神様に加護2人分貰いました

琳太

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5巻

5-1

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 第一章 ラシアナ大陸上陸



 俺、天坂風舞輝あまさかふぶき幼馴染おさななじみ笹橋雪音ささはしゆきね、その友人の牧野奏多まきのかなた、クラスメートの竹中勇真たけなかゆうまの四人が異世界に召喚された。だが召喚途中に俺は魔法陣から突き落とされ、一人だけエバーナ大陸のベルーガの森に降り立った。
 雪音たちを探す途中で、ジライヤ、ツナデ、オロチマルと命名した三頭のモンスターを従魔に、ひょう獣族の少女ルーナと家精霊ブラウニーのチャチャを仲間にして、ついにラシアナ大陸にやってきた。
 この大陸のどこかに、雪音たちがいるはずだ。
 召喚されたとき、加護やユニークスキルをくれた地球の〝神〟様のおかげで、結構チートでイージーモードな旅を続けている。


         ◇ ◇ ◇


 セレン号を降りて桟橋を歩いていくと、港の向こうにヴァンカの街並みが見えた。せわしなく行き交う人や荷車を横目に、まずは冒険者ギルドへと向かうことにする。
 港街の朝はエレインやツーダンと同じようで、でもどこか違っていた。
 市場の露店がテント張りや台車を利用しているのは同じだが、並んでいる商品は見たことがあるようでないものだったりする。

「フブキ、お買い物はあと。早く冒険者ギルドに行くよ」
『そやで。市場見たら買いたがるの悪いくせや』
「う、うん。じゃあ後でな」

 つい商品をじっと見入ってしまったせいか、ルーナとツナデにいさめられ、少し歩調を速めた。
 冒険者ギルド、冒険者ギルドっと。あ、あそこだ。
 ジライヤもオロチマルも大きくなったから、中に連れていかない方がいいかな。建物の横に騎獣を繋ぐ場所があるのだが、うちの子は騎獣じゃないから、手綱たづなくらもつけていない。ま、いいか。
 今度、ジライヤとオロチマルにくらを装備して騎獣っぽくカムフラージュするかな? いや大八車か荷車に繋いで輓獣ばんじゅうっぽくするか。人の目があるから荷車を出せないから今はなしだけど。
 革紐かわひもを取り出し、オロチマルとジライヤの首に結ぶ。簡単に引きちぎれそうな紐だけどな。

「ごめんな、オロチマル。そのままじゃ他の冒険者に文句を言われるかもしれないから、我慢してくれ。ジライヤも、オロチマルに付き合ってくれるか?」
『わかった。待ってる』
『うん、フブキまま。ボクにーにと待ってるよ』

 ジライヤは小さくなれば中に入れるけど、オロチマルだけ外で待たせることはできないだろう。
 聞き分けのいいうちの子たちを、モフッてめてから中に入った。
 建物の様式が変わっても、冒険者ギルドの中は変わらないようだ。受付カウンターに、依頼票を貼り出すボード、そして隣接する食堂。
 ただ、元獣族の国だけあって、獣族が多い。
 思ったほど混雑しておらず、並びの少ない列に並ぶ。街の南に冒険者ギルドの本部があって、港に近いこちらは支部になるそうだ。
 ほどなくして順番が来たので、俺とルーナのギルドカードを渡して、エバーナ大陸からやってきたことを伝えた。

「ヴァンカ冒険者ギルド北支部へようこそ。移動手続きとモンスター討伐の処理ですね」

 モンスター? 魚は討伐対象じゃなかった……あ、クラーケンか。船員たちも戦ったが、俺の魔法が一番HPをけずったし、とどめもそれっぽくて、俺のギルドカードに記録されたんだな。
 クラーケン討伐は四級だったようで結構な金額をいただいた。かちんこちんにこおらせて動けなくしたところに、再生する足をいっぱい切り落として食材にしたので、二重の意味で美味おいしい獲物だった。
 クラーケンの素材はないかと言われたが、船の皆の前で《アイテムボックス》に収納するわけにもいかず、残った部分はほぼ船長に譲っていた。
《コピー》したものがあるが、船長がクラーケンを売りに出すだろうから、市場にはそれなりに出回るはずだ。
 それよりもだ。

「ラシアナ大陸に初めて来たんだが、こっちのことについて詳しく教えてもらうことはできないか?」

 情報収集、大事だよな。

「そうですね。特定のことについてなら情報屋なんでしょうけど……うーん。あ、そうだ。ちょっとお待ちを」

 受け付け職員が一枚の依頼票を持ってきた。

「街の外れに住んでいる、偏屈へんくつジ……ゴホン。学者先生の依頼なんですが、誰もやり、じゃなくて塩……あー」

 偏屈へんくつジイさんと言いかけたか? 誰もやりたがらないとも言いかけたよな。いわゆる塩漬け依頼というやつか。

「元フェスカ神聖王国の偉い学者さんだったそうなんですが、雑用依頼が出てまして。これを受ける代わりに、色々教えてもらうというのはどうでしょう」

 差し出された依頼票は九級だった。

「俺は五級なんで、九級依頼は受けられないと思うんだが」

 確か五級昇格時にそう説明された。エバーナとラシアナじゃ違うのかな。それに、この依頼票の文字、テルテナ国の文字と違うようだ。

『スキル《言語理解》のレベルが上がりました』

 問題なく読めるようになった。ありがとう《言語理解》さん。

「いや、それはそうなんですが、テルテナ国から来られて不便されているでしょうし、今回は特別ということで。報酬ほうしゅうを、お金でなく情報として受け取るなら、問題ないかと……」

 色々教えてもらえるならそれに越したことはない。
 ギルド職員がいいって言ってるから受けるが、九級はもうカウントされないんだ。ランクアップに関係しないし、別にいいけど。
 その学者先生宛の紹介状を書くから少し待って欲しいというので、その間の暇つぶしに依頼ボードをのぞいてみる。
 やっぱり文字が違う。どこが違うかというと、うーん。いて言うなら英語とロシア語みたいな? 同じ文字もあれば違う文字もある。話す言葉は同じようだ。《言語理解》のおかげで全く苦労はないがな。

「お待たせしました」

 ギルド職員がカウンターから出て、俺のところまでわざわざやってきた。

「こちらを依頼主にお渡しください。では、よろしくおねがいします」

 紹介状と簡単な地図を渡すと、さっさと去っていく職員。
 俺は外で待つジライヤたちのもとへ向かいつつ、渡された地図を見て足を止めた。

「これ、街外れっていうか、街の外じゃね?」

 ヴァンカの街は東西を川に挟まれた土地にあった。川を堀がわりに利用して、川沿いに城壁が作られたようだ。
 地図は城壁の西門を出てさらに北西を示している。とりあえずは行ってみよう。

「ジライヤ、オロチマル、お待たせ。こっちのことを教えてくれそうな人が見つかったから、その人の家まで行くよ」
『はーい』
『わかった。ツナデ、ルーナ、乗れ』
「ん、歩くよ。ジライヤ、ありがと」
『ほな、ウチは乗せてもらうな』


 街をしばらく歩いていると、チャチャがオロチマルの羽根の間から顔をのぞかせた。

「ああ、お家がいっぱいありまちゅ」

 チャチャはたくさんの建物を見て感動しているようだ。

「建て方も間取りも違いまちゅね。あ、あちょこ、おちょうじちがいがありちょうなお家……」

 古そうな家を見てそう漏らす。
 三日間船で過ごして、あまり家事ができなかったからな。
 学者先生の家の近くに、ログハウスが出せそうなところがあればいいんだが。
 西門近くまで来ると、城壁の外、というか川の向こうにも建物が見えた。
 城壁に囲まれていないから、モンスターに襲われる危険はあるが、緊急時は街に避難できるのでいいのかな。
 壁外の建物の向こうには畑が広がっていたのだが、目的の〝学者先生の家〟は畑のさらに向こうにある。
 位置的に隣の町と言っていいくらいのレベルだと思うんだが。いや、一軒しかないから町どころか村でもないか。結構距離がありそうだ。
 ここからだと西門を出て向かうことになるのか。
 道は一本道のようなので、歩きながらクラーケン戦後ゴタゴタしていて後回しにしていたステータスの確認をする。


 名前・フブキ=アマサカ 年齢・17歳 種族・異世界人 
 レベル・26 職業・テイマー、冒険者、救命者 
 H P 4026534600/4026534600(3355443200+671088640+1360+720+680)
 M P 2299738900/4026534380(3355443200+671088640+780+1080+680)
 STR(筋 力)4200(2350+470+604+392+384)
 DEF(防御力)4500(2600+520+604+392+384)
 VIT(生命力)4690(2600+520+702+484+384)
 DEX(器用さ)3764(2100+420+468+504+272)
 AGI(敏捷性)3544(1820+364+604+432+324)
 MND(精神力)4572(2600+520+468+588+396)
 INT(知 力)3098(1780+356+350+392+220)
 LUK(幸 運)1870(1070+214+214+196+176)
【加護スキル】《アイテムボックス(時間停止)LV3》《パラメーター加算LV2》
【称号スキル】《言語理解LV5→6》《取得経験値補正LV2》《使用MP減少LV3》《スキル習得難易度低下LVMAX》《取得経験値シェアLVMAX》《従魔パラメーター加算LV2》《生命スキル補正LVMAX》《眷属招集LVMAX》《精霊の恩恵LVMAX》
【職業スキル】《従魔契約LV5》《意思疎通LV5》
【生命スキル】《メディカルポッドLV1》《回復術LV6》《治療術LV5》《蘇生術LV1》
【補助スキル】《アクティブマップLV7》《鑑定LV8》《気配察知LV3》《気配隠蔽LV3》《追跡者の眼LV2》《縮地LV3》《分身LV3》《夜目LV3》
【技工スキル】《細工LV2》《家事LV6》《解体LV5》《錬金術LV6》
【武術スキル】《槍術LV3》《棒術LV1》《格闘術LV3》《短剣術LV1》《双剣術LV1》《長剣術LV4》《盾術LV1》
【魔法スキル】《全属性魔法LV7》《空間魔法LV5》《重力魔法LV4》《状態異常魔法LV3》《魔力操作LV5》《魔法構築LV5》《魔力感知LV3》
【耐性スキル】《状態異常耐性LV5》《物理耐性LV4》《魔法耐性LV2》《疼痛耐性LV2》
【ユニークスキル】《ナビゲーターLV4》《コピーLV5》《ギフトLV3》
【加護】《異世界神の加護×2》
【称号】《異世界より召喚されし者》《落とされた者》《ジライヤの主》《ツナデの主》《生命の天秤を揺らす者》《眷属を従える者》《オロチマルの主》《精霊の契約者》


 ジライヤはレベル20になって、進化先が解放されている。船に乗っている間はさすがに無理だったので下船してからと思っていたが、どこか人気ひとけがなく落ち着ける場所を探そう。


 名前・ジライヤ 年齢・0歳 種族・ダークシャドウウルフ
 レベル・20 職業・フブキの従魔
 H P 7480/7480(6800+680)
 M P 32820/4290(3900+390)
 STR(筋 力)3322(3020+302)
 DEF(防御力)3322(3020+302)
 VIT(生命力)3861(3510+351)
 DEX(器用さ)2574(2340+234)
 AGI(敏捷性)3322(3020+302)
 MND(精神力)2574(2340+234)
 INT(知 力)1925(1750+175)
 LUK(幸 運)1177(1070+107)
【称号スキル】《言語理解LV3》《パラメーター加算LV1》《取得経験値補正LV1》
【職業スキル】《意思疎通LV3》《取得経験値シェアLVMAX》
【補助スキル】《咆哮LV6》《瞬脚LV5》《突進LV5》《空中回避LV6》《遁甲LV5》《影分身LV4》《スニークLV4》
【戦闘スキル】《爪の一撃LV5》《みつきLV6》
【魔法スキル】《風魔法LV7》《地魔法LV3》《闇魔法LV5》
【耐性スキル】《物理耐性LV3》《魔法耐性LV2》《疼痛耐性LV2》
【ユニークスキル】《メタモルフォーゼLV4》
【称号】《異世界より召喚されし者フブキの従魔》
【進化先】■ハティ
     ■オルトロス


 進化先はモンスターランク・Cのハティとオルトロスか。オルトロスって双頭だよな。


 名前・ツナデ 年齢・0歳 種族・ロングテイルマンキーの特異体
 レベル・17 職業・フブキの従魔
 H P 3960/3960(3600+360)
 M P 4860/5940(5400+540)
 STR(筋 力)2156(1960+196)
 DEF(防御力)2156(1960+196)
 VIT(生命力)2662(2420+242)
 DEX(器用さ)2772(2520+252)
 AGI(敏捷性)2376(2160+216)
 MND(精神力)3234(2940+294)
 INT(知 力)2156(1960+196)
 LUK(幸 運)1078(980+98)
【称号スキル】《言語理解LV3》《パラメーター加算LV1》《取得経験値補正LV1》
【職業スキル】《意思疎通LV3》《取得経験値シェアLVMAX》
【補助スキル】《木登りLV6》《跳躍LV5》《浮遊LV5》《小分体LV3》《蜃気楼LV4》
【技工スキル】《解体LV3》
【戦闘スキル】《引っきLV3》《みつきLV3》《絞扼こうやくLV2》《投擲LV4》
【魔法スキル】《木魔法LV7》《水魔法LV3》《地魔法LV6》《風魔法LV5》《光魔法LV2》《魔力操作LV4》《魔力感知LV5》
【耐性スキル】《物理耐性LV2》《魔法耐性LV2》《疼痛耐性LV2》
【ユニークスキル】《空間跳躍LV5》
【称号】《異世界より召喚されし者フブキの従魔》

 ツナデもレベル17か。進化先解放までもうすこしだ。


 名前・オロチマル 年齢・0歳 種族・コカトリス
 レベル・7 職業・フブキの従魔
 H P 3740/3740(3400+340)
 M P 2780/3740(3400+340)
 STR(筋 力)2112(1920+192)
 DEF(防御力)2112(1920+192)
 VIT(生命力)2112(1920+192)
 DEX(器用さ)1496(1360+136)
 AGI(敏捷性)1782(1620+162)
 MND(精神力)2178(1980+198)
 INT(知 力)1210(1100+110)
 LUK(幸 運)968(880+88)
【称号スキル】《言語理解LV2》《パラメーター加算LV1》《取得経験値補正LV1》
【職業スキル】《意思疎通LV2》《取得経験値シェアLVMAX》
【補助スキル】《叫声LV4》《跳躍LV5》《強襲LV4》《飛翔LV4》《消音LV2》
【戦闘スキル】《状態異常ブレスLV5》《ファイヤーブレスLV3》《毒の牙LV4》《烈脚LV4》
【魔法スキル】《風魔法LV5》《火魔法LV5》《治療魔法LV4》
【耐性スキル】《状態異常耐性LV4》《物理耐性LV2》《魔法耐性LV2》《疼痛耐性LV2》
【ユニークスキル】《擬態LV1》
【称号】《異世界より召喚されし者フブキの従魔》


 ルーナは見た目からは想像できないステータスになっている。魔法に適性のない獣族なのに。これも眷属の効果か。


 名前・ルーナ 年齢・0歳 種族・豹獣族
 レベル・18 職業・フブキの眷属、狩人ハンター
 H P 2860/2860(2600+260)
 M P 2010/2266(2060+206)
 STR(筋 力)1584(1440+144)
 DEF(防御力)1584(1440+144)
 VIT(生命力)1782(1620+162)
 DEX(器用さ)1386(1260+126)
 AGI(敏捷性)1320(1200+120)
 MND(精神力)1276(1160+116)
 INT(知 力)902(820+82)
 LUK(幸 運)440(400+40)
【称号スキル】《言語理解LV2》《パラメーター加算LV1》《取得経験値補正LV1》
【職業スキル】《意思疎通LV2》《取得経験値シェアLVMAX》《罠感知LV1》《罠設置LV2》《罠解除LV1》《命中率上昇LV4》
【補助スキル】《気配察知LV5》《気配隠蔽LV5》《筋力強化LV2》《瞬脚LV3》《忍び足LV4》
【技工スキル】《家事LV1》《解体LV3》
【武術スキル】《短剣術LV3》《双剣術LV4》《弓術LV1》《投擲術LV4》
【魔法スキル】《魔力感知LV3》《魔力操作LV3》《雷魔法LV6》《風魔法LV5》《闇魔法LV2》
【耐性スキル】《物理耐性LV2》《魔法耐性LV1》《疼痛耐性LV1》
【称号】《異世界より召喚されし者フブキの眷属》


 レベルだけでなく種族によって差が出るんだろうけど、ジライヤがぶっちぎりの強さだな。


 西門を出ると、城壁内よりも建物のランクが下がったのが見て取れた。
 ただ、行き交う人々の顔は明るくてすさんだ感じはなく、城壁の外であってもスラムというより普通の町っぽい。
 海に近い北側は漁師が多いのか、家の前にあみなどが竿さおにかけられていたり、魚が干してあったりする。
 あ、向こうにも市場がありそうだ。壁外にも市場があるとは。このあたりはモンスターが出ないのか、もしくは徹底的に駆除されているのかもしれないな。

『フブキ、買いモンは後やで』
「ていうか、フブキ、買い物する必要ないよね」
「いや、そこは土地土地の特産物があってだな」
「今日のお昼は何にちまちょうかねえ」

 会話をしながら歩いているが、一応《アクティブマップ》をオンにしてある。やはりモンスターらしきものは全く見当たらない。
 門から一キロメートルも歩くと、家はまばらになって畑が増える。境界を示すためであろう低い木のさくはあるが、モンスターよけにはなりそうもない。このあたりは農家の家かな。
 さらに進むとついに建物がなくなり、やがて畑も途切れたころに、学者先生の家と、その先に森が見えた。そして森の向こうに地図にも描かれていた塔が見える。あの塔は、学者先生の家に近いのかな。
 家に近づくも、塔の見た目が変わらないところを見ると、思ったより塔は遠いのか。それにかなり大きい? 『塔』とあったので人工物かと思ったが、どうも違うようだ。
 地図で見るとみさきに建っているように思えたので、灯台っぽいものを想像していたんだが。このあたり、地図の縮尺適当だな。
 みさきにそびえ立つその塔に窓などはなく、巨大な牙のようで、本当に突き立っている感じだ。
 塔の周囲は森に囲まれている。その森の手前に、豪邸と呼べる一軒の家が建っていた。
 不思議な感じだ。地球ではヨーロッパのどこかの国にありそうな、森の前にポツンと建つ一軒家。
 だがここはモンスターが跋扈ばっこする世界だ。こんな風に建っている家って、初めて見るんじゃないか?

「あ、マジックアイテムとかで結界張ってるとか?」

 俺の持っている結界石は〝神〟様がくれた一級品だ。だが他にもそういうマジックアイテムがあってもおかしくはないよな。
 大きな三階建ての家。建築様式は、ヴァンカの壁内と同じ黒い木の柱に白い漆喰しっくいの壁、窓にはガラスが使われている。敷地を高さ二メートルほどの格子状のさくで囲んでいるが、これもどう見ても防衛目的ではなく、敷地の境界を示すためのものだ。
 俺は正面玄関の扉についていたノッカーをたたく。
 カツン、カツン、カツン。
 地球じゃノックは三回というが、こっちはどうなんだろう?
 よくわからないまま三回鳴らしてみた。

「はいはい。今行きますよ~」

 扉の向こうからくぐもった声が聞こえたので、一歩後ろに下がって待つと、がちゃりと鍵の開く音がした。あ、内開きの扉だったよ。

「はいはい、何か御用でございますか?」

 現れたのは恰幅かっぷくのいいおばあさん。鼻の頭に小さな色付き眼鏡をかけていた。
 この世界にも眼鏡あるんだな。いや、サングラスか。

「俺はフブキと言います。五級冒険者ですが、ギルドでこちらを紹介されたというか、依頼を受けたというか……」

 ギルドカードをちらっと見せたのち、依頼票とギルド職員からもらった紹介状を渡した。

「あらあら、まあまあ」

 恰幅かっぷくのいいおばあさんは右手で受け取ろうとして、そちらの手が包帯でぐるぐる巻きだったことを思い出し、左手で受け取った。

「ちょっとお待ちくださいね。旦那様にお伝えしてきます」

 そう言って一度引っ込んでいった。
 ちらっと《鑑定》してみた。彼女は獣族だった。しかも、おばあさんという年齢でもなかった。


 =種族・土竜もぐら獣人 固有名・メイミー 年齢・49歳 状態・右手首骨折、疲労(中度)
 土竜系獣人族の女性。この屋敷の使用人=


 たしか、学者先生ってフェスカ神聖王国の出身って言ってなかったか? あそこって人族至上主義だって、船員見習いのジランが話してたよな。
 なんて考えながらジライヤをモフッて待っていると、ほどなくして足音が聞こえ、再度玄関扉が開かれる。


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