王太子様、丁寧にお断りします!

abang

文字の大きさ
33 / 42

どうか弟子にして下さい!!

しおりを挟む

俺は今非常に困っている。


騎士団の練習を見たいと行ったフレイヤがティリア嬢と登城した、そこまでは良かった。


時元々興味があるのか、手合わせする者達を見ながら時折会話をする二人と俺は「ああ穏やかだなぁ」なんて少し気を緩めたが、むさ苦しい大声で我にかえることになる。



「王太子殿下にご挨拶致します!!!」

「アメノーズ公爵令嬢と、グレイモン侯爵令嬢にご挨拶致します!!」


「「「!!」」」


突然こちらを向いて整列した全員が声の届く範囲まで出て来ていて、挨拶ならさっきも代表者としたし、邪魔にならないよう皆には集中してくれと伝えている筈なのに……と反射的に当たり障りない返事をしながらも胸中でしっかり混乱していると、


「あの……大変無礼だと承知の上ですが……」


顔色を窺うようにおずおずと話し始める騎士団長と、それに並ぶ副団長。


フレイヤとティリアは目をぱちくりさせて「?」を頭に浮かべている。


勿論、俺も訳がわからず「なんだ?」と聞き返すだけ。



「「で、弟子にしてください!!」」


「「……」」

「えーっと、それは俺の?」

(王宮の騎士団が今更?なんで?)



意図が分からず、父上の悪戯かと辺りを見渡しても父上の護衛騎士すら見えない上に他の気配も感じない。




フレイヤとティリアな何事だと一瞬不思議そうにしたものの、完璧に令嬢としての佇まいで、話の腰を折らないように待っている。



「い、いえ。違います…….」


「あーでも、私兵以外は一応父上にも相談しないと……って、え?」


「申し訳ありません殿下!!」

ギョッとしたように地面に膝と手をついて頭を下げる団長達に習って他の騎士達も頭を下げる。


視界の端に写るフレイヤはこの状況に飽きてしまったのか、完璧に見せているがその瞳と笑顔は空っぽで別の事を考えているだろう。


ティリア嬢はそんなフレイヤが面白いのか、彼女もまた完璧に見せながらもその瞳はフレイヤに釘付けで、「次は何をやらかしてくれるか」と見張っているようにも見えた。


そんな二人の外面にすっかり見惚れている者も多数居るが、忘れたのだろうか俺の婚約者は美しいだけじゃない、すごく変人なんだぞ。


そんな事を考えるているとは知らず、「言うか」「大丈夫だろうか」と躊躇する騎士達にこれでは埒があかないとふぅと息をついてから彼らに向き直った。




「違うとは?」

「その、ふ……」

「まて」

「は、はい!」


(ふ?フって言ったな。まさか……)


「言ってみてくれ」


「フレイヤ様の弟子にして頂きたいのです!!!」


「いやなんで?」 


「ティリア嬢……気持ち分かるよ」


思わずツッコんでしまい「しまった」と珍しく顔に出したティリア嬢に共感する。



あれ?やけに静かだなとフレイヤを見ると気付く。


立ったまま寝てる?


「殿下、フレイヤの意識が旅に出ました」

「やっぱりな」

女性の安定の悪い靴を考えて、ふらついて倒れてしまわないかと心配しているとグラつくフレイヤの身体。



その感覚にハッと目を覚ますフレイヤを支えようとすれば、彼女の身体は片手をついて華麗に一回転すると何事も無かったように佇んだ。


少し照れくさそうな顔が可愛いが、


「いま、何が起きたんだ?」

「私にも分かりませんわ殿下」





「「「おぉ~~さすがだ!!!」」」


パチパチと手を叩いてフレイヤの運動神経を讃える騎士達が一斉にフレイヤに頭を下げる。



「「「フレイヤ様、弟子にしてください!!」」」



「え……っと、ルディ様」

「フレイヤの判断に任せるよ、許可は私が父上に取ろう」

「でも、王太子妃教育なら他に適任者が居ると思うの……」

「俺もこんなゴツい王太子妃いらない」

「うん、絶対王太子妃教育ではない」


ルディウスとティリアのツッコミが決まった所で「おぉ~!」とまるで名物を見たかのように喜ぶ皆をスンとした表情で見るフレイヤに、


「「お願いします!!」」

「ずっとフレイヤ様のお強さに憧れていました!」



「……お断り致します」

「そこを何とか!騎士団の成長の為に……!」

「私、剣はあまり得意ではないですが」

そう言って短剣を隠しているであろう部分を摩り、困ったように眉を下げた。


「大丈夫だよフレイヤ、可愛い手足が既にもの凄く凶暴だから」


「ルディ様、そんなにほめないで下さい」


「大丈夫かなこの二人」




結局公務と王太子妃教育の間で良いならと引き受けたフレイヤによって、クタクタになる事を皆はまだ知らない。





 
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

うっかり結婚を承諾したら……。

翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」 なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。 相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。 白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。 実際は思った感じではなくて──?

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

憧れの騎士さまと、お見合いなんです

絹乃
恋愛
年の差で体格差の溺愛話。大好きな騎士、ヴィレムさまとお見合いが決まった令嬢フランカ。その前後の甘い日々のお話です。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

妾に恋をした

はなまる
恋愛
 ミーシャは22歳の子爵令嬢。でも結婚歴がある。夫との結婚生活は半年。おまけに相手は子持ちの再婚。  そして前妻を愛するあまり不能だった。実家に出戻って来たミーシャは再婚も考えたが何しろ子爵領は超貧乏、それに弟と妹の学費もかさむ。ある日妾の応募を目にしてこれだと思ってしまう。  早速面接に行って経験者だと思われて採用決定。  実際は純潔の乙女なのだがそこは何とかなるだろうと。  だが実際のお相手ネイトは妻とうまくいっておらずその日のうちに純潔を散らされる。ネイトはそれを知って狼狽える。そしてミーシャに好意を寄せてしまい話はおかしな方向に動き始める。  ミーシャは無事ミッションを成せるのか?  それとも玉砕されて追い出されるのか?  ネイトの恋心はどうなってしまうのか?  カオスなガストン侯爵家は一体どうなるのか?  

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...