王太子様、丁寧にお断りします!

abang

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ちゃんと見てますけど

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とある夜会、挨拶に来たり声を掛けてくれる人達からやっとの思いで抜け出して一際目を惹く美しいフレイヤの元へと早足で向かう。

(こんな時は広い会場が憎いよ)

「フレ……」

待ちきれず少し手間で声をかけようと片手を挙げた所で気付く、この辺りに人が多いのはフレイヤもまた自分同様、皆に囲まれているのだと。


緩んだ顔でフレイヤの隣を陣取る子息につい嫉妬する。

そんなことにも気づかないフレイヤは皆と談笑している。

ひとつ、安心出来る事といえばさっきから猛アピールしている男達とフレイヤの会話が絶妙に噛み合っていない事だった。


「フレイヤ様、私はサンブリク侯爵家の者でニコルタと申します」

「ああ!サンブリク家の……!お父上に宜しくお願いしますわ、トゥリオ」

「いや、私はニコルタ……」

「フレイヤ様、フレイヤ様はどんな男性がお好きですか?」

「ふふ、私の足のサイズは二十三センチですわ」

「え……いや違っ……」


「……」

(あれは絶対に早くあっちの菓子にありつきたいんだ)



周りに居る令嬢達は俺を見て頬を染めているし、自分で言うのも何だがかなり目を引く方だと思う。

(だって王太子だし)


なのに、一向にこっちに気付かないフレイヤの自分に対しての興味はどれくらいだろう?その男よりは興味を持ってくれてる?菓子には負けるか。


なんて柄にも無く落ち込みそうになった所で、いつの間に近くに来たのかティリア嬢もまた人をすり抜けて来たようだ。

クスクスと笑ってフレイヤを見ている彼女は「何ですかその表情は」と笑った。


「いや……別に何でもないんだ」

「気付いてますよフレイヤはもう」

「え?」

「あれでも一応公爵令嬢として務めて居るんですよ」

「……わかってる」

「形だけですが、見て下さいあの子息達の表情」


「あー可笑しい。適当過ぎませんか?」って笑うティリア嬢を横目で見てからフレイヤから目を離せないで居ると、一人の子息がフレイヤの肩に触れようとする。


「……ふふ!!あれが許されるのは特権よね」

「……本心を言うとホッとした」


笑顔を貼り付けたまま、その勢いで行く?ってほど強く子息の手を払ったフレイヤは「ふぅ」と短く息を吐いてから顔を上げた瞬間、目が合った。



(いや、ティリア嬢か……?)


「違いますよ、フレイヤは元々私を認識してるしもう話しました」

「お、れ?」


目が離せなくて、彼女の薄紫色の瞳に吸い込まれるようにゆっくりとフレイヤの元へと歩いて行くと遠慮がちに場所を譲る貴族達、悔しそうに顔を歪める子息達なども目に入らないままフレイヤの前に立った。


「ルディ様、ごきげんよう」

「フレイヤ……」

「どう言う顔なのでしょうか?」

「やっとこっちに気付いてくれたって顔」

「ずっと知っていましたよ」

「見向きもしなかった癖に」

「これでも一応公務中ですので」



「か、会話が成り立ってる!」

「目が合ってる!」

と至極当たり前な筈の事に驚く子息達に見向きもせずに俺のエスコートを当然のように受けるフレイヤの行動はまるで俺にだけそれを許しているかのようで、周りも同じことを考えているのか、

フレイヤと王太子殿下はやっぱり……!ってヒソヒソと盛り上がっている。




「今日はずっと君に辿り着けないかと思った」

「大袈裟ですね、王太子なんだからそんな筈はないでしょう」

「君が俺を見てくれないから」

「ちゃんと見てますけど」

「えっ?」



「お、王太子殿下っ!あのっ!!」

「殿下はティリア様と、その……お付き合いを……」

「私!殿下をお慕いしています!」


負けるものかと押しかける令嬢達のタイミングはそれこそ最悪で、

良い雰囲気だったのに、真っ直ぐに俺だけを見つめていた薄紫の瞳はもう向こうの菓子に移っている。

令嬢達に苦笑して、ちゃんとお断りしようと「ごめんね」とやんわり距離を取る。

女の子は可愛いけど、特別な人はフレイヤだけなんだって堂々と言えたらいいのにって一瞬考えると食い下がる令嬢達に割って入ったのはフレイヤだった。



「ごめんなさい可愛いご令嬢方、話の途中だったのだけれど殿下を少しお借りしてもいいかしら?」


「あっ、すみません!」

「え、ええ!勿論ですっ」

慌てて引き下がる令嬢達では到底勝てないだろう美しい容姿を存分に魅せて、余裕ある笑顔で首を傾げたフレイヤ。


「では、失礼いたしますわ」

「フレイヤ」

「なんでしょう」

「それは、期待してもいいんだろうか」

「何のですか?食事ならコックに言って下さいね」

「……いや、なんでもない」






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