転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!

小川悟

文字サイズ
特大
182 / 296
第11章 エクス自治連合

第10話 あれから色々あったけど……

今日でこの世界に来て一年が過ぎた。たった一年ではあるけど、前世では考えられないほど濃密な一年であっただろう。

王妃様一行がエクス群島に来て、すでに一ヶ月以上が過ぎた。王妃様はこの島の生活が気に入り国に帰るのを嫌がっていた。先に護衛の兵士達だけ国に送り返し、一ヶ月近くこの島で生活していた。

しかし、いつまでもこの地に滞在することは許されない。王妃とエクレアさんはアンナのルームに入って、ドラ美ちゃんにアンナが乗って1日でヴィンチザード王国の王都近くまで移動した。そして護衛兵士と合流して王妃様達は王都に帰った。

レイモンドとエクレアさんは短い間に結婚することが決まったが、エクレアさんは王都の研修施設の引継ぎなどするために王妃と戻っていった。たぶん三ヶ月から半年ぐらい先には戻ってくるだろう。

ドロテアさんやミーシャ達は全員がこの島に残っている。

ドロテアさんは驚くほど問題を起こさずに過ごしていた。問題を起こす相手が居ないのもあるが、エアル3姉妹と本当に仲良くなり一緒にお互いの魔術を教えあって、それに集中しているのもあるのだろう。俺に対する暴走もなりを潜め、ジジを先に俺とくっつけようと画策していたが、ジジが余裕であしらっていた。

俺はミーシャ達とダンジョンで訓練と探索をしていた。昨日まで十日間ほどダンジョンに潜っていたが、今日は休養日として過ごしていた。

「テンマ様と会ってからもうすぐ一年になるのですねぇ」

俺はジジ膝枕をしてもらっていた。ジジは優しく俺の頭を撫ぜながら呟くように言った。

ジジとはあと一ヶ月半ぐらいで出会って1年になる。多少の違いはあるが、同じようなことを考えていることに驚きながらも嬉しかった。

私は答えることなくジジ膝枕を堪能し続ける。

「ふふふっ、一年前の今頃はピピをどうやって守ろうか考えるしかできなかったのに、こんなに幸せで良いのですかねぇ」

俺は声に出さずに良いのだと言ってあげた。ジジも俺に尋ねたわけではなく、独り言のように話しているからだ。

俺もこんなに穏やかな日々が続いて良いのかと考えていた。

前世は間違いなく幸せではなかった。

研修時代は楽しかったが、後半は寂しさに圧し潰されそうであった。

そして、この世界に来てから色々なこともあった。大変だったが、毎日が充実していて楽しいとハッキリ言えるだろう。

ドロテアさんなど個性豊かな人も多いのは大変だが、それでも楽しいと言える!

チート能力にも満足している。不満は女性に対するチート能力がまるっきりないことぐらいだろう。それでも前世では33歳のときよりは進歩していると自分では思っている。

ジジ膝枕の心地良さに、再び眠りそうになったところにバルドーさんがやってきた。


   ◇   ◇   ◇   ◇


バルドーさんもようやくエクス自治連合の引継ぎが完全に終わって、島の拠点にいることが多くなった。仕事の引継ぎはとっくに終わっていた。しかし、先日まではドラ美ちゃんに乗って、各自治領にレイモンドを紹介して回っていたのである。

「テンマ様、ホレック公国の使者がレイモンド殿の所に来られたようです」

え~、そう言われてもなぁ~。

「もうマッスルは必要ないでしょ?」

「ええ、マッスル様が出る必要はありません」

それからバルドーさんが各自治領主から聞いた話を交え、ホレック公国の現状を話してくれた。

ホレック公国では王族や貴族がこれまでの生活を維持するために重税を掛けたらしい。それは明らかに公国に住む人々に不安を与えることになったようだ。

食料の輸入元であるヴィンチザード王国との間にエクス自治領があることによって、関税などで食料などが高騰していた。それに追い打ちをかけるように重税を掛けたことで、食料は驚くほど高くなってしまったのだ。
それまで普通に暮らしていけた労働者階級は生活が成り立たなくなり、半分はエクス自治領や自治領経由でヴィンチザード王国に仕事を求め、
国を捨てしまったのである。

ホレック公国の唯一の収入源となるダンジョン島でも食料が値上がり始めた。そこに重税の影響でダンジョン素材は買い叩かれ、冒険者も収入が減ってしまった。
そんなタイミングで、ヴィンチザード王国のダンジョンで階層を移動できる部屋が見つかったと情報が届いたのである。
追い詰められていた冒険者たちは挙ってヴィンチザード王国へ拠点を移動しようと行動を始めた。そうなるとダンジョン島の収入は落ち込み、ホレック公国はさらなる税金を掛けたのである。

「まあ、自分達でますます追い詰められるような悪手を、次々と打っているようですなぁ」

う~ん、馬鹿でも最悪な施策だと分かりそうだけど……。

「それならもう無視すれば?」

「そのですが、使者にはあの宰相も一緒に来ているから様子を見に行きませんか?」

バルドーさんが何を考えているか分かった気がする。追い詰められた彼らが、どんな様子でどう出るのか見てみたいということだろう。

……俺も見てみたいなぁ。

「ちょっと気になるけど、マッスル仮面になるのは嫌だなぁ」

「それならテンマ様として普通に立ち会ったらどうですか?」

え~と、そんなことしても良いのだろうか?

下級役人か使用人として紛れ込むのもアリかぁ。

その辺の調整はバルドーさんに任せて話し合いに同席させてもらうことにした。


   ◇   ◇   ◇   ◇


バルドーさんはレイモンドの執事として、俺は新人警備兵として使者との話し合いに参加することになった。

俺はレイモンドさんの後ろに控える護衛の振りをして様子を窺う。

レイモンドの横にはレーラさんが座り、二人にバルドーさんがお茶を出している。
対面には目の下に隈のある宰相と二人の貴族が座っていた。その後ろには十名ほどの役人か下級貴族がいた。護衛はどうせ武器を奪われるか、機嫌を損ねないように連れてきていないようだ。

外海にはホレック公国の旗をした船が二十隻ほど見えている。

「マッスル殿やムーチョ殿は?」

あっ、歯がある!?

宰相は普通に話していた。俺は入れ歯でもしているのか口が気になって仕方ない。

「いえ、同席しません。まずはエクス自治連合の執政官である私、レイモンドが話を聞いてから、必要に応じて盟主であるエアル様にお話しをします」

宰相達はホッとしたような表情を見せていた。

「殿下、ホレック公国は」

「使者殿、私は殿下ではありません! まずはお互いの立場をはっきりさせるべきではありませんか?」

宰相は自分の話を無視してレイモンドが話したことにムッとして話した。

「立場などお互いに知っているではありませんか。今さら回りくどい話はおやめください!」

レイモンドは宰相の返答を聞くと冷静に答えた。

「それはエクス自治連合の執政官ではなく、ホレック公国の元王子である私に会いに来たということですか?」

ククク、意地悪な質問の仕方だ!

宰相はレイモンドに元王子としてホレック公国寄りに交渉してもらいたいのだろう。それに気付いたレイモンドがそれは別だよと返したのだ。

それでも宰相は食い下がる。

「エクス自治連合の執政官であるレイモンド様に、ホレック公国の元王子という自覚を持って、話をしてもらいたいのです!」

おお、宰相も頑張るねぇ。

「そうですか……、私は構いませんがよろしいのですか?」

「もちろんです!」

いやいや、なに簡単に返事してるのぉ?

「わかりました。では、エクス自治連合の執政官でありますが、ホレック公国に人質として見捨てられた元王子としての気持ちを入れて交渉を始めましょうか!」

レイモンドはバルドーさん並みの悪魔の微笑みを顔に浮かべながら答えた。

バルドー株、きたぁーーー!

宰相は口を開いた状態で固まり、一緒に来た貴族や役人たちは真っ青に顔色を変えていた。

あっ、差し歯だ!

宰相の口から一本歯差し歯が取れて机の上に落ちた。

俺は笑うのを必死に堪えながら考える。

宰相は自分達の安全のために、レイモンドを引き渡したことを忘れていたのであろうか。それとも、それは当然のことで、売り渡しても自分達のいうことを聞くのも当然と思ったのだろうか……。
感想 441

あなたにおすすめの小説

ちっちゃくなった俺の異世界攻略 表紙

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

祝 書籍化決定!! あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
ファンタジー 連載中 長編
文字数:413,497
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます 表紙

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。
ファンタジー 完結 長編
文字数:609,294
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました 表紙

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
恋愛 完結 短編
文字数:52,731
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~ 表紙

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。
恋愛 完結 ショートショート
文字数:9,943
貴族令嬢、転生5秒で家出します。 目指せ、ソロ活山暮らし 表紙

貴族令嬢、転生5秒で家出します。 目指せ、ソロ活山暮らし

【祝・書籍化】第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 2026年7月発売です。4万字以上エピソード追加しました。 感想もありがとうございます! なかなか返信できておりませんが、全て拝読させていただいております。 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元宮廷魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
ファンタジー 連載中 長編
文字数:210,794
元大学生の異世界辺境伯ライフ-1-〜神のミスで全加護を得た俺、ステータス偽装で目立たず別世界の神の侵略を食い止める冒険記〜 表紙

元大学生の異世界辺境伯ライフ-1-〜神のミスで全加護を得た俺、ステータス偽装で目立たず別世界の神の侵略を食い止める冒険記〜

平凡な大学生だった俺は、ある日突然、神のミスによって命を落としてしまう。 そのお詫びとして異世界へ転生することになったのだが、なぜか二度目の神のミスまで重なり、世界中の神々から"ありえない数の加護"を授かってしまった。 転生先は、辺境伯家の少年・アッシュ。 六歳で加護を授かるこの世界で、俺は規格外すぎる力を手に入れることになる。 しかし、その力はあまりにも危険だった。 だからこそ俺は、ステータスを偽装し、「少し優秀な六歳児」を演じながら、平穏な辺境伯ライフを送ることを決意する。 ……そのはずだった。 王都への旅、個性豊かな仲間との出会い、次々と巻き込まれる騒動。 そして、この世界の裏で静かに動き始める、誰も知らない大きな脅威。 目立ちたくない最強少年が、知らぬ間に世界の運命へと巻き込まれていく――。 これは、最強なのに平穏を望む少年・アッシュが紡ぐ、爽快異世界ファンタジー。
ファンタジー 連載中 長編
文字数:394,256
『病弱な幼馴染を優先してください』と言った妻が消えた翌日、夫は領地の会計書類が全て白紙になっていることに気づいた 表紙

『病弱な幼馴染を優先してください』と言った妻が消えた翌日、夫は領地の会計書類が全て白紙になっていることに気づいた

侯爵家に嫁いで五年。ルチアは夫エミルの領地会計・社交・使用人管理を全て一人で担ってきた。だがエミルはいつも幼馴染のアリーチェを優先する。「アリーチェは体が弱いんだ、お前とは違う」——その言葉を百回聞いた日、ルチアは微笑んで離縁届に署名した。「ええ、私は丈夫ですから。どうぞ幼馴染様をお大事に」。翌朝、エミルが目にしたのは——税務報告の締切、領民からの陳情の山、そして紅茶の淹れ方すら知らない自分。三ヶ月後、かつて「地味な妻」と呼ばれたルチアは、辺境伯の財務顧問として辣腕を振るっていた。
ファンタジー 完結 短編
文字数:9,553
真の皇帝は俺です ~面倒だから幼なじみに帝位を任せていたら、婚約者に捨てられました。正体を明かしたら全員後悔してももう遅い~ 表紙

真の皇帝は俺です ~面倒だから幼なじみに帝位を任せていたら、婚約者に捨てられました。正体を明かしたら全員後悔してももう遅い~

皇帝の仕事が面倒だったレインは、信頼する幼なじみアレクシスに表向きの皇帝を任せ、自身は陰から帝国を支えていた。 だがある日、婚約者エミリアは「権力も将来性もない」と彼を見限り婚約破棄を宣言する。 しかし彼女は知らなかった。 帝国を動かしていた真の支配者が誰なのかを。 これは全てを持ちながら隠していた男と、見るべきものを見失った者たちの後悔の物語。
ファンタジー 完結 短編
文字数:22,384