。彼女はドレスすら満足に持っていなかったようで、公爵家で着せ替えされた後、言葉を無くしていた。
公爵家のキラキラした様子に、場違いを感じ、縮こまる姿はまさに小動物のようで。アンジェリカは勿論、母も気に入ったようだった。
彼女は男爵家に愛着はあまりない、と正直に話した。男爵夫人は自分を嫌いだけど面倒は見てくれるのでありがたいとは思っているが、メイドの態度も酷く、八つ当たりみたいなことをされていた。
「最初の挨拶で私間違えちゃって……義理の母であるその人に、ついおばさん、って言っちゃったんです。」
ブフッ、と吹き出したのは、母。
「失礼。貴女からしたら、おばさんで合ってるけど。それで、彼女の不興を買ったのね。」
「はい。ジョシュアにはいつも平民になりたいってずっと言っていて、彼は優しいから、なら俺も、って。一緒に平民となれば、きっと彼には苦労をかけるから、私が作法を覚えるしか道はないってわかってはいるんですけど。」
「なら、貴女。こんなシナリオはどうかしら。」
シナリオは母が担当して、やりすぎな部分はアンジェリカが対応する。
演技に不安そうなクロエだったが、礼儀作法をアンジェリカが見るということで話がついた。
「悪いんだけど、平民になるのは少し待って貰える?貴女にはジョシュアと一緒に男爵家を少しの間、維持して貰いたいのよ。多分あの堪え性のない王女なら一年ってとこかしらね。」
母は思ったよりも王女のことをわかっているらしい、と気づいたのはそれから少ししてのことだった。
要は監視役と言うのだろう。アンジェリカの行動は彼らによって逐一王女に報告され、アンジェリカは精神的に追い詰められていた。
ただ彼らの中にも、アンジェリカの味方は何人か紛れ込んでいるようで、アンジェリカの偽物がいるとしか思えない誤情報もその中に紛れ込むようになっていた。
彼らの中には、アンジェリカに純粋に憧れを抱いていて、うっかり見間違えてしまった者や、アンジェリカに憧れを抱くあまり、自分がそうだと思い込んでしまった者もいた。
王女は聞いてもいないのに、その情報を小出しにしては、こちらの反応を見て楽しんでいる。
アンジェリカはうんざりした。彼女の茶会は、いつも彼女のご機嫌取りに終始する。
母が良く言っていた「王女様は茶会の仕方を知らない」と言うのは言い得て妙と言ったところだ。
彼女は茶会の作法を知らずに好きな事だけ話せば良いとさえ思っている。ならば、とアンジェリカは母と共に公爵家の為に動いてくれそうな人を探し始めた。
王女の求心力というのはどういうわけか、若い男性にしか発揮しない。社交界では全く力のない味方ばかり作る王女に本気で女王になる気があるのか、と問いたくなる。
「ただ王女の取り巻きに既成事実なんて作られたら逃げるなんてできなくなるわよ。」
母の言葉を聞いて、容易にその絵が想像できてしまうことに血の気が失せた。主人を簡単に裏切る人間に人生を台無しにされるなんて、冗談じゃない。
彼らと王女の関係は一見仲が悪いように見える。そこが小賢しいところだが、知っている人から見ればバレバレというのがまだまだ小娘だということだ。
「王女の取り巻きは何か赤いものを身に付けていることがあるからすぐにわかるわ。」
母から言われた通り、ヴィクトリアの愛する赤の主張が強く、彼らがマシューではなくヴィクトリアを主人にしていることは一目瞭然だ。
彼らは嘘つきだ。口では、マシューを主人だと言い、アンジェリカを守りたいと言い、ヴィクトリアに情報を流す。淑女教育で培った忍耐力がなければ、アンジェリカは嫌悪を彼らに顕にしていただろう。
茶会での情報源は侍女のレア。彼女は王女の犬だ。ジョシュアが彼女に火傷をさせた時は、うっかり頬が緩みそうになってしまった。だってそのおかげで一時的にも監視が離れたのだもの。それから、密かにジョシュアには恩義を感じていたから、彼から話が来た時は、一も二もなく、飛びついてしまった。
彼から最初に聞いた相談は「恋人と平民になりたい。」だった。
「それは可能だけど、侯爵家の後継者としては良いわけ?貴方一人っ子でしょう?」
「一族には優秀な奴もいるから大丈夫。」
「平民になるのは、恋人も承知のことなのね。」
「彼女は男爵家の庶子なんだ。元は平民で貴族が辛いって言っているから、大丈夫だ。」
ジョシュアはそう言っていたが、女の子が男性と女性の前で態度が違うのは良くある話。
恋人の前では謙虚でも、実は野心を持っていたりするのはよくあること。会ってみないと本音はわからない、とアンジェリカは彼女を茶会に呼んだのだが。
見事にジョシュアの言う通りの女の子が現れた。彼女はドレスすら満足に持っていなかったようで、公爵家で着せ替えされた後、言葉を無くしていた。
公爵家のキラキラした様子に、場違いを感じ、縮こまる姿はまさに小動物のようで。アンジェリカは勿論、母も気に入ったようだった。
彼女は男爵家に愛着はあまりない、と正直に話した。男爵夫人は自分を嫌いだけど面倒は見てくれるのでありがたいとは思っているが、メイドの態度も酷く、八つ当たりみたいなことをされていた。
「最初の挨拶で私間違えちゃって……義理の母であるその人に、ついおばさん、って言っちゃったんです。」
ブフッ、と吹き出したのは、母。
「失礼。貴女からしたら、おばさんで合ってるけど。それで、彼女の不興を買ったのね。」
「はい。ジョシュアにはいつも平民になりたいってずっと言っていて、彼は優しいから、なら俺も、って。一緒に平民となれば、きっと彼には苦労をかけるから、私が作法を覚えるしか道はないってわかってはいるんですけど。」
「なら、貴女。こんなシナリオはどうかしら。」
シナリオは母が担当して、やりすぎな部分はアンジェリカが対応する。
演技に不安そうなクロエだったが、礼儀作法をアンジェリカが見るということで話がついた。
「悪いんだけど、平民になるのは少し待って貰える?貴女にはジョシュアと一緒に男爵家を少しの間、維持して貰いたいのよ。多分あの堪え性のない王女なら一年ってとこかしらね。」
母は思ったよりも王女のことをわかっているらしい、と気づいたのはそれから少ししてのことだった。
あなたにおすすめの小説
【完結】嘘も恋も、甘くて苦い毒だった
綾取
恋愛
伯爵令嬢エリシアは、幼いころに出会った優しい王子様との再会を夢見て、名門学園へと入学する。
しかし待ち受けていたのは、冷たくなった彼──レオンハルトと、策略を巡らせる令嬢メリッサ。
周囲に広がる噂、揺れる友情、すれ違う想い。
エリシアは、信じていた人たちから少しずつ距離を置かれていく。
ただ一人、彼女を信じて寄り添ったのは、親友リリィ。
貴族の学園は、恋と野心が交錯する舞台。
甘い言葉の裏に、罠と裏切りが潜んでいた。
奪われたのは心か、未来か、それとも──名前のない毒。
侯爵令嬢はざまぁ展開より溺愛ルートを選びたい
花月
恋愛
内気なソフィア=ドレスデン侯爵令嬢の婚約者は美貌のナイジェル=エヴァンス公爵閣下だったが、王宮の中庭で美しいセリーヌ嬢を抱きしめているところに遭遇してしまう。
ナイジェル様から婚約破棄を告げられた瞬間、大聖堂の鐘の音と共に身体に異変が――。
あら?目の前にいるのはわたし…?「お前は誰だ!?」叫んだわたしの姿の中身は一体…?
ま、まさかのナイジェル様?何故こんな展開になってしまったの??
そして婚約破棄はどうなるの???
ほんの数時間の魔法――一夜だけの入れ替わりに色々詰め込んだ、ちぐはぐラブコメ。
メリンダは見ている [完]
風龍佳乃
恋愛
侯爵令嬢のメリンダは
冷静沈着という言葉が似合う女性だ。
メリンダが見つめているのは
元婚約者であるアレンだ。
婚約関係にありながらも
愛された記憶はなかった
メリンダ自身もアレンを愛していたか?
と問われれば答えはNoだろう。
けれど元婚約者として
アレンの幸せを
願っている。
公爵令嬢は運命の相手を間違える
あおくん
恋愛
エリーナ公爵令嬢は、幼い頃に決められた婚約者であるアルベルト王子殿下と仲睦まじく過ごしていた。
だが、学園へ通うようになるとアルベルト王子に一人の令嬢が近づくようになる。
アルベルト王子を誑し込もうとする令嬢と、そんな令嬢を許すアルベルト王子にエリーナは自分の心が離れていくのを感じた。
だがエリーナは既に次期王妃の座が確約している状態。
今更婚約を解消することなど出来るはずもなく、そんなエリーナは女に現を抜かすアルベルト王子の代わりに帝王学を学び始める。
そんなエリーナの前に一人の男性が現れた。
そんな感じのお話です。
【完結】ロザリンダ嬢の憂鬱~手紙も来ない 婚約者 vs シスコン 熾烈な争い
buchi
恋愛
後ろ盾となる両親の死後、婚約者が冷たい……ロザリンダは婚約者の王太子殿下フィリップの変容に悩んでいた。手紙もプレゼントも来ない上、夜会に出れば、他の令嬢たちに取り囲まれている。弟からはもう、婚約など止めてはどうかと助言され……
視点が話ごとに変わります。タイトルに誰の視点なのか入っています(入ってない場合もある)。話ごとの文字数が違うのは、場面が変わるから(言い訳)
【完結】その令嬢は可憐で清楚な深窓令嬢ではない
まりぃべる
恋愛
王都から少し離れた伯爵領地に住む、アウロラ=フランソンは領地の特産物である馬を領民と共に育てている。
一つ上の兄スティーグは学友から、妹を紹介しろと言われるが毎回断っていた。そしてその事を、寮から帰ってくる度に確認される。
貴族で伯爵家の娘であるアウロラは、そのうちいつかはどこかの家柄の男性と結婚をしなければならないのだと漠然と思っている。ワガママが許されるのなら、自分の好きな乗馬は止めたくなかったし結婚はしたくなかったけれども。
両親は好きにすればいいと思っていたが、父親の知り合いから結婚の打診が来て、まずは会うだけならと受けてしまった。
アウロラは、『仕方ない…いい人だといいなぁ』と思いながら会い、中身を知ろうとまずは友人から始めようと出掛ける事になるのだが、なかなか話も噛み合わないし価値観も違うため会話も出来ない。
そんな姿を見てか相手からは清楚だなんだと言われていたが、相手がある女性を助けた事で「僕達別れよう」と一方的に言われることになった。
あまりの事に驚くが、アウロラもまたある男性と出会い、そして幸せになるお話。
☆★
・まりぃべるの世界観です。現実とは常識も考え方も似ているところもあれば、全く違う場合もあります。単語や言葉も、現実世界とは意味や表現が若干違うものもあります。
・人名、地名など現実世界と似たもしくは同じようではありますが全く関係ありません。
・王道とは違う、まりぃべるの世界観です。それを分かった上で、暇つぶしにでも楽しんでもらえるととても嬉しいです。
・書き終えています。順次投稿します。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。