別れてくれない夫は、私を愛していない

abang

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綺麗にメイキングされた大きなベッド。
程よく灯り、雰囲気を演出するキャンドルに先程メイド達が丁寧に準備してくれたおかげで髪も肌もいい香りがして、いつもより幾分か薄着の自分が部屋のドレッサーの鏡に写ると落ち着かない。


じっとしていられなくて部屋を練り歩く自分に呆れるが、それでもやはり落ち着かない。



(シドも緊張しているのかしら……)



少し時間が経ってもシドが来ないので不安になり、扉を少し開けて隙間から「誰か居る?」と控えめに聞くと護衛騎士が「はい」と返事をした。



隙間から見える騎士の数がやけに多い事に気付いて、一度扉を閉めてガウンをしっかり羽織ると扉を開けようとしたが開かない。


「あの、エジー卿?騎士の皆さん?」


「申し訳ありません、妃殿下。シド殿下より絶対に部屋から出ないようにとの言付けられております」


「シドが?何かあったの……?」

「少し問題が起きましたが、殿下はご無事です」

「ですが、妃殿下は危険なので部屋に居るようにと」

「……分かったわ。可能なら着替えと侍女のソラを呼んで頂戴」


侍女兼護衛騎士でもあるソラは王宮の騎士達の訓練にも時々顔を出す為に顔見知りの筈だ。そう思ってお願いすると、


扉の前を守っているエジーの代わりに扉の向こうからソラが返事をした。

「エレノア様、ソラは此処におります!直ぐにお待ちしますね!」


「お願いするわ、気をつけてね。一人にならないで」

「はい!」


ものの数分で戻ったソラの顔色は真っ青で、彼女のドレスの裾には血液が付いていた。



「ソラ!!怪我は!?」

「け、怪我はありません……ですが……っ」



長くなりそうだと騎士達に聞いて、軽食をお願いしに厨房に寄った後、エレノアの着替えを取りに上の階へあがろうとした時、


「ソ……ラ……」

「えっ……きゃぁ!!!」


黒ずくめで初めは分からなかったが、青白い顔をしたアッシュに似た男がソラを追いかけて来たらしい。

相手がナイフを持っていたのもあって、他の騎士が待っている所まで、あまりにも不気味だったのが相まって思わず逃げて来たと言う。




「我に返って応戦しようとした時に、他の騎士と会ってエレノア様をお守りしろと言われて一心に駆けて来ました」



「……アッシュが、居たのね」



「!」

「エレノア様、念の為着替えて奥でお待ち下さい」

「ええ」


騒がしい雰囲気で分かる、きっとアッシュは何処かに隠れながら逃げているのだと。



(どうして……なんの為に?)



「私を、恨んでる……?」


「エレノア様?」


「ソラ、私行くわ」


ソラを見つけたのならきっとあとをつけて来ている筈。
私が姿を現せば、もし彼がアッシュなら彼も姿を見せるだろう。



「エギー、王太子妃命令です。扉を開けて」

「ですが……!」

「大丈夫よ。廊下に出るだけ」

(きっと何処かに隠れてる)




「妃殿下、私達から離れないで下さい。どうやら、深夜だと言うのにアイリーン嬢も登城されたそうです」


「アイリーン?」


「アッシュを連れて来たのは彼女だそうです」


「え……」


ゆらり、視界に映る黒と赤。
あれは本当にアッシュなのか?
濁った瞳で此方を見つめるその足元には血溜まり、
あの出血では、もう助かるかどうか……


「え、れ……ノ、ア」

「な、何してるの?帰って」


「ご、め………」

「ーっ、近寄らないで」


「あ……ぃ……」

(あいしてる、エレノア、愛してる)





「お前にそれを伝えさせないよ」


昔から、一瞬にして安心感を与えてくれる大好きな声。

アッシュの声が何か言葉を紡ぐ前に、

彼はシドによってその言葉の先を封じられた。



その様子が見えないのは、駆けて来た強い薔薇の香りの持ち主が私の目の前を遮ったからだ。


「アイリーン?」

「ごめんなさい……っ、私の落ち度なの」



じわりと彼女の体温が熱くて汗が滲んでいる。

シド同様、息を切らせている彼女は珍しく支度も程々に慌てて来たのだと何となく分かった。

辛うじて見えるアイリーンの足元は、いつものハイヒールではなく裸足で、どくどくと大きく波打つ心臓の音が彼女の精神状態を物語っている。


「だから、どうか貴女は見ないで」


シドが剣を引く音と、多分アッシュが崩れ落ちたのだろう音が耳に届いて思わず息を止めた。


騎士達が浅く息を吸ったのが分かった。

「こんなつもりじゃ無かったの」と私の頭を抱いたまま謝罪するアイリーンにも今は何と声を掛けるべきか分からなかった。























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