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7巻
7-2
「え~と、殺すのは簡単です。でも、それで良いのですか?」
「殺す以上の罰などないと思いますが?」
う~ん、考え方が違うのかなぁ?
「シービックは廃嫡され、幽閉されていると聞きました。それは死ぬほど辛いのではありませんか?」
「ふむ、確かに私の知っているシービックなら、死ぬより辛いと思うかもしれませんな。しかし、貴族なら保釈金を払って解放されるかもしれませんが……」
「でも解放されたところで元の地位に戻れる可能性は、ほぼありませんよね?」
「……確かにそうですが、死ぬよりマシだと思っているかもしれませんよ?」
うぅ、話しちゃうかなぁ。
俺は一瞬迷ったあと、十年くらい続く呪いをかけたことを話した。
するとバルドーさんは心底愉快そうに笑い声を漏らす。
「クククッ、あの残虐で好色なシービックに、他人を傷つけようとすると頭痛に見舞われたり異性に触れると鼻血が出たりする呪いをかけるとは。それに加えて味覚を正常に感じられなくなる呪いまで……今頃どうなっているのでしょうね。はははは!」
「社会的な制裁はアルベルトさんが与えたのですが、腹が立ったので、つい……」
そう言い訳する俺を見て、バルドーさんは笑い続けている。
「死んだら辛い思いをすることも、後悔することもないですよね。だから、その方が効果的かなと思って。それに、そんな奴相手に罪悪感を抱きたくないじゃないですか」
「くくくく……た、確かに、確かに死ぬより辛いと私も思いますね……プッ!」
まだ笑っている……。
まあ俺が清廉潔白な人間でないと分かってもらえたならいいか。
さて、ついでに別の誤解も解いておこう。
「あと、これをどうぞ」
アイテムボックスから髑髏の飾りのついたネックレスを出す。
「こ、これは!?」
「最初に渡した魔導具の強化版です。前の魔導具に付与していたのはステータスに念話、アイテムボックスだけでしたが、今度の魔導具はすごいですよぉ~」
俺は胸を張って、魔導具の説明をした。
そう、この魔導具に付与されたアイテムボックスは容量がかつての十倍もあるし、衣装チェンジに認識阻害、各種耐性強化まで付いている。
衣装チェンジは、収納された服に一瞬で着替えられる機能なわけだが、執事服や隠蔽効果付きの諜報活動に特化した衣装(忍者衣装)やバッチコーイ系衣装の最新版(黒革で作ったピチピチの衣装)まで選べるようになっている。
認識阻害と忍者衣装を組み合わせれば、諜報活動で相手に見つかることはないはずだ。
「アイテムボックスにはそれ以外にも様々な装備や武器、薬品や魔導具まで入れておきました。まずは魔力を流して使用者登録をしてください。その後、前の腕輪からアイテムを移動していただくとよいかと!」
そう言って腕輪を一度返す。
バルドーさんが腕輪を手に取ると、髑髏の目が怪しげに赤く光った。
魔力を流して使用者登録をすると、持ち主以外は使えないようになるんだよね。
それからバルドーさんは魔導具を装備して、目を大きく見開く。
「こ、これは……なんと!」
バルドーさんはおずおずと聞いてくる。
「よ、よろしいのでしょうか? 大量のポーション類だけでなく、霊薬や万能薬までありますが……」
「バルドーさんの仕事柄、必要になるでしょう。ジジやピピにも霊薬や万能薬はすでに渡してありますし」
万能薬は病気を治癒する治癒ポーションの最上位。あらゆる病気を直せるのだ。
霊薬は万能薬の効果にプラスして破格の回復性能まで備えている。
怪我のみならず欠損した部位も程度にはよるが修復出来るし、状態異常や呪いにまで効くんだよな。
バルドーさんは驚いた顔をしたあとで、目に涙を浮かべる。
喜んでくれたのなら、良かった!
「私は誤解していたようです」
うんうん、そうだね!
「テンマ様は私より残酷なんですね」
なんでやねん!!
「見たことも聞いたこともないようなえげつない薬品類が大量に入っていましたし、呪術の魔導具も、悪魔が作ったと言われても納得してしまいそうな出来です!」
褒められている気がしない……。
「ま、まあ。それぐらいで止めてくれる……?」
以前、前世のドラマや映画を参考にして、諜報や暗殺で使えそうなえげつない薬品や魔導具を作ったのだ。
バルドーさんに渡すかは悩んでいたが、母親であるフリージアさんの敵討ちをしたいって聞いて、ついさっき俺のアイテムボックスからごっそり移したんだけど……なかなかの評判である。
「申し訳ございません。嬉しさのあまり、本音がつい……」
その発言によって、俺の精神は更にゴリゴリ削られているんですけど~!
バルドーさんは少しの間黙った。恐らくアイテムボックスの中身を再度精査しているのだろう。
そして、言う。
「しかし、食料も半年分以上ありますね」
「ジジの料理を入れときました。食べきったらジジに頼んで、補充してください」
ジジの料理に慣れると、他の食事に我慢出来なくなるからなぁ……えっへん!
「それに、衣装も見ましたが……やはりテンマ様はこちら側を良く分かっています!」
え~と、それは間違いです。
前世の記憶を頼りに作っただけです! 仲間認定はやめてくださ~い!
そんなふうに内心で言い訳をしていると、バルドーさんが神妙な顔で聞いてくる。
「本当にこれを使って、私怨を晴らしてもよろしいのでしょうか?」
「いいんじゃないですか? フリージアさんの受けた苦しみを考えれば、それでも足りない気すらします」
そう言う――と同時に、反応の出来ない速さでバルドーさんが抱きしめてきた。
か、感謝の印ってことだよね……?
バルドーさんはすぐに抱擁を解き、跪いて頭を下げた。
「私は、一生テンマ様に仕えると誓います!」
「そういうのはやめましょう。みんなで楽しく過ごす、それだけで良いじゃないですか。そんなわけで、魔導具のお礼として、今回の件が終わったらゆっくりさせてください」
「ふふふっ、それが一番難しい注文かもしれませんねぇ」
おいおい、忙しすぎるのだけは勘弁してくれよぉ~!
第3話 元老院対策会議
国王は執務室で宰相と、明日の元老院会議に向けて最終打ち合わせをしていた。
「しかし、ベルント侯爵はこれだけあからさまに動いてバレないとでも思ったのだろうか?」
ベルント侯爵一派の不正の証拠をまとめた資料を確認しながら、国王はまるで彼らが自滅したくてやっているとしか思えず、そう声に出してしまった。
「バルドーの調査結果でなければ私も信じられません。実はこれは相手の策略のひとつで、我々を油断させようとしているのではないかと疑いたくなります」
宰相もあまりに愚かで単純な不正の数々に呆れていた。
彼は簡単に証拠や証人が次々と提出されるこの状況を、ベルント侯爵が明日の元老院会議に合わせて、自分の行った不正の証拠を提出してくれているのだと錯覚しそうになっている。
「本当に大丈夫か? あまりにも子供じみた不正の証拠が続々と見つかっている。いくらなんでもこれは……」
「大丈夫でしょう。これほどの証拠と証人が揃っていれば、言い逃れることは出来ますまい。それに、元老院貴族の三分の二がすでに王家側についています」
元老院の貴族にも元々少数ではあるが、国王寄りの者達がいる。
しかし今回、普段はベルント侯爵にも王家にも与しない中立派もほぼ王家を支持している。
それだけではない。ベルント侯爵派の貴族の中からも、危険を感じて証拠の提出や証言をする代わりに減刑を求める者が続々と出ているのである。
元老院は『国王延いては王家が暴走しないように監視する』という名目で設立された組織だった。
しかし設立されてから長い年月が過ぎた今、王家と対立するだけの組織になり下がり、更にはその権力を使って利権を貪るようになっていた。
バルドーが諜報員として王家に仕えていた最近までは、彼が秘密裏に不正を行う貴族を処理していたわけだが――
「バルドーが王宮から出ていって、膿が出てきたような形ですな。そう考えると、彼らとしてはバルドーが戻ってきたことはかなりの想定外だったことでしょう。ともあれ、これで膿は一掃出来る。しばらくそれによって国民は戸惑い騒ぐでしょうが……結果的に国政は安定するはずです。無駄な元老院の横槍がなくなることを喜びましょう」
「しかし、元凶はまた逃げ出したみたいだな……」
「仕方ありません。デンセット公爵は常に証拠を残さず、失敗しても自分だけは逃げられる位置にいる」
それを聞いて、国王は悔しそうな表情を浮かべる。
「さすがにあの人も大人しくなったかと思っていたが、まさかこのようなことになるとはな……」
デンセット公爵は、元々王族である。
彼は二代前の国王の弟であったが、野心を持った彼を警戒した二代前の国王は彼を王家から放逐。
デンセット公爵家へと送った。
それによりデンセット公爵は、国王の継承権を失ったのである。
そんなデンセット公爵が狙うのは、自分の孫にあたる第二王子を王位につけること。
そこまでの野心を持っていたことは、国王達にとっても予想外であった。
「以前から第一王子の周辺で不穏な事件は起きておりました。今回の件を考えるとすべてあの人が裏で糸を引いていたのでしょう」
第一王子は王妃との間に生まれた子供である。
その後国王は元老院から強引にデンセット公爵家の血縁者を側室として迎えるよう強いられた。そして国王と側室との間に生まれたのが、第二王子である。
第一王子は幼いときから毒殺されそうになったり、事故に巻き込まれそうになったりと、命を脅かされることが多々あった。
それらはバルドーが作った王宮の諜報組織により、未然に防がれてきたわけだが。
「そうまでして王位につきたかったのか……国王など気苦労ばかりで、欲しければ譲ってやりたいくらいだというのに!」
「そうなると国は乱れ、国民が辛い思いをすることになるでしょう」
国王もそれは理解しているので、口を噤む。
数秒間の沈黙の後、国王は呟く。
「まだ、何かしてくるだろうな……」
「間違いありません。デンセット公爵領は隣国のホレック公国と接触しています。ホレック公国は小国ですが、塩の産地です。これまでわが国と対等に付き合ってきたのは、その資源の貴重さ故。ロンダで塩が大量に採れたことでその関係性が変わることを恐れ、デンセット公爵の甘言に惑わされて反抗してくる可能性は低くないでしょう」
だからこそ国内を安定させることが急務だと、国王も宰相も考えていたのであった。
第4話 デンセット公爵
王都から馬車で一日進んだところにある町の中の宿で、デンセット公爵一行は休んでいた。
彼らは現在、自分達の形勢が不利なことを悟って王都から自領へと引き返している途中である。
また、ここはそれほど大きな町ではないが、国の主要な街道沿いということもあり、宿のレベルはそれなりだ。
デンセット公爵は、その中でも最上級の宿の最上階を借り切っていた。
「まさかバルドーが戻っているとはな……」
最上級の部屋――スイートルームのソファに座りながら、デンセット公爵はそう呟いた。
「もしかしてバルドーが王宮を辞めたのは、油断した我々が動き出すよう仕向けようとしてのことだった、という可能性は……?」
そう聞くのは、ベルント侯爵の従者の男である。
「それはないな。闇ギルドの調査によると、奴は王宮を辞めた後、国と一切の関係を絶っていた。ロンダでテックス関連の仕事をしていたのも確認してある」
答えたのは、闇ギルドの幹部のタランティ。
見た目はごくごく普通の男といった風情だ。
闇ギルドは、非合法な組織であり、彼は暗殺や諜報活動をメインに行っている。
ちなみにテックスとは、テンマが異世界で得た知識を、あらゆる情報を登録出来たり特許申請出来たりする『知識の部屋』という場所に登録した際に、目立ってしまわぬように使った偽名である。
ここ最近はテンマがバレる形でチートな能力を使ったこともあり、それなりにテックスがテンマであることは知られてしまっているのだが、王都にいる者達はそれをほとんど知らない。
「私の調査でも、バルドーが辞めたことで国王や宰相の周辺で相当な混乱が起きていたことは裏が取れています。特に宰相は相当焦っていました。バルドーが辞めたことにそういった意図はないはずです」
そう言い切るのは、デンセット公爵家の執事だ。
彼はデンセット公爵家が持つ情報網を掌握する立場にある。
王宮や他の貴族の元にも多数の密偵を送り込み、常に情報を集めている。
ちなみに元王族のデンセット公爵も、元々は当然王宮に伝手があった。
とはいえバルドーが王宮に採用されてからは、彼が目を光らせていたため大した情報が得られなくなってしまっていたわけだが。
「これで打てる手がほとんどなくなってしまったではないか!」
デンセット公爵は顔を真っ赤にして叫んだ。
バルドーが王宮を去ってから少しの間ではあったが、デンセット公爵は何度か第一王子を暗殺しようと動いていた。
しかし、彼が作り上げた諜報組織がそれなりに機能していて、計画は成らなかった。
だから元老院を利用して王家を弱体化させ、第一王子の暗殺を行いやすい土壌を作る、というのが今回の作戦である。
しかしこれもバルドーが王都に戻ってきたことで、実現はほぼ不可能になってしまっている。
すぐに対策を検討していた彼らだったが、その間にベルント侯爵が暴走を始めたせいで、手遅れになってしまったのだ。
バルドーが王宮を去ったからといって、性急に事を進めすぎた――今になってデンセット公爵はそう思う。
(いや、違うか。塩がロンダから供給されたことが歯車が狂ったきっかけだ)
ヴィンチザード王国の塩の八割は隣国のホレック公国から輸入された物だ。そして残りの二割は帝国から輸入している。
そのような内訳になっているのは、帝国と王国は頻繁に小競り合いを起こしてしまい、供給が安定しないからだ。
そしてデンセット公爵領は王国で唯一ホレック公国と隣接しており、塩の供給をある程度調整出来る状態にあった。価格や購入量は国家間で決められているために弄れないものの、流通先を秘かに調整することで、領地持ちの貴族に対して強い発言権を得ていたのである。
しかし、テンマがロンダの近くで大量に岩塩を採掘出来る場所を見つけ、それをロンダに供給した。
しかもロンダは塩を出し惜しみするようなことはしない。
デンセット侯爵からしてみれば、ロンダから塩が大量に安価で仕入れられるようになれば、自身の影響力が弱まってしまうため、非常に困る。そこで、策を仕掛けた。
ロンダから塩を王国内に出荷するには必ずコーバル領を通過する。ロンダは森に囲まれた辺境の領地で、唯一道が繋がっているのがコーバル領だからだ。
コーバルを統治するコーバル子爵は、息子であるシービックの失態で資金難に喘いでいる。
そんな状況を見て、デンセット侯爵は『ロンダから出荷する荷物に関税を高くかければ、それで家を立て直せるのではないか? 私が手を回してやろう』と持ちかけたのだ。
もちろん関税をかけるには理由が必要で、国の許可がいる。とはいえ、ロンダから塩が出荷されれば国内の塩の流通量が増えるのは間違いない。
関税を使って道の整備をすると説明すれば、許可は簡単に下りるはずだった。
しかし、国王や宰相は難色を示す。
デンセット公爵は元老院に根回しした上で、再度申請を行った。
その結果、まずはお試しのような形で高い関税をかける形で運用し、それで上手くいくという実績を作れればそのまま進めようということに。
ただコーバル子爵家は実績を作るための資金すらないので、それはデンセット公爵が負担することになった。そうまでしてデンセット公爵には、影響力を保つ必要があったのだ。
しかしコーバル子爵は道の整備ではなく、関税を徴収する砦の建設を先に始め、あろうことかそこでコーバルの指揮官・ジュドキンがドロテアと揉めてしまう。
ジュドキンは謝罪と賠償を余儀なくされ、その負債はデンセット公爵に降りかかる。
しかし、それから少ししてそんなことを吹き飛ばすような話題が王都を駆け巡った。テックスによってロンダから王都まで別経路の道が作られたというニュースだ。
結果、デンセット公爵は無駄金を叩いたような形になってしまったのだ。
これまで塩欲しさにデンセット公爵にすり寄ってきていた領地貴族達はデンセット公爵にすり寄る意味を失い、今では連絡すら寄越さない。
「これでは公国としても非常に困ります!」
従者の男はそう口にした。
元々彼は、公国から王国へと派遣された工作員なのだ。
「だったらなんとかしろ!」
デンセット公爵は他国のことよりも、自分の立場が心配であった。
そんな彼を横目に、タランティは心配そうに質問する。
「おいおい、喧嘩している場合じゃないだろ。それより、のんびりと公爵領に戻っていて大丈夫なのか?」
「どういう意味だ?」
デンセット公爵は不満を露わにしながら、尋ねた。
「バルドーは暗殺が得意だろ? 追ってきて殺しに来ることだって考えられるんじゃないのか?」
タランティはバルドーと同業だからこそ、その恐ろしさを一番感じていた。
バルドーが動けば、周辺にいる仲間達と協力したとて、運が良くなければ逃げ切れないくらいに力の差があると考えていた。
しかし、デンセット公爵はタランティを馬鹿にするように鼻を鳴らす。
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