婚約者曰く、私は『誰にも必要とされない人間』らしいので、公爵令嬢をやめて好きに生きさせてもらいます

皇 翼

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20.凶兆③

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ジブリールの背後から飛び上がり、剣を体重と共に振り払うように襲ってきた敵。
初撃はなんとか後ろに避けたが、想定外という攻撃ということもあって2撃目は避けられなかった。腕に剣が当たる――そう思い、痛みに備えて構えたのだが、その攻撃が私に当たることはなかった。目を閉じて構えていた私が感じたのは、金属同士が当たって削れるような音。
目を開けてみると、何が起こったのか分かった。ロイが彼の武器である双剣で受け止めていたのだ。

「ご無事ですか!?お嬢様!!」
「ロイ――ありがとう!」
「アリア、どうやら狙いはアンタみたいだ。ギルドに戻ってな!!」

その言葉と同時に、私はギルドの扉に向かって全力で地面を蹴って駆け出す。
戦いたくないのではない。ここでは明らかに自分は襲ってきた正体不明の人間達よりも実力が下である。悔しいが、そう直感したからだ。あれらの敵に1対1で対峙できるのはギルドの一部のメンバーと、ロイとクレティアくらいだろう。自分がここにいたのではかえって足手まといになるのだ。
守ろうとしてくれているクレティア、ロイ、そしてギルドのメンバーの戦闘の邪魔になる。確実に。

「おい!お前ら、アリアがギルドに逃げようとしてるぞ!!さっさと追え!!」

ジブリールがそう怒鳴ってくる。背後から鼓膜を強く揺らす大声が襲ってきて足が竦みそうになるが、気を強く持つ。
どんな攻撃がこようとも、止まるわけにはいかないと足に更に力を入れて、あと3歩、ギルドの扉への歩みを加速させようとした――のだが、それは叶わなかった。それどころか地面から足が離れず、勢い余って転んだ故に膝を思い切り擦りむいてしまう。

「なに、これ……」

私の足は、地面に縫い付けられるように氷で足が囚われていた。
そしてそれと同時に、正面から心臓を刺し貫かれる感覚――。私の左胸を刺したのは、最初に攻撃を仕掛けて来た敵の長剣だった・ドクドクと最後の足掻きをするように、血管が強く脈打つ。
走馬灯なんてものは見なかった。むしろ最後に認識できたのは、遠くで私の名前を叫ぶクレティアとロイ、ギルドメンバーの声。

あまりにも悲痛な声を上げる声たち。皆は守ってくれようとしてくれたのに、逃げ切ることが出来なかった自身の情けなさを嘆きながらも、声の一つもあげることすら出来ずに私の意識は深い闇に落ちて行った。
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