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王太子の危機に通りすがり
しおりを挟む公務の帰りだった。
いつも人が引っ付いている所為か偶に一人になりたくなる時がある。
フレイヤの邸までの道程を無理矢理、我儘を言って一人で歩いているといかにも「待ってました」と言わんばかりの男達。
(いや、多すぎるわ)
「お~っとお貴族サマだな~?ちょっと一緒に来てもらうぞ」
なんて言う割にはその他の男達から聞こえる「王太子ならいくらの身代金が妥当だ?」なんて声に確信犯だろと心の中で悪態をついた。
「ってゆうかお前の髪型、それは何だ」
「……うるせぇ!なんか文句あんのか!」
やけに目立つ、片方が坊主で片方だけ伸びた往生際の悪い髪型は不自然な上に笑いを誘う。
「やけにウケる」
「おい、王太子がウケるとか言うな」
「なんでそうなった」
「いきなり真剣な雰囲気で聞かれても言わねぇぞ!?」
「……てゆうかやっぱ俺のこと知っているな?」
「お、お前ら!痛めつけて捕らえろ!!」
「そう簡単に捕まるなら、一人で歩くわけないだろう」
剣を構えたルディウスは次々と薙ぎ倒して行く、騒ぎにならないよう比較的人通りの少ない場所を通ったのが災いして街の人達は余りにも多い敵の数に怯えて家から出てこない様子だった。
「ま、返って動きやすいか」
(けど……余りにも多いな……)
気になる事と言えば時々、骨折したり顔が腫れあがっているような怪我人が居ること。敵ながら同情さえも感じる姿だ。
「一体、何人居るんだ。キリがないな……」
「さっさと捕まっちまえよ~!!なァ!?」
変な髪型の奴がニタニタと剣を振り上げたいその時、すごいスピードでルディウスを追い越した人影はその男を後ろの奴達もろとも突進して地面に打ち付けた。
それと同時に香る、愛して止まない香り。
「フレイヤ……?」
「あら、ルディ様。今日は来ないのかと思ったわ」
「まさか探しに……」
「いや、散歩です」
「……そう」
「お、親分!!!」
一人が地面にめり込んでいる男を見て悲壮感溢れる声色で叫ぶと、フレイヤは周りを見渡してニッコリと笑った。
「フレイヤ!ここは危険だ。狙いは俺だ、君は逃げて助けを……」
「この人は私の……下僕ですの。貴方達懲りずにまだ人攫いを?」
ガタガタと震える親分と呼ばれた変な髪型の男を低めのヒールで踏みつけて何処から出したのか短剣をクルクルと回すフレイヤ。
(普通に君がチンピラだ)
「髪、気に入った?この間は外したけれど次は頭を真っ二つにするって言わなかったかしら?」
「いや、犯人君か」
「ルディ様は黙ってて下さい、遅刻した話は後で聞きます」
「遅刻って……フレイヤっ待っててくれたん……だ、え!?」
「ひぃい!ぐぇ!ご、ごめんなさい許してくれ!!」
不覚にも華麗だと思った。
前々からそんな気がしていたし、彼女はあの謎に包まれた公爵家の令嬢だ……あり得ない事はない。
「んなわけあるか!令嬢一人で半数倒すなんて!」
「ルディ様、手伝うか逃げるかして下さい!」
「ま、守るに決まってる!巻き込んですまない」
合わせた背中が温かくて、頼もしかった。
結局、全員土下座させて癖なのか短剣をクルクル回しているフレイヤは治安部隊が到着するまでコイツらに前回拐われかけた話をしてくれた。
「……それで、怖かったので頭を二つにしようとしたら失敗してあの髪型になったんです。少し整えたみたいですが」
「うん……俺はフレイヤが怖いよ」
「……お嫌いですか?」
「……っ!寧ろ、頼もしいよ」
「あ、逃げそう」
バシュッと取り上げたナイフを投げて足に命中させるフレイヤ。
(エイム率、マル)
「いやいやいやいや、フレイヤ!」
「なに?」
「そう言うのは俺がするよ」
「まず、まだ先にいた仲間らしき者達は私の護衛がノシました」
「えっ?」
「先に走ってきたのは、貴方を守る為です」
「……」
「例えば、これは例えばですが」
「うん」
「王太子妃は時には盾となって夫を守るものでしょう?」
「いや、違う。そうなったらもう騎士だ」
「え……?」
「ってゆうかフレイヤ」
「はい?」
「やっぱり、それって脈アリだと思ってもいいよね?」
「……治安部隊の皆様、この人が不審者です」
「いえ、それは殿下じゃ……っ」
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