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えっと、それは私の婚約者ですが?
しおりを挟む高位貴族だけの交友会、迎えた貴賓を相手する内に取り囲まれるルディウスとて万能ではない。勿論フレイヤもそうで異国の姫達とは言葉が通じない上にキャッキャとルディウスを囲んでベタベタ触っている。
ニコニコとしているフレイヤが逆に怖い。
そう、ティリアはとても不自然な親友の姿が怖くて仕方がない。
彼女の怖い所といえば何をするか分からないことだ。
とびきり奇天烈な、おかしな事を仕出かすのがフレイヤ・アメノーズなのだから。
だからこそ、フレイヤに近寄ってそっと耳打ちする。
「大丈夫?」
「何が?大丈夫よティリー……っ!?」
異国の姫達のお尻に押されるフレイヤ、困り果てオロオロするルディウスには見えていない様子で、ニヤリと微笑んだところを見るとこの姫達はフレイヤがパートナーだと理解している様子だった。
「フレイヤ」
「……ちゃんと我慢できたわ。長女だったから。次女だったら我慢できなかったかもしれないけど」
「なんか聞いた事あるなそれ」
「痣が……」
「どこに」
「お尻」
「安心したわ、なんか覚醒してなくて」
思ったよりも平気そうなフレイヤにほっとしたのも束の間次は姫の一人が、フレイヤの足先をぎゅっと踏んだ。
「……」
「痛いでしょう、もう我慢できないわ!」
「ティリー……」
「私が言ってあげるから待ってて。大体通訳は何処に……」
「ティリー」
「え?」
「痛いのはあっちなの……これつま先が鉄製なの」
「申し訳なさそうなのが逆に白々しいわ」
痛そうに悶える姫を心配する素振りで覗き込んだフレイヤの表情は特に変わらない。
そもそもこの五姉妹の通訳はどこに行ったのだと見渡してみると、彼女達の兄だと思われる王と、その弟と酒を酌み交わしている。
「奔放すぎる……」
「ねぇティリー、なんか目が合ったのだけど」
「え」
どれだけ早く歩いてきたのか、あっという間に私とフレイヤを挟む兄弟。
『美しいね、どこの令嬢だ?』
『兄上、こっちの令嬢も美しいぞ!』
全く言葉が分からない上に酔っているのか、通訳はまだ元の場所で一人でに話している。
(なんて役立たずなの……)
完璧な笑顔のフレイヤと、あからさまに顔を顰める私にまでデレデレとした表情で話しかける二人に冷や汗が伝う。
「何言ってんのかわかんねーよ」
「フレイヤ!?顔だけキメてたらいけると思ってるでしょう」
「イケる」
「無理だわ、不敬」
そうこう言っている内に、国王の方がフレイヤの肩を抱こうと手を添えた。
一応我慢しているらしいフレイヤの笑顔がピクリと反応するのを見てマズいと思った矢先、
あっちで酔っ払っていたはずの通訳の男が槍のようにフレイヤと国王の間を突き抜けた。
「!?」
「危なかったわ」
『なんだ!?この通訳は酔い潰した筈……!』
『兄上っ、こいつ意識が……』
驚く男達に聞こえる柔らかい謝罪の声、
「すみません、その男があまりにも怠惰なもので」
『お、王太子?』
「せっかくご用意した通訳でしたが、不敬は許さない事にしていまして」
(嘘つけ、婚約者が不敬すぎるくせに)
「特に、婚約者に対しての不敬は。……ね?」
ペチペチと頬を数回叩いて通訳の男を起こすと、小首を傾げて訪ねたルディウスの黒い微笑みにフレイヤ以外の者の顔が引き攣っている。
震えながら通訳という本来の仕事を果たす男はきっとフレイヤが誰かのかを説明しているのだろう。
相手は国王とはいえ小国。
大国の王太子ルディウスの婚約者だと伝えられたのだろう、顔を青くして謝っているようだった。
「フレイヤ、無事だった?」
「はい」
「もし、嫌なことをされたなら……」
「大丈夫です」
「そう。ティリア嬢も大丈夫だった?」
「あんた揉めるキッカケ探してません?」
「どさくさに紛れてフレイヤを狙う奴消しとこうと思って」
「「え」」
思わずあのフレイヤまでもが声を溢したところで、見かねたルディウスの父がやってきて場を和ませてくれてほっとした。
ルディウスの闇を見ることは珍しいが、
時々この人は腹黒いのでは?と思うほど彼のフレイヤへの愛情故の異常行動は黒く闇深いと感じで震えた。
(この二人ほんとに怖いわね)
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