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番外編① アンジェリカ視点
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「アンジェリカ・ハリエ公爵令嬢」その名がやたらと持て囃されるようになったのは、ヴィクトリアのために働く人が増えるようになってからだ。
要は監視役と言うのだろう。アンジェリカの行動は彼らによって逐一王女に報告され、アンジェリカは精神的に追い詰められていた。
ただ彼らの中にも、アンジェリカの味方は何人か紛れ込んでいるようで、アンジェリカの偽物がいるとしか思えない誤情報もその中に紛れ込むようになっていた。
彼らの中には、アンジェリカに純粋に憧れを抱いていて、うっかり見間違えてしまった者や、アンジェリカに憧れを抱くあまり、自分がそうだと思い込んでしまった者もいた。
王女は聞いてもいないのに、その情報を小出しにしては、こちらの反応を見て楽しんでいる。
アンジェリカはうんざりした。彼女の茶会は、いつも彼女のご機嫌取りに終始する。
母が良く言っていた「王女様は茶会の仕方を知らない」と言うのは言い得て妙と言ったところだ。
彼女は茶会の作法を知らずに好きな事だけ話せば良いとさえ思っている。ならば、とアンジェリカは母と共に公爵家の為に動いてくれそうな人を探し始めた。
王女の求心力というのはどういうわけか、若い男性にしか発揮しない。社交界では全く力のない味方ばかり作る王女に本気で女王になる気があるのか、と問いたくなる。
「ただ王女の取り巻きに既成事実なんて作られたら逃げるなんてできなくなるわよ。」
母の言葉を聞いて、容易にその絵が想像できてしまうことに血の気が失せた。主人を簡単に裏切る人間に人生を台無しにされるなんて、冗談じゃない。
彼らと王女の関係は一見仲が悪いように見える。そこが小賢しいところだが、知っている人から見ればバレバレというのがまだまだ小娘だということだ。
「王女の取り巻きは何か赤いものを身に付けていることがあるからすぐにわかるわ。」
母から言われた通り、ヴィクトリアの愛する赤の主張が強く、彼らがマシューではなくヴィクトリアを主人にしていることは一目瞭然だ。
彼らは嘘つきだ。口では、マシューを主人だと言い、アンジェリカを守りたいと言い、ヴィクトリアに情報を流す。淑女教育で培った忍耐力がなければ、アンジェリカは嫌悪を彼らに顕にしていただろう。
茶会での情報源は侍女のレア。彼女は王女の犬だ。ジョシュアが彼女に火傷をさせた時は、うっかり頬が緩みそうになってしまった。だってそのおかげで一時的にも監視が離れたのだもの。それから、密かにジョシュアには恩義を感じていたから、彼から話が来た時は、一も二もなく、飛びついてしまった。
彼から最初に聞いた相談は「恋人と平民になりたい。」だった。
「それは可能だけど、侯爵家の後継者としては良いわけ?貴方一人っ子でしょう?」
「一族には優秀な奴もいるから大丈夫。」
「平民になるのは、恋人も承知のことなのね。」
「彼女は男爵家の庶子なんだ。元は平民で貴族が辛いって言っているから、大丈夫だ。」
ジョシュアはそう言っていたが、女の子が男性と女性の前で態度が違うのは良くある話。
恋人の前では謙虚でも、実は野心を持っていたりするのはよくあること。会ってみないと本音はわからない、とアンジェリカは彼女を茶会に呼んだのだが。
見事にジョシュアの言う通りの女の子が現れた。彼女はドレスすら満足に持っていなかったようで、公爵家で着せ替えされた後、言葉を無くしていた。
公爵家のキラキラした様子に、場違いを感じ、縮こまる姿はまさに小動物のようで。アンジェリカは勿論、母も気に入ったようだった。
彼女は男爵家に愛着はあまりない、と正直に話した。男爵夫人は自分を嫌いだけど面倒は見てくれるのでありがたいとは思っているが、メイドの態度も酷く、八つ当たりみたいなことをされていた。
「最初の挨拶で私間違えちゃって……義理の母であるその人に、ついおばさん、って言っちゃったんです。」
ブフッ、と吹き出したのは、母。
「失礼。貴女からしたら、おばさんで合ってるけど。それで、彼女の不興を買ったのね。」
「はい。ジョシュアにはいつも平民になりたいってずっと言っていて、彼は優しいから、なら俺も、って。一緒に平民となれば、きっと彼には苦労をかけるから、私が作法を覚えるしか道はないってわかってはいるんですけど。」
「なら、貴女。こんなシナリオはどうかしら。」
シナリオは母が担当して、やりすぎな部分はアンジェリカが対応する。
演技に不安そうなクロエだったが、礼儀作法をアンジェリカが見るということで話がついた。
「悪いんだけど、平民になるのは少し待って貰える?貴女にはジョシュアと一緒に男爵家を少しの間、維持して貰いたいのよ。多分あの堪え性のない王女なら一年ってとこかしらね。」
母は思ったよりも王女のことをわかっているらしい、と気づいたのはそれから少ししてのことだった。
要は監視役と言うのだろう。アンジェリカの行動は彼らによって逐一王女に報告され、アンジェリカは精神的に追い詰められていた。
ただ彼らの中にも、アンジェリカの味方は何人か紛れ込んでいるようで、アンジェリカの偽物がいるとしか思えない誤情報もその中に紛れ込むようになっていた。
彼らの中には、アンジェリカに純粋に憧れを抱いていて、うっかり見間違えてしまった者や、アンジェリカに憧れを抱くあまり、自分がそうだと思い込んでしまった者もいた。
王女は聞いてもいないのに、その情報を小出しにしては、こちらの反応を見て楽しんでいる。
アンジェリカはうんざりした。彼女の茶会は、いつも彼女のご機嫌取りに終始する。
母が良く言っていた「王女様は茶会の仕方を知らない」と言うのは言い得て妙と言ったところだ。
彼女は茶会の作法を知らずに好きな事だけ話せば良いとさえ思っている。ならば、とアンジェリカは母と共に公爵家の為に動いてくれそうな人を探し始めた。
王女の求心力というのはどういうわけか、若い男性にしか発揮しない。社交界では全く力のない味方ばかり作る王女に本気で女王になる気があるのか、と問いたくなる。
「ただ王女の取り巻きに既成事実なんて作られたら逃げるなんてできなくなるわよ。」
母の言葉を聞いて、容易にその絵が想像できてしまうことに血の気が失せた。主人を簡単に裏切る人間に人生を台無しにされるなんて、冗談じゃない。
彼らと王女の関係は一見仲が悪いように見える。そこが小賢しいところだが、知っている人から見ればバレバレというのがまだまだ小娘だということだ。
「王女の取り巻きは何か赤いものを身に付けていることがあるからすぐにわかるわ。」
母から言われた通り、ヴィクトリアの愛する赤の主張が強く、彼らがマシューではなくヴィクトリアを主人にしていることは一目瞭然だ。
彼らは嘘つきだ。口では、マシューを主人だと言い、アンジェリカを守りたいと言い、ヴィクトリアに情報を流す。淑女教育で培った忍耐力がなければ、アンジェリカは嫌悪を彼らに顕にしていただろう。
茶会での情報源は侍女のレア。彼女は王女の犬だ。ジョシュアが彼女に火傷をさせた時は、うっかり頬が緩みそうになってしまった。だってそのおかげで一時的にも監視が離れたのだもの。それから、密かにジョシュアには恩義を感じていたから、彼から話が来た時は、一も二もなく、飛びついてしまった。
彼から最初に聞いた相談は「恋人と平民になりたい。」だった。
「それは可能だけど、侯爵家の後継者としては良いわけ?貴方一人っ子でしょう?」
「一族には優秀な奴もいるから大丈夫。」
「平民になるのは、恋人も承知のことなのね。」
「彼女は男爵家の庶子なんだ。元は平民で貴族が辛いって言っているから、大丈夫だ。」
ジョシュアはそう言っていたが、女の子が男性と女性の前で態度が違うのは良くある話。
恋人の前では謙虚でも、実は野心を持っていたりするのはよくあること。会ってみないと本音はわからない、とアンジェリカは彼女を茶会に呼んだのだが。
見事にジョシュアの言う通りの女の子が現れた。彼女はドレスすら満足に持っていなかったようで、公爵家で着せ替えされた後、言葉を無くしていた。
公爵家のキラキラした様子に、場違いを感じ、縮こまる姿はまさに小動物のようで。アンジェリカは勿論、母も気に入ったようだった。
彼女は男爵家に愛着はあまりない、と正直に話した。男爵夫人は自分を嫌いだけど面倒は見てくれるのでありがたいとは思っているが、メイドの態度も酷く、八つ当たりみたいなことをされていた。
「最初の挨拶で私間違えちゃって……義理の母であるその人に、ついおばさん、って言っちゃったんです。」
ブフッ、と吹き出したのは、母。
「失礼。貴女からしたら、おばさんで合ってるけど。それで、彼女の不興を買ったのね。」
「はい。ジョシュアにはいつも平民になりたいってずっと言っていて、彼は優しいから、なら俺も、って。一緒に平民となれば、きっと彼には苦労をかけるから、私が作法を覚えるしか道はないってわかってはいるんですけど。」
「なら、貴女。こんなシナリオはどうかしら。」
シナリオは母が担当して、やりすぎな部分はアンジェリカが対応する。
演技に不安そうなクロエだったが、礼儀作法をアンジェリカが見るということで話がついた。
「悪いんだけど、平民になるのは少し待って貰える?貴女にはジョシュアと一緒に男爵家を少しの間、維持して貰いたいのよ。多分あの堪え性のない王女なら一年ってとこかしらね。」
母は思ったよりも王女のことをわかっているらしい、と気づいたのはそれから少ししてのことだった。
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