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25章
おヨメさまと大隊長
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黒いアフロ頭に巻き角、そしてワインレッドの詰襟の燕尾の付いたジャケットを着ている。
レベン・タナ―さんは、火の塔の警備兵の人だろうか?
下に居る黒いアフロの羊獣人達には燕尾の部分は無かったはずだ。
だとしたら、考えられるのは……彼等より特別な制服を着用出来る上の階級かもしれないということ。
「なにか、御用ですか?」
「いやね、うちの部下達がレディ一人、おもてなし出来なかったようで」
「結構です。直ぐに出て行ってください!」
「つれないなぁ。まぁ、俺と一緒に行こうか」
「行きませー……きゃあっ!」
言い終わる前に腰を抱かれて、足をバタつかせて窓枠にぶつけながらも外に担ぎ出された。
「ひゃぁぁ」
高所恐怖症の私に、なんてことするのー!!!
悲鳴を上げながら降りたものの、多分悲鳴は掠れてか細かったと思う……お腹に力が入らないのだから悲鳴にもならないのは仕方がない。
「アカリ!?」
「「「大隊長!!」」」
ルーファスの声を掻き消すように、黒アフロ達がレベンさんを「大隊長」と呼んだ。
「お前等、鈍ってんじゃねぇーぞ。犬と狼を相手に戦えるなんて思うんじゃねぇ! こういう時は、撤退か___人質だろ?」
レベンさんに片手で両腕を持ち上げられて、顔の近くに炎が差し出された。
チリッと髪が嫌な匂いをだして、焦げたのかもしれない。顔が熱くて目が炎の明るさでよく見えない。
腕は痛いし、私は元々体力がそんなに無いし、今日は階段下りで疲労困憊でハーブとポプリとルーファスで癒されて治すつもりだっただけに、この黒アフロ達……私の癒し時間をなんだと思っているのか!?
私は、怒っている!!
ただでさえ、楽しい二人だけの旅行に水を差されて、挙句にこの扱い……絶対に、許せない!
「うぅ……【水玉】【水玉】【水玉】【水玉】!」
ゴボッとレベンさんと私を包む巨大な水玉を出して、水中戦である。
レベンさんの炎が消え、水中ならば腕が持ち上げられても、自分の体重で腕が痛むことはない。
水玉の中でレベンさんが再び炎を出すが、瞬時に炎は消える。
グリムレインと私が主君契約で結ばれている以上、火魔法の最大火力でも出さなければ炎を呼び出すことはできない。
絶対にルーファスの足手まといになるわけにはいかない。
人質なんて冗談じゃない。何より、レディと呼んでおいて、この扱いは無い。
ギルさんに会った時もそうだけど、レディと人に言う人ほど信用の出来ないものは無いのである。
「アカリ!!」
ルーファスが心配そうな声を出しているけど、私だって頑張れるから心配しないでって、言えるように、負けられない。
掴まれた腕に力が籠められ、痛みで片目をつぶってしまったけど、ルーファスが心配してしまうから、ここは笑っておこう。
それに、水玉内では酸素は吸えない分、先に酸素切れを起こすのはレベンさんだ。
ボコボコと水玉の中で気泡のような物が上がる。
温度が上昇し始めて、握られている手も熱いのか痛いのか分からない。
でも、私はグリムレインの主君なのだから火竜ローランド以外の火の熱で負けるわけにはいかない。
グリムレインにも胸を張って、頑張ったよって言うんだから、水玉の温度は上げさせない。
温泉の中に比べたら、このぐらいは温い方だ!
しばらくの間、私とレベンさんの温度合戦が続き、『嫁は我の嫁なのだから、負けるわけはない!』と、グリムレインが言いそうな言葉が頭を過り、凍るほどの水の温度が出た。
手が突然離れ、外の黒アフロ達が水玉に近付くのをルーファスとケイが獣化して前に立ちはだかると黒アフロ達も獣化して一塊になって「メェェェ」と声を上げて、どこかパニックのような状態になる。
私は、ようやく自由になった手を水玉の中で見て赤く火ぶくれて爛れていることに気付く。
ああ、これはヒドラのクリスタルの修復で治す傷になりそうだ。
レベンさんを見れば、水玉の中で獣化して沈んでいた。
水玉を消して外の外気を吸うと、ハァハァと息を吸うことだけで精一杯になってしまう。
「アカリ! 【回復】大丈夫か!?」
「ハァハァ、ハ―……ハァ、ふぅ、ハァ、だい、じょぶ。ハァハァ」
「【乾燥】! 無茶はするなといつも言っているだろう!」
「ハァー、ふぅ、でも、勝った、よ、ハァハァ、あー、息が苦し……」
レベンさんは獣化したまま地面に倒れている。
「「「大隊長~っ、メェェェ」」」
「うるさい羊共だ! 黙らんと一匹ずつ噛み砕くぞ!」
「ハァ、んっ、ルーファス、レベンさんは?」
「羊族は諦めが早い一族だ。負けを認めると全てを放棄する。大方、仮死状態なんだろうさ」
「はふ、それ、大丈夫?」
ルーファスが私に擦り寄ってから、レベンさんの元へ行き、徐に足で胸を勢いをつけて踏みつける。
ビクンッとレベンさんが体を揺らして顔を上げると、ルーファスの姿を見てまたパタリと地面に倒れる。
「チッ、これだから軟弱な羊族は……、うちのプリシーを見習ってから出直してきて欲しいものだな」
怒れる羊獣人、我が【刻狼亭】の女性従業員【羊狼】のプリシー元冒険者で薙刀使い。
火羊を相手に幼少期は育っていた為、可愛い顔をして凄く強くて、昔からの私のお喋り友達である。
エッチな下着とか色々教えてくれていた為に、ルーファスに下着部門にまわされてしまったけど、プリシーとこの人達を一緒にしちゃいけない。
「ケイ、こいつ等の毛刈りだ」
「はい! どうぞ! ハサミです」
ニッコリ笑顔でハサミを渡したのはミッシャさんで「羊毛~」と歌うように言いながら、ケイにもハサミを渡している。
「「「やめ、ヤメテェェェェ!!」」」
黒い羊たちの悲鳴が上がり、ジョキジョキという音がベネティクタの都市に響き渡ったのだった。
実は羊獣人は狼族や犬族の一部の人を見ると体が硬直してしまったり、獣化してしまったりするのだそうだ。
ケイはシープドックという牧羊犬の種族でもあるので、羊獣人達にとっては天敵で、狼族であるルーファスが恐怖の大魔王くらいの天敵なのだそうだ。
絵本とかでも、ヤギとか羊は狼に襲われやすいからね……仕方がない。
レベン・タナ―さんは、火の塔の警備兵の人だろうか?
下に居る黒いアフロの羊獣人達には燕尾の部分は無かったはずだ。
だとしたら、考えられるのは……彼等より特別な制服を着用出来る上の階級かもしれないということ。
「なにか、御用ですか?」
「いやね、うちの部下達がレディ一人、おもてなし出来なかったようで」
「結構です。直ぐに出て行ってください!」
「つれないなぁ。まぁ、俺と一緒に行こうか」
「行きませー……きゃあっ!」
言い終わる前に腰を抱かれて、足をバタつかせて窓枠にぶつけながらも外に担ぎ出された。
「ひゃぁぁ」
高所恐怖症の私に、なんてことするのー!!!
悲鳴を上げながら降りたものの、多分悲鳴は掠れてか細かったと思う……お腹に力が入らないのだから悲鳴にもならないのは仕方がない。
「アカリ!?」
「「「大隊長!!」」」
ルーファスの声を掻き消すように、黒アフロ達がレベンさんを「大隊長」と呼んだ。
「お前等、鈍ってんじゃねぇーぞ。犬と狼を相手に戦えるなんて思うんじゃねぇ! こういう時は、撤退か___人質だろ?」
レベンさんに片手で両腕を持ち上げられて、顔の近くに炎が差し出された。
チリッと髪が嫌な匂いをだして、焦げたのかもしれない。顔が熱くて目が炎の明るさでよく見えない。
腕は痛いし、私は元々体力がそんなに無いし、今日は階段下りで疲労困憊でハーブとポプリとルーファスで癒されて治すつもりだっただけに、この黒アフロ達……私の癒し時間をなんだと思っているのか!?
私は、怒っている!!
ただでさえ、楽しい二人だけの旅行に水を差されて、挙句にこの扱い……絶対に、許せない!
「うぅ……【水玉】【水玉】【水玉】【水玉】!」
ゴボッとレベンさんと私を包む巨大な水玉を出して、水中戦である。
レベンさんの炎が消え、水中ならば腕が持ち上げられても、自分の体重で腕が痛むことはない。
水玉の中でレベンさんが再び炎を出すが、瞬時に炎は消える。
グリムレインと私が主君契約で結ばれている以上、火魔法の最大火力でも出さなければ炎を呼び出すことはできない。
絶対にルーファスの足手まといになるわけにはいかない。
人質なんて冗談じゃない。何より、レディと呼んでおいて、この扱いは無い。
ギルさんに会った時もそうだけど、レディと人に言う人ほど信用の出来ないものは無いのである。
「アカリ!!」
ルーファスが心配そうな声を出しているけど、私だって頑張れるから心配しないでって、言えるように、負けられない。
掴まれた腕に力が籠められ、痛みで片目をつぶってしまったけど、ルーファスが心配してしまうから、ここは笑っておこう。
それに、水玉内では酸素は吸えない分、先に酸素切れを起こすのはレベンさんだ。
ボコボコと水玉の中で気泡のような物が上がる。
温度が上昇し始めて、握られている手も熱いのか痛いのか分からない。
でも、私はグリムレインの主君なのだから火竜ローランド以外の火の熱で負けるわけにはいかない。
グリムレインにも胸を張って、頑張ったよって言うんだから、水玉の温度は上げさせない。
温泉の中に比べたら、このぐらいは温い方だ!
しばらくの間、私とレベンさんの温度合戦が続き、『嫁は我の嫁なのだから、負けるわけはない!』と、グリムレインが言いそうな言葉が頭を過り、凍るほどの水の温度が出た。
手が突然離れ、外の黒アフロ達が水玉に近付くのをルーファスとケイが獣化して前に立ちはだかると黒アフロ達も獣化して一塊になって「メェェェ」と声を上げて、どこかパニックのような状態になる。
私は、ようやく自由になった手を水玉の中で見て赤く火ぶくれて爛れていることに気付く。
ああ、これはヒドラのクリスタルの修復で治す傷になりそうだ。
レベンさんを見れば、水玉の中で獣化して沈んでいた。
水玉を消して外の外気を吸うと、ハァハァと息を吸うことだけで精一杯になってしまう。
「アカリ! 【回復】大丈夫か!?」
「ハァハァ、ハ―……ハァ、ふぅ、ハァ、だい、じょぶ。ハァハァ」
「【乾燥】! 無茶はするなといつも言っているだろう!」
「ハァー、ふぅ、でも、勝った、よ、ハァハァ、あー、息が苦し……」
レベンさんは獣化したまま地面に倒れている。
「「「大隊長~っ、メェェェ」」」
「うるさい羊共だ! 黙らんと一匹ずつ噛み砕くぞ!」
「ハァ、んっ、ルーファス、レベンさんは?」
「羊族は諦めが早い一族だ。負けを認めると全てを放棄する。大方、仮死状態なんだろうさ」
「はふ、それ、大丈夫?」
ルーファスが私に擦り寄ってから、レベンさんの元へ行き、徐に足で胸を勢いをつけて踏みつける。
ビクンッとレベンさんが体を揺らして顔を上げると、ルーファスの姿を見てまたパタリと地面に倒れる。
「チッ、これだから軟弱な羊族は……、うちのプリシーを見習ってから出直してきて欲しいものだな」
怒れる羊獣人、我が【刻狼亭】の女性従業員【羊狼】のプリシー元冒険者で薙刀使い。
火羊を相手に幼少期は育っていた為、可愛い顔をして凄く強くて、昔からの私のお喋り友達である。
エッチな下着とか色々教えてくれていた為に、ルーファスに下着部門にまわされてしまったけど、プリシーとこの人達を一緒にしちゃいけない。
「ケイ、こいつ等の毛刈りだ」
「はい! どうぞ! ハサミです」
ニッコリ笑顔でハサミを渡したのはミッシャさんで「羊毛~」と歌うように言いながら、ケイにもハサミを渡している。
「「「やめ、ヤメテェェェェ!!」」」
黒い羊たちの悲鳴が上がり、ジョキジョキという音がベネティクタの都市に響き渡ったのだった。
実は羊獣人は狼族や犬族の一部の人を見ると体が硬直してしまったり、獣化してしまったりするのだそうだ。
ケイはシープドックという牧羊犬の種族でもあるので、羊獣人達にとっては天敵で、狼族であるルーファスが恐怖の大魔王くらいの天敵なのだそうだ。
絵本とかでも、ヤギとか羊は狼に襲われやすいからね……仕方がない。
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