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なんて事ない日常に
しおりを挟む「そう、スパイスを」
「こ、こうか?」
「そうです。良い感じ」
今日も私の愛する親友とその婚約者はどうにも変だ。
王族と貴族令嬢という料理とは無縁の二人に招待されたランチの時間には少し早いがいつも通りフレイヤと話そうと早めに来た。
なのに、目の前の二人は大きな鍋の前に立って何かを作っている。
どうにもルディウス殿下の護衛騎士によると、フレイヤが「人生にスパイスが必要なのだ」と言い出したのがきっかけでこうなったらしいが
「何してるの?」
「「料理?」」
そう言って手に持っているのは包丁ではなくいつもの短剣で、グツグツと煮えている鍋の中身が気になる。怖い。
「そっか、めっちゃ不安だわ」
「大丈夫!」
「えっと、どの辺が?」
「安心してくれティリア嬢。フレイヤは料理上手だ」
「短剣で食材殺してない?」
「気のせいだよ」
とてもユニークな手法で料理をルディウスに教えながら作っていくフレイヤを見つめていると、紅茶が出され馴染みある味に安心する。
「お茶を入れるのが上手なのよね、貴女って」
「ふふ、初めはね……ティリーの為に練習したの」
「えっ」
「どうしても自分で貴女にお茶を入れたくって」
「フレイヤ……っ」
二人の友情を目の前にして嫉妬するルディウスは子供のように頬を膨らませて会話に割って入る。
「俺にも好きな茶を出してくれる」
「お茶飲んでると静かだから」
「え"」
「ジョウダン、ジョウダン」
「ちょっと本気そうで不安なんだけど?」
「殿下、大丈夫ですよ。フレイヤが手ずから茶を出す事自体がとても珍しいことなので」
「そ、そうか」
「にやけないでルディ様」
「嬉しくて」
「……次、これを切って下さい」
「分かった!」
「いや、殿下それはもう剣だわ、変だろ」
「え?切るといえばこれしか手持ちがなくて」
「あそこの包丁は飾りですか?」
「ああ!これか!」
「ティリー、私は知っていたわ」
「嘘つけ、短剣に野菜刺さってるわよ」
「「……ははっ」」
「笑って誤魔化すな」
一体何が出来上がるのだろうとハラハラしていると「よし!」と機嫌の良さそうなフレイヤの声が聞こえてチラリと目をやる。
所々おかしな箇所はあるが、ルディウス殿下と並んで何かを作っているフレイヤは幸せそうで良かったと心から思う。
使用人達が手際よく盛り付けている間にサッと着替えを済ませたフレイヤ達も席に着く。
「所でこの簡易台所はどこから持ってきたの?」
「作ったの、どうしても料理をしてみたくて」
馴染みのメイド達が盛り付けていき、並べてくれた皿を見ると案外見た目は美味しそうな色とりどりの料理。
鍋の正体はどうやらシチューのようなものだったらしく、良い香りがする。
「召し上がれ」
味もシェフほどではないが美味しいし、心配する事無かったなと思っていると珍しく「おかわりを頂戴」とメイドに声をかけるフレイヤ。
「新しいメイド?」
「ほんとだな、俺も見た事がない」
「一週間前に新しく来た子よ、ね?ジル」
「は、はい!宜しくお願い致します」
「あ、よそう前にこのスパイスを少し足して頂戴?」
「承知いたしました!」
そうして新人メイドのジルが鍋の蓋を開けてフレイヤから預かったスパイスを少し足したところで大きな音を立てて鍋が噴火する。
「あっっっつ!!!!!」
暑いシチューをかぶって尻餅をつくジルの隣には小瓶が転がっている。
あれは何かと考えるより先に浮かぶ最大の疑問。
「どうやった今の?」
「名付けて人生にスパイスを作戦よ」
「会話にならない」
フレイヤ曰く彼女はどうやら誰も雇った覚えのない不審者らしく、隣に転がっている小瓶は毒だろうと言う事であった。
狙いは元々はルディウスだったらしいが、どうやら彼に惚れてしまったらしく逆恨みでフレイヤを狙うようになったらしい。
「よく一週間もそばに置いたわね」
「刺激的な一週間だったわ」
「見て、殿下すごく笑顔で怖い判断しそう」
「見ないふり」
「できるか!」
彼女の人生にスパイスを作戦は見事、多くの者達に叱られる形となって幕を閉じたがいまだにあのシチューが爆発した原理は不明である。
「ねぇあのシチュー食べたけれど体爆発しないわよね?」
「ええ、ティリーのは大丈夫よ!」
「私のは……?」
ゆっくりとルディウスを振り返る私の顔は青い。
「え!俺のは!?」
「……」
「フレイヤ!?」
「嘘です。大丈夫ですよ」
どうやら何か仕組みがあったようで、身体に害は皆無らしい。
「「よ、良かった!」」
「愛する人達を爆発させるわけないでしょう」
「「フレイヤ!!」」
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