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どうか弟子にして下さい!!
しおりを挟む俺は今非常に困っている。
騎士団の練習を見たいと行ったフレイヤがティリア嬢と登城した、そこまでは良かった。
時元々興味があるのか、手合わせする者達を見ながら時折会話をする二人と俺は「ああ穏やかだなぁ」なんて少し気を緩めたが、むさ苦しい大声で我にかえることになる。
「王太子殿下にご挨拶致します!!!」
「アメノーズ公爵令嬢と、グレイモン侯爵令嬢にご挨拶致します!!」
「「「!!」」」
突然こちらを向いて整列した全員が声の届く範囲まで出て来ていて、挨拶ならさっきも代表者としたし、邪魔にならないよう皆には集中してくれと伝えている筈なのに……と反射的に当たり障りない返事をしながらも胸中でしっかり混乱していると、
「あの……大変無礼だと承知の上ですが……」
顔色を窺うようにおずおずと話し始める騎士団長と、それに並ぶ副団長。
フレイヤとティリアは目をぱちくりさせて「?」を頭に浮かべている。
勿論、俺も訳がわからず「なんだ?」と聞き返すだけ。
「「で、弟子にしてください!!」」
「「……」」
「えーっと、それは俺の?」
(王宮の騎士団が今更?なんで?)
意図が分からず、父上の悪戯かと辺りを見渡しても父上の護衛騎士すら見えない上に他の気配も感じない。
フレイヤとティリアな何事だと一瞬不思議そうにしたものの、完璧に令嬢としての佇まいで、話の腰を折らないように待っている。
「い、いえ。違います…….」
「あーでも、私兵以外は一応父上にも相談しないと……って、え?」
「申し訳ありません殿下!!」
ギョッとしたように地面に膝と手をついて頭を下げる団長達に習って他の騎士達も頭を下げる。
視界の端に写るフレイヤはこの状況に飽きてしまったのか、完璧に見せているがその瞳と笑顔は空っぽで別の事を考えているだろう。
ティリア嬢はそんなフレイヤが面白いのか、彼女もまた完璧に見せながらもその瞳はフレイヤに釘付けで、「次は何をやらかしてくれるか」と見張っているようにも見えた。
そんな二人の外面にすっかり見惚れている者も多数居るが、忘れたのだろうか俺の婚約者は美しいだけじゃない、すごく変人なんだぞ。
そんな事を考えるているとは知らず、「言うか」「大丈夫だろうか」と躊躇する騎士達にこれでは埒があかないとふぅと息をついてから彼らに向き直った。
「違うとは?」
「その、ふ……」
「まて」
「は、はい!」
(ふ?フって言ったな。まさか……)
「言ってみてくれ」
「フレイヤ様の弟子にして頂きたいのです!!!」
「いやなんで?」
「ティリア嬢……気持ち分かるよ」
思わずツッコんでしまい「しまった」と珍しく顔に出したティリア嬢に共感する。
あれ?やけに静かだなとフレイヤを見ると気付く。
立ったまま寝てる?
「殿下、フレイヤの意識が旅に出ました」
「やっぱりな」
女性の安定の悪い靴を考えて、ふらついて倒れてしまわないかと心配しているとグラつくフレイヤの身体。
その感覚にハッと目を覚ますフレイヤを支えようとすれば、彼女の身体は片手をついて華麗に一回転すると何事も無かったように佇んだ。
少し照れくさそうな顔が可愛いが、
「いま、何が起きたんだ?」
「私にも分かりませんわ殿下」
「「「おぉ~~さすがだ!!!」」」
パチパチと手を叩いてフレイヤの運動神経を讃える騎士達が一斉にフレイヤに頭を下げる。
「「「フレイヤ様、弟子にしてください!!」」」
「え……っと、ルディ様」
「フレイヤの判断に任せるよ、許可は私が父上に取ろう」
「でも、王太子妃教育なら他に適任者が居ると思うの……」
「俺もこんなゴツい王太子妃いらない」
「うん、絶対王太子妃教育ではない」
ルディウスとティリアのツッコミが決まった所で「おぉ~!」とまるで名物を見たかのように喜ぶ皆をスンとした表情で見るフレイヤに、
「「お願いします!!」」
「ずっとフレイヤ様のお強さに憧れていました!」
「……お断り致します」
「そこを何とか!騎士団の成長の為に……!」
「私、剣はあまり得意ではないですが」
そう言って短剣を隠しているであろう部分を摩り、困ったように眉を下げた。
「大丈夫だよフレイヤ、可愛い手足が既にもの凄く凶暴だから」
「ルディ様、そんなにほめないで下さい」
「大丈夫かなこの二人」
結局公務と王太子妃教育の間で良いならと引き受けたフレイヤによって、クタクタになる事を皆はまだ知らない。
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