転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!

小川悟

文字サイズ
特大
145 / 296
ダークエルフの島

第9話 ホレックからの使者①

目の前には異様な光景が繰り広げられていた。

今日も武術の訓練のために海辺にマッチョーズが集合していた。そして数日前から参加していたピピとシル、そしてピョン子が楽しそうに訓練をしている。微笑ましい光景とも言えるだろう。

なんでピョン子やシルが、マッスル弾を使ってるぅ~!

ピョン子は角からマッスル弾を出しているし、シルは口から出している。

もはやマッスル弾じゃないなぁ。

ピピはまだマッスル弾は出せないようだが、手に魔力を集めてピョン子やシルのマッスル弾を弾いたり、軌道を逸らしたりしている。

ピピは笑顔で苦もなくやるから、傍目では遊んでいるようにしか見えない。

しかし、マッチョーズは真剣な表情で、ピピの動きやマッスル弾の弾き方を目で追っている。

「ピピは私を超えたともいえますなぁ」

バルドーさんがピピの事を嬉しそうに見ながら呟いた。

お兄ちゃんは甘えるピピが好きだよ……。

想定外の成長するピピを寂しい気持ちで見つめるのであった。

『ねえぇ、テンマァ~、カニ貯金と鍋貯金も始めようよぉ~』

「せめて交換比率を作って欲しい!」

ドラゴン姉妹は毎日のように俺に催促してくる。最近は1時間ほどでダンジョンのオークを殲滅してくるので時間が余っているのだ。

島の一画に大型のカニの魔物が棲んでいることがわかり、これ1匹で村人全員が食べきれない程の大きさであった。食いしん坊ドラゴン姉妹はそれを自分達の貯蓄にしたいらしい。

それにオークカツ貯金をオークカツとオーク生姜焼きとの交換比率を決めたことで調子に乗ったのだ。増えたオークカツ貯金で他の料理を要求するようになったのである。

「ダメだ! ハル兵衛が出会った頃と同じように痩せたら検討する!」

何故かハル衛門はまさしくハル衛門を維持していた。動きは良くなりただのミニオークではなくなったが、体形が元に戻ることはなかったのだ。

『し、失礼ねぇ! テンマの目の調子が悪いんじゃないのぉ!?』

いえいえ、これは誰もが思っていることです。

バルドーさんも気の毒そうにハル衛門を見ている。

「いや、俺もハル姉に再会した時に驚いたぞ。ミニオークにしか見えなかったからなぁ。はははは」

リディアは悪気のないのだが、たぶんそれが一番きついと思う。実際にハル衛門は落ち込んでいる。

ドドド、ドンッ! バシャ、バシャ!

「よぉーし、獲物を捕まえるのじゃ~!」

意外に近いところでエリスが漁の指揮をしているようだ。雷魔術もなれたのか複数の女性が連続して一気に雷魔術を放っているのだろう。

近すぎるせいで、こちらの水辺に居たマッチョーズまで痺れて倒れている。距離があるのですぐに起き上がったが、一歩間違えれば危険である。

『私も痺れされてテンマに殺されそうになったのを、また思い出したわ……』

うん、俺は忘れてしまった!

あれっ、船が近づいてくる?

「ホレックじゃーーー! 全員戦闘態勢に入れぇーーー!」

遠くでエアルさんの叫び声が聞こえる。

「あれは、使者かもしれませんなぁ」

バルドーさんがそう呟いた。確かに兵士の姿は見えるが役人のような人物も見える。武器を抜いている様子もない。

「我々は話し合いに来たぁ! 攻撃はやめろぉ!」

おっ、本当に使者のようだ。


   ◇   ◇   ◇   ◇


村に使者を連れて行くことはなく、海辺の砂浜にテーブルを出して使者と対面する。エアル姉妹が子供椅子に3人で座り、その正面に役人と兵士の代表が座った。

「私はホレック公国のジカチカ子爵です。今回の作戦の参謀長をしています」

「私はダガード子爵だ。今回の作戦の司令官をしている」

役人風の人物が参謀長で、日焼けした兵士は司令官のようだ。8人ほど護衛の兵士がついてきている。

「作戦とはなんじゃ?」

エアルが尋ねる。

「我が公国の領地を不法に占拠している者達を排除する作戦です」

「それが我ら一族が何か関係あるのか?」

ジカチカ子爵の返答にエアルがさらに尋ねる。

「あなた達一族が我が公国の領地を不法に占拠している一族ですよ」

ジカチカ子爵が嫌らしい笑みを浮かべて答えた。

「ククク、ホレック公国は英雄エクス殿の一族をそのように言うのですか。いやはや、公国が今あるのも、古の勇者様やこの一族の出身のエクス殿の献身的な努力だというのに。その娘であるエアル様一族をそのように言うとは。はははは」

バルドーさんが楽しそうに話した。

「そのような戯言を言うとはなぁ。フハハハ、大体人族のお前は何者だ?」

ジカチカ子爵は笑いながらバルドーさんに尋ねた。

「ぷっ、これは失礼しました。私はそちらにいる商人マッスル様の執事でムーチョと申します。黒耳長族のエアル様と商談のために訪ねてきた商人です」

ぷっ、マッスルはやめてくれぇ~!

俺だけでなく、他の者達も笑うのを必死に我慢している。それを見て使者は怒りの表情を見せる。

「お前達はホレック公国を愚弄するのか!?」

司令官のダガード子爵が手に剣を持ち立ち上がった。

おっ、コイツ、馬鹿じゃないのか?

30人以上のマッチョーズに囲まれていたことを忘れていたようだ。立ち上がって剣に手をかけた瞬間にマッチョーズが臨戦態勢になった。護衛の兵士たちも顔色を変えながら、後ろに下がる。

「し、使者に手を出すのか!?」

ジカチカ子爵が顔色を変えて叫んだ。

「おやおや、先に武器に手をかけたのは、そちらでしょう?」

バルドーさんは楽しそうに答えた。

「そ、それは、ホレック公国を侮辱したからではないか!?」

「ふむ、確かにそうですね。……ですが、先にこの一族から出た英雄エクス殿を侮辱したのはそちらではありませんか。あなたの言う通り話し合いの席で、相手が侮辱したと思ったらその時点で殺し合いを始めてもよろしいということですよね。
わかりました、それでは一族の英雄であるエクス様を侮辱した彼らを血祭りにあげて、その首を送り返しましょう!」

「「「おおう!」」」

これこれ、なんでバルドーさんが率先して話をしているのかな。

エアル姉妹も嬉しそうに拳を突き上げ、声を上げないでぇ。

「ま、待ってくれ! おい、ダガード、使者が武器に手にするとは非常識ではないか。すぐに武器から手を放せ!」

ぷぷっ、自国の誇りよりも自分の命が優先だよねぇ~。

「えっ、あっ、す、すまん!」

真っ青な表情で震えていたダガード子爵は、自分の不始末にようやく気付いたようだ。慌てて剣から手を上げる。

「まさか、今さら使者がしでかしたことを、なかったとできると思っているのですか?」

なんでバルドーさんが交渉役になっているのかなぁ。

「て、手違いだ。それに我々の本隊は30隻以上の船と2000人以上の兵士で周辺を固めているのだぞ。下手の事をすれば皆殺しになるぞ!」

「はははは、いやぁ、面白いですねぇ。たったそれだけで英雄エクス殿の一族に戦争を仕掛けるとは。なんとも愚かとしか言いようがありませんなぁ」

バルドーさん、煽ってない?

「わ、我が国の精鋭2000人を、数百人くらいで何とかなると思っているのか?」

「エクス様と同じ秘技を使える者も増えたようじゃし、ちょうど良い訓練になりそうじゃ!」

エアルさん、見た目が幼女なのに物騒なこと言わないでぇ!

「それに、ちょうど伝説のドラ美様とハル様も遊びに来ています。喜んで協力してくれると思いますよ」

「いや、それは遠慮したい。ドラ美様達が参加すれば訓練の前に終わってしまうではないか。それでは訓練の意味がないのじゃ」

まてまて、訓練じゃなくて実戦だよ!?

「それでは、国として黒耳長族を攻めてきたのです。ホレック公国の公都をドラ美様に殲滅してもらいましょう」

「それなら問題ないのじゃ!」

使者の彼らは、バルドーさんとエアルのやり取りを呆然と聞いているのであった。
感想 441

あなたにおすすめの小説

ちっちゃくなった俺の異世界攻略 表紙

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

祝 書籍化決定!! あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
ファンタジー 連載中 長編
文字数:413,497
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます 表紙

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。
ファンタジー 完結 長編
文字数:609,294
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました 表紙

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
恋愛 完結 短編
文字数:52,731
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~ 表紙

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。
恋愛 完結 ショートショート
文字数:9,943
貴族令嬢、転生5秒で家出します。 目指せ、ソロ活山暮らし 表紙

貴族令嬢、転生5秒で家出します。 目指せ、ソロ活山暮らし

【祝・書籍化】第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 2026年7月発売です。4万字以上エピソード追加しました。 感想もありがとうございます! なかなか返信できておりませんが、全て拝読させていただいております。 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元宮廷魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
ファンタジー 連載中 長編
文字数:210,794
元大学生の異世界辺境伯ライフ-1-〜神のミスで全加護を得た俺、ステータス偽装で目立たず別世界の神の侵略を食い止める冒険記〜 表紙

元大学生の異世界辺境伯ライフ-1-〜神のミスで全加護を得た俺、ステータス偽装で目立たず別世界の神の侵略を食い止める冒険記〜

平凡な大学生だった俺は、ある日突然、神のミスによって命を落としてしまう。 そのお詫びとして異世界へ転生することになったのだが、なぜか二度目の神のミスまで重なり、世界中の神々から"ありえない数の加護"を授かってしまった。 転生先は、辺境伯家の少年・アッシュ。 六歳で加護を授かるこの世界で、俺は規格外すぎる力を手に入れることになる。 しかし、その力はあまりにも危険だった。 だからこそ俺は、ステータスを偽装し、「少し優秀な六歳児」を演じながら、平穏な辺境伯ライフを送ることを決意する。 ……そのはずだった。 王都への旅、個性豊かな仲間との出会い、次々と巻き込まれる騒動。 そして、この世界の裏で静かに動き始める、誰も知らない大きな脅威。 目立ちたくない最強少年が、知らぬ間に世界の運命へと巻き込まれていく――。 これは、最強なのに平穏を望む少年・アッシュが紡ぐ、爽快異世界ファンタジー。
ファンタジー 連載中 長編
文字数:394,256
『病弱な幼馴染を優先してください』と言った妻が消えた翌日、夫は領地の会計書類が全て白紙になっていることに気づいた 表紙

『病弱な幼馴染を優先してください』と言った妻が消えた翌日、夫は領地の会計書類が全て白紙になっていることに気づいた

侯爵家に嫁いで五年。ルチアは夫エミルの領地会計・社交・使用人管理を全て一人で担ってきた。だがエミルはいつも幼馴染のアリーチェを優先する。「アリーチェは体が弱いんだ、お前とは違う」——その言葉を百回聞いた日、ルチアは微笑んで離縁届に署名した。「ええ、私は丈夫ですから。どうぞ幼馴染様をお大事に」。翌朝、エミルが目にしたのは——税務報告の締切、領民からの陳情の山、そして紅茶の淹れ方すら知らない自分。三ヶ月後、かつて「地味な妻」と呼ばれたルチアは、辺境伯の財務顧問として辣腕を振るっていた。
ファンタジー 完結 短編
文字数:9,553
真の皇帝は俺です ~面倒だから幼なじみに帝位を任せていたら、婚約者に捨てられました。正体を明かしたら全員後悔してももう遅い~ 表紙

真の皇帝は俺です ~面倒だから幼なじみに帝位を任せていたら、婚約者に捨てられました。正体を明かしたら全員後悔してももう遅い~

皇帝の仕事が面倒だったレインは、信頼する幼なじみアレクシスに表向きの皇帝を任せ、自身は陰から帝国を支えていた。 だがある日、婚約者エミリアは「権力も将来性もない」と彼を見限り婚約破棄を宣言する。 しかし彼女は知らなかった。 帝国を動かしていた真の支配者が誰なのかを。 これは全てを持ちながら隠していた男と、見るべきものを見失った者たちの後悔の物語。
ファンタジー 完結 短編
文字数:22,384