婚約者曰く、私は『誰にも必要とされない人間』らしいので、公爵令嬢をやめて好きに生きさせてもらいます

皇 翼

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21.救われた命①

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「ごめん。本当にごめんね、アリア」
「カインツ兄様?ケイオス兄様?なんで泣いているのですか?何か悲しい事があったのですか?」
「そう、だな。悲しいことではある。でも俺たちは自分からソレを選択したんだ。お前にもいつか分かるさ」

それが兄カインツとケイオス……私が二人と会った最後の記憶だった。
そして後に察することになる。あの二人は私とレオンをあの地獄のような場所――公爵家に置いていって、どこかに行ってしまったのだと。自分たちは二人の兄に捨てられたのだと、置いていける程の存在だったのだとそう察した。

それから、最悪の日々に耐えれば耐えるほどに兄達へと向ける感情が嫌悪・そして憎悪に変わり、いつの日か思い出すことすらしなくなった。あんな人たちは自分の家族ではないと思うようになったのだ。

******

「……っ!?」

ガバリと飛び起きると同時に刺し貫かれた胸を抑える。しかしそこには、いつも通りに動く私の心臓が存在した。意味が分からなかった。
だって私はあの時、確かに後ろから心臓を刺し貫かれたのだ。しかし今ここに存在して、生きている。それだけじゃない。あの時とは着ている服も変わっている。私は今、ギルドの制服ではなく、ネグリジェのようなピラピラとした薄い服を着ていた。

それも異常だと思うが、一番おかしいと感じる点はやはり生きている事だ。服をぺらりとめくって確かめてみるが、そこにはいつも通りの私の胸が見えただけだった。まるで確認するように無駄に成長した乳房を触るが、そこには裂傷どころか小さな傷跡すら残っていなかった。そして心臓もドクドクと正常に脈打っている。

何故だろうと思いながらも、引き続き自身の胸を様々な方向から触って確かめる。そんなことに集中していた所為だからだろうか、私は気づかなかったのだ。ノックもせずに部屋に入って来た存在に――。

「……お前、何やってるんだ?自慰行為なら場所を選んだ方が良いと思うが?」
「は???」

聞き覚えのない声が聞こえ、その方向に目を向けると、全く見覚えのない見知らぬ男が立っていた。
ベッドに座っていることも相まって見上げる程のすらっとした長身に、背後の白い壁と見分けがつかなくなるほどに色素の薄い髪、そしてこちらを射抜くように見つめる金の瞳。まるで神様か何かのようだと私は一瞬思い、その容姿に見惚れる。自身の掛けられた言葉も、置かれている状況も完全に忘れて――。

「俺に見惚れるのは勝手だが、その乳をさっさと仕舞った方が良いと思うぞ。お前の兄が泣くだろう」
「乳……あ!!」

そこまで言われたところで、やっと自分の状態を冷静に見つめることが出来た。私は今、自分で自分の胸を揉みしだいているような状態だったのだ。あまりの恥ずかしさに、男が誰なのかや、急に指摘された兄の事などが頭から吹き飛ぶくらいに焦った。服を一気に降ろし、皺を伸ばす。
私は今更気付いたが、このネグリジェはその辺で売っているようなものではないのだろう。服の素材は明らかに高級だと分かるほどに滑らかな質感だった。

「とりあえず、そういう行為をする時は気を付けろよ?俺はお前みたいなお子様に興味はないが、世の中にはお前みたいな子供ガキの方が好きだなんていう物好きもいるんだ。……襲われるぞ?」
「っ違います!私は別に好き好んで自分の胸を触っていたわけじゃありません!というか、貴方は誰なのですか!!?」

なんだか盛大な勘違いをされているのを今更ながら理解して、カッと頬が熱くなる。
そしてやっと、『この男は誰なのだ』という思考に至った。こんなこの世のモノとは思えない程に美しい容姿の男がいるだなんて、ここは天国なのかと疑い始めていたところだったが、次の言動でソレが思い違いだったと気付く。

「俺はルークハルト。ヴィントメーア傭兵ギルドのギルドマスターにして、お前の命の恩人ってところだ。精々感謝するこったな」
「はあ??」

何故だか生きていて、そのわけのわからない状態で知らない男に『感謝しろ』と言われる。私の脳内は、これ以上ない程に混乱を極めていた――。
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