転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!

小川悟

文字サイズ
特大
161 / 296
ダークエルフの島

第25話 混乱するホレック公国側

ドラ美ちゃんの背中の上で、ムーチョさんの書いた台本をエアルが声を出して読んでいる。

「これで本当に聞こえているのか?」

ダメ、ダメェ~!

『声に出すと下にいるすべての人に声が聞こうえちゃうから!』

念話でエアルに話しかける。

『すまんのじゃ。本当に聞こえているのか心配になったのじゃ……』

長い耳も反省したのか垂れている。子供を見るようで思わず頭を撫でたくなる。

風魔法で離れた人に声を届けるような魔法を創ったのだ。込めた魔力量でどこまで届けるか調整できるのだが、ハッキリ言って効率は悪い。公都全域となるとドロテアさんでも難しいだろう。とびぬけた魔力量を持つ自分だからできる芸当である。

『台本の通りお読みください。町や城を見る限る聞こえているようです』

下を覗くと戸惑った様子で周りをキョロキョロ見回している人を見かける。

『わかったのじゃ!』

エアルは拳を握りしめてやる気を見せる。

それが子供っぽくて可愛いじゃねぇかぁ~!


   ◇   ◇   ◇   ◇


城の会議室では混乱していた。誰が話しているのか分からないが、全員が同じように声が聞こえるのである。

「誰じゃ! 誰が話しておる!?」

公王は混乱して騒ぐが、誰も声の主を見つけることはできない。

『私は英雄エクスの娘エアルなのじゃ。黒耳長族の代表である。一緒にいるドラゴンは父の盟友でもあるドラ美様じゃ!』

「英雄エクスの娘?」
「物語ではないか!」
「ドラ美様!?」
「じゃあ、あのドラゴンが!」
「う、嘘に決まっている!」
公王「黒耳長族とはどこにいる一族じゃ!?」

誰もが聞こえてくる声に混乱し、またドラゴンを見上げる。公王の質問に答えられる人物はこの場には誰もいなかった。

これまで黒耳長族と直接関わってきたのは、第3公子のペニーワースだけであった。これまでも黒耳長族ことは公王達にも報告はされていた。しかし、報告には亜人一族としか書かれていなかったのである。

『先日、ホレック公国の使者が村に来て、我ら一族が不法に領土を占領していると言ってきた。何千年もそこに住んでいた我ら一族に対してだ! 勇者と共に父が戦ったからこそお前達は無事に過ごしてきたはずなのにじゃ!』

公王「どういうことだ? 誰がそんなことをしたのだ!?」
「誰か知っているか?」
「黒耳長族……?」
「なんで、何百年も前の物語の娘が生きてるのだ?」

話が見えず、全員が余計に混乱する。

『使者は我らに奴隷になるか、皆殺しになるか選べと言ってきた。私は我が一族のことを丁寧に話し申し出を断った!』

公王「どういうことじゃ? そんな話を儂は知らんぞ!」
宰相「も、もしかして、ペニーワース様の事では?」
公王「……」

宰相の話を聞いた重臣たちは、新年の祝賀の時に出立したペニーワースを総司令官にした船団の事を思い出していた。

亜人とは聞いていた。タイミング的にもあっている。だが融和策か強行策のどちらになるかは相手の状況や戦力を見てからとなっていたはずである。

『断った我らに対して、彼らは殲滅すると言ってきたのだ。愚かな彼らに実力差を分からせるために、英雄エクスの秘技であるマッスル弾を見せ、父の盟友であるドラ美様の事も教えたのじゃ』

公王「ペニーワースはそれを見て聞いたのに戦ったのか!?」
宰相「使者が見ただけで、ペニーワース様は信じなかったのでしょう……」

重臣たちも宰相の話に頷く。今はドラゴンが頭上に居るから、多少は信じられる。しかし、話を聞いても英雄エクスの秘技と言われても想像できないからだ。そして、その場の全員が英雄エクスの娘など信じていないし、公都上空を旋回しているドラゴンがドラ美様とは信じていなかった。

信じていなかったが、ドラゴンが相手側に居るという事実だけで、状況は全く変わらない。

『私は彼らに警告した。我々は手の内を教えても、簡単に我らが勝てる実力があると。
そして、戦いになればホレック公国の下した決断である以上、ホレック公国の公都をドラ美様と共に殲滅することになることも伝えたのじゃ!』

会議室の誰もが沈黙する。

公子のペニーワースが相手の実力を勘違いして戦いを挑んだ。その結果、ドラゴンが上空に居るのだと理解したからだ。

『愚かにも、ホレック公国は我ら一族に戦いを挑んできた。しかし、何隻もの船が沈められると、司令官は仲間を放り出して逃げ出しおった。捕虜となった者に話を聞くと、参謀と司令官が戦いを止めるように進言したのに、戦いを強行した張本人の総司令官が逃げ出したのじゃ!』

第2公子「だからあいつではダメだと私は言ったのだ!」
公王「……」

第2公子は第3公子のペニーワースを嫌っていた。第1公子は最初に生まれただけの長男で、身分の低い貴族出身の側室の子だから継承順位は一番低かった。だから第2公子が継承権1位で2位がペニーワースだった。ペニーワースの母親は側室だが公王の寵愛を受けていた。

だから公王も何とかペニーワースに手柄を立てさせようとしたのである。

この場にいる誰もが、これほどの大事になるとは思っていなかった。

隣国との塩外交が上手くいかなくなったが、これまで蓄えてきた資産は莫大だ。何十年も国を維持する資産は十分にある。

それでも先細りの不安から、とりあえずという軽い気持ちで進めた計画だったのだ。

ドラゴンを相手に戦えるのかとこの場の誰もが考える。しかし、どう考えても絶望的な状況であった。兵士は海賊と戦うことはあるが、それほど強い魔物との戦闘など経験はなかった。せめて時間があればダンジョン島の冒険者を呼び寄せられるのにと考えていた。

『じゃが、我々はホレック公国ほど残虐な行為が好きなわけではない。条件を受け入れれば公都を殲滅する気はないのじゃ。これから国の代表は大至急我らの所に来るのじゃ。日没までに誰も来なければ、公都は今日中にこの世から消えてなくなるじゃろう。また逃げ出した者は殲滅する!』

公都上空を旋回していたドラゴンが方向を変えると、西門の先にある草原に降り立った。

それを見ていた会議室の全員が大きく息をつく。とりあえず即座にドラゴンに攻撃されることはないとわかったからだ。

「相手がどんな条件を言ってくるかは分かりませんが、受け入れるしかないでしょう……」

重臣の誰かがそう呟く。

「相手は数百人程度の亜人の村だ。条件といっても大したものではないだろう。場合によっては相手の望むより良い条件を出して、あのドラゴンを我が国の戦力にすればよいないか!」

第2公子のゴダールは意気揚々と話す。それを聞いた重臣たちも笑みが零れる。ホレック公国の先行きを心配していたが、ドラゴンが味方になれば状況は一変する。外交も優位に進められ、それこそ他国の侵略さえ可能になるのだ。

「それならゴダールよ、お前が国の代表として交渉してこい!」

「えっ!?」

公王は第2公子のゴダールに命令する。公王は別に誰でも構わなかった、自分があんな危険なドラゴンのそばに行かずに済めば良いと思っただけだ。

逆に混乱したのはゴダールだった。国を代表するなら父親である公王が行くのが当然だと考えていたのだ。

「い、いや、国の代表と相手は言ってます。陛下でなくては……」

「何を言っておる。この国の将来はお前にかかっているのだぞ。全権を与える。すぐに行って交渉してまいれ!」

国の将来と言われ少し嬉しかった。しかし、ペニーワースは今回の事で失脚したはずである。それなら、別に無理せずとも、ゴダールは危険を避けたいと考えていた。

「ですが、私は交渉より戦闘のほうが得意ですから……」

「愚か者! 跡継ぎなら交渉能力も必要ではないか。それともお前は跡継ぎとしての資格が無いと自分で言うのか!」

公王はこれまで真剣に跡継ぎのことを考えたことなどなかった。まだまだ自分が現役だと思っているのだ。今もただ自分があそこに行きたくなかっただけである。

しかし、ゴダールは追い詰められていた。ここで交渉を断れば自分で跡継ぎを辞退したことになる。しかし、引き受ければあの危険なドラゴンと向き合わねばならない。

迷っていると公王はさらに命令する。

「宰相も一緒に交渉してこい。ゴダールはまだ経験が足りないから助けてやってくれ」

宰相も息を飲む。話の流れを考えると断ることもできない。

結局、ゴダールも断ることなどできず、ゴダールと宰相が全権大使として交渉に赴くことになったのだ。
感想 441

あなたにおすすめの小説

ちっちゃくなった俺の異世界攻略 表紙

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

祝 書籍化決定!! あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
ファンタジー 連載中 長編
文字数:413,497
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます 表紙

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。
ファンタジー 完結 長編
文字数:609,294
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました 表紙

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
恋愛 完結 短編
文字数:52,731
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~ 表紙

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。
恋愛 完結 ショートショート
文字数:9,943
貴族令嬢、転生5秒で家出します。 目指せ、ソロ活山暮らし 表紙

貴族令嬢、転生5秒で家出します。 目指せ、ソロ活山暮らし

【祝・書籍化】第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 2026年7月発売です。4万字以上エピソード追加しました。 感想もありがとうございます! なかなか返信できておりませんが、全て拝読させていただいております。 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元宮廷魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
ファンタジー 連載中 長編
文字数:210,794
元大学生の異世界辺境伯ライフ-1-〜神のミスで全加護を得た俺、ステータス偽装で目立たず別世界の神の侵略を食い止める冒険記〜 表紙

元大学生の異世界辺境伯ライフ-1-〜神のミスで全加護を得た俺、ステータス偽装で目立たず別世界の神の侵略を食い止める冒険記〜

平凡な大学生だった俺は、ある日突然、神のミスによって命を落としてしまう。 そのお詫びとして異世界へ転生することになったのだが、なぜか二度目の神のミスまで重なり、世界中の神々から"ありえない数の加護"を授かってしまった。 転生先は、辺境伯家の少年・アッシュ。 六歳で加護を授かるこの世界で、俺は規格外すぎる力を手に入れることになる。 しかし、その力はあまりにも危険だった。 だからこそ俺は、ステータスを偽装し、「少し優秀な六歳児」を演じながら、平穏な辺境伯ライフを送ることを決意する。 ……そのはずだった。 王都への旅、個性豊かな仲間との出会い、次々と巻き込まれる騒動。 そして、この世界の裏で静かに動き始める、誰も知らない大きな脅威。 目立ちたくない最強少年が、知らぬ間に世界の運命へと巻き込まれていく――。 これは、最強なのに平穏を望む少年・アッシュが紡ぐ、爽快異世界ファンタジー。
ファンタジー 連載中 長編
文字数:394,256
『病弱な幼馴染を優先してください』と言った妻が消えた翌日、夫は領地の会計書類が全て白紙になっていることに気づいた 表紙

『病弱な幼馴染を優先してください』と言った妻が消えた翌日、夫は領地の会計書類が全て白紙になっていることに気づいた

侯爵家に嫁いで五年。ルチアは夫エミルの領地会計・社交・使用人管理を全て一人で担ってきた。だがエミルはいつも幼馴染のアリーチェを優先する。「アリーチェは体が弱いんだ、お前とは違う」——その言葉を百回聞いた日、ルチアは微笑んで離縁届に署名した。「ええ、私は丈夫ですから。どうぞ幼馴染様をお大事に」。翌朝、エミルが目にしたのは——税務報告の締切、領民からの陳情の山、そして紅茶の淹れ方すら知らない自分。三ヶ月後、かつて「地味な妻」と呼ばれたルチアは、辺境伯の財務顧問として辣腕を振るっていた。
ファンタジー 完結 短編
文字数:9,553
真の皇帝は俺です ~面倒だから幼なじみに帝位を任せていたら、婚約者に捨てられました。正体を明かしたら全員後悔してももう遅い~ 表紙

真の皇帝は俺です ~面倒だから幼なじみに帝位を任せていたら、婚約者に捨てられました。正体を明かしたら全員後悔してももう遅い~

皇帝の仕事が面倒だったレインは、信頼する幼なじみアレクシスに表向きの皇帝を任せ、自身は陰から帝国を支えていた。 だがある日、婚約者エミリアは「権力も将来性もない」と彼を見限り婚約破棄を宣言する。 しかし彼女は知らなかった。 帝国を動かしていた真の支配者が誰なのかを。 これは全てを持ちながら隠していた男と、見るべきものを見失った者たちの後悔の物語。
ファンタジー 完結 短編
文字数:22,384