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62.大切だから怒ってるの

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セイランはドレスを替える時点でなぜ気付かなかったのだろうと自分を責め続けている。

騎士学も帝王学も学んだレイヴンとしてはエリスの行動も理解できるし、クロフォードがどれほど素晴らしい騎士家系か知れば知るほどエリスはと言えるだろう。

どちらかと言えば王族らしくないのはセイランの方だ。
けれどそこが妻の好きな所のひとつなのだ。


セイランは王族らしく振る舞える時もあるが、どちらかと言うと天真爛漫で情に厚い。コロコロ変わる表情に救われるし守ってやりたいのだ。


正直、エリスの事は心配している。

けれども俺はエリスに「良くやった」と伝えるだろう。

彼女は庇護してやらなければならない程弱くはないし、きっとそう言ってやる方が良い筈だから。

けれどもとにかく無事に帰還しろと願った。



(今セイランの涙を止められるのはお前だけなのだから)

「泣くな、セイラン」

「レイヴン……っ」


レイヴンは言葉こそ少ないが慰めるようにセイランを抱きしめて、ひと時も離れないで居る。こんな時にも妻が愛おしいと思うのは不謹慎だろうか?


(無事に帰って、セイランを笑顔にする迄が仕事だぞエリス)




「両殿下!!」

「入れ」

護衛が扉を叩き、興奮したようにこちらを呼ぶ声色に安堵する。

大抵のこういう場合はジョルジオやケールが戦功を上げて無事に戻っているだとか、うちの騎士団の者が全員無傷だとかそういったものだから。



「ジョルジオ閣下の使者が先に到着しました!無事にエリス嬢を保護し、此方へ向かっているようです」


「そうか」


「ケール卿、セイル卿含む全員が無事で後処理に取り掛かっています」


「……そうか! 了承した」

「……よかった!皆無事なのねっ」

ほっとしたセイランが腕の中で眠ってしまうのはすぐで、起きた時に寂しくないようにとレイヴンはそのまま後処理の状況確認をしとうとう四人が到着したとの知らせを受けた。





「失礼します」

「いい、入れ」



「エリス……良くやったな」

「ーっ!! ありがとう、ございますっ」

これ程の誉れは無いだろうとエリスは彼の腕の中に居るセイランを見て、彼の言葉が沁みる。


「ジョルジオ、ケールも良くやった。セイランもこれで安心して寝れるだろう。王宮に仇為す者の処理は妥協しない」


「ああ、しかしこれどうも他国からの仕業らしい」

ジョルジオがエリスを引き寄せて執務室の来客用ソファに座りながらそう言うと、視線だけでそれを追ってからレイヴンに剣をひとつ差し出した。


「倒した者の剣を奪って来ましたがこれは……」

「パスカルの紋章だな」

「はい、それとこれが……セイル」

「はい。妃殿下の姿絵がありましたがこれは当日のドレスではありませんか?」


「そうだ。今エリスが着ているものだ」

「顔や髪色が曖昧な所を見ると此方の顔は知らないみたいだね」

「そう思います。セイルも俺も名のある家門ですが顔すら知っている様子はありませんでした」


「王族が直接関わっていれば、顔を知っていた筈です」


「ああ、エリスの言う通りだな。数名に潜入を命じよう」

レイヴンの腕の中でセイランの瞼がぴくりと動いて「エリス……?」とまだ開ききっていない目でエリスを探す。



「セイラン様、エリスは此処に戻りました」


これ程までに慕っているのかとそう感じる程穏やかな声だった。

どこか妹に言うような優しさを含んだ、けれどもきちんと主人を敬う声色にセイランは目が覚めてレイヴンの袖をぎゅっと掴んで上体を起こした。


「エリス!!」

セイランの涙の跡を見てエリスは唇を噛み締める。

(心配をかけてしまったわ……皆に助けてまで貰って)


「ご迷惑をおかけしました。それと、ありがとうございます」


「迷惑なんかじゃないわ!私が足を捻ったから……」


「セイラン様はとても頑張って下さいました。私の力不足です」

「そんなこと……」

「何より、貴女が無事で良かった……!!」

涙を瞳に溜めたエリスはとても綺麗だと思った。

その表情と震える声で心の底からそう思っているのだと分かる。




ジョルジオとセイルはらそんな姿に喉を嚥下し、レイヴンは驚いてからふと笑った。ケールは表情を崩さなかったが立派なクロフォードになったと誇らしく思っていた。




けれど皆一致する思いがあった、


迷惑なわけも無いし、彼女は充分良くやった。


「……」

「セイラン様、何か怒っていますね」

「ええ、怒ってるわ」

「犯人を捕まえられず申し訳ありま……」


「違う!」

「え」

「大切だから怒ってるの!」

「……大切、だから?」

「そう。だからもう二度と一人で無茶しないで」

「……約束はできませんが、なるべく」

「だめ!約束して!」

「じゃあお守りできるだけ強くならなきゃいけませんね」

「ジョルジオ!頑張って!」



「へ、俺? ははっ……当たり前だよエリスは俺が守るから」


「今回は辛い目に合わせてごめんね」と抱きしめてキスを降らせるジョルジオにセイランが嬉しそうに「きゃーー!」と騒ぎ出したのを見て、レイヴンは安心した。


(ま、いつの間にか腕から抜け出しているのは寂しいが)



「全員元気なら居座るな、会議は別室でする。俺の執務室から出て行け、セイラン以外な」


「はい、ではご準備しておきますね」


「ゆっくりで良いぞエリス」


「ご配慮感謝致します」







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