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19.凶兆②
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「ですから、ここにアリアネット=カルカーンがいるという情報は既に持っているのです。早急に彼女をここに連れてきてください」
「だからそんなやつはここにいないと言っているだろう」
「……ここまで隠し立てをするとは。どうやら貴方達は制裁を与えられたい愚か者の集まりのようだ」
「ジブリール!!」
これ以上は大人しく聞いていられなかった。クレティア達が自分を庇うために嘘を吐いてくれている事を分かってはいたが、ジブリールはやると言ったらやる有言実行の男だ。王宮でも自分が気に食わないことはとことん叩き潰す冷血な王子として恐れられていた。
そんな彼が言う『制裁』。私はそれが直感的にとんでもない事をしでかす前触れだと悟っていた。
「私が目的なのでしょう?なら私に直接制裁でも何でも下せばいい。彼女達は関係ない!」
背後で先程まで対応していたであろうギルドの面々が止める声も無視して、ジブリールから彼らを庇うようにその間に立ちはだかる。
ジブリールに対して敬称も敬語もなしに話したのは初めてだった。それくらいには頭に来ていたし、すぐに権力を振りかざそうとする彼に対して嫌悪感を感じていた。
それに彼曰く高々アクセサリーの『誰にも必要とされない存在』に対する用件で生身でここまで来た理由もまだ分かっていないので聞き出す必要がある。私は今から、あの国に居た頃の清算をするのだ。
「やっと出て来たか、我が婚約者殿。俺を待たせるなんて、偉くなったものだな」
「まず一つ。私はもう貴方の婚約者ではありません。実家に勘当されましたから」
いざ私が目の前に現れてみるとジブリールは先程までの丁寧な口調と一転、私があの舞踏会で見た姿――高圧的な態度に変化する。もう本性を隠す必要も感じない程に、彼にとっての私には既に価値がないのだろう。
「あー。そのことか……知ってるか?カルカーン公爵とその夫人、俺の前に来てからやっとお前を勘当した事の重大さに気づいたみたいだったぜ。あとお前の家はもうない……俺が潰したからな。だってダメだろう?俺の婚約者を外に逃がすだなんて」
さも面白い事を話すように私の家を潰したことを話すジブリール。他人の人生など関係ない。自分が満足できればいいというような……そんな彼の姿を見て、戦慄した。なんて恐ろしい男なのだろう。いくら最低な私の両親だったとはいえ、潰したと、人の人生を転落させるようなことを自分から進んでやっておいて、笑い続けているのだ。
若干の恐怖は感じた。けれど、ここで負けるわけにはいかない。
だって家が潰れた――否、潰されたというのならば、尚更私が今ここで追い詰められている理由はないはずなのだ。
「カルカーン家が潰れた、ならば尚更私はもう貴方には関係な――」
「そんなわけないだろう!?逃がすものか……お前だけこの地獄から逃げ出すなんてこと、絶対に許さない。だってお前は俺のモノだろう?」
私が話しているのも遮り、瞬間的に距離を詰めて囁くように耳に吹きかけられたその言葉。声はまるで恋人に囁くかのように甘いのに、ぞっとするような執着を孕んでいるのを耳から、肌から感じた。
言いたいことは言ったというように離れたジブリールの顔。だがその瞳はこの世の絶望を煮詰めた様に昏く、底が見えない。
「……ふざけるな」
「ん?」
「だからふざけるなって言ったの!!なんで私が貴方なんかと一緒にその地獄に堕ちてやらないといけないわけ?」
「は……?」
「私は貴方のモノでもアクセサリーでも何でもないの!」
言い切った。あの日、あの場所で言えなかった言葉を。ずっと心に溜め込んでいた言葉をそのまま吐き出したのだ。
口に出してみると、少しだけスッキリしたような気がする。
「…………」
「な、んで黙っているの!?」
「はあああ――――」
飛んでくるのは反抗に対する怒号かそれとも静かな憤りか。どちらにしろ何を言われるだろうと構えていた私に待っていたのは空白だった。
嫌な予感を振り払うように、ジブリールに声を掛けるが、その一瞬後に大きな溜息が吐かれた。
「人形が自我を持っちゃ駄目じゃないか」
その言葉と同時に、剣を振るわれる。鍛練の成果によって、ギリギリ避けることは出来たが、当たっていたら確実に右腕が切り落とされていただろう。その光景を想像して、鳥肌がささくれ立つ。
「この叛逆者を殺せ」
その言葉が発されたと同時に、彼の背後にいた怪しい人間達が動き出した――。
「だからそんなやつはここにいないと言っているだろう」
「……ここまで隠し立てをするとは。どうやら貴方達は制裁を与えられたい愚か者の集まりのようだ」
「ジブリール!!」
これ以上は大人しく聞いていられなかった。クレティア達が自分を庇うために嘘を吐いてくれている事を分かってはいたが、ジブリールはやると言ったらやる有言実行の男だ。王宮でも自分が気に食わないことはとことん叩き潰す冷血な王子として恐れられていた。
そんな彼が言う『制裁』。私はそれが直感的にとんでもない事をしでかす前触れだと悟っていた。
「私が目的なのでしょう?なら私に直接制裁でも何でも下せばいい。彼女達は関係ない!」
背後で先程まで対応していたであろうギルドの面々が止める声も無視して、ジブリールから彼らを庇うようにその間に立ちはだかる。
ジブリールに対して敬称も敬語もなしに話したのは初めてだった。それくらいには頭に来ていたし、すぐに権力を振りかざそうとする彼に対して嫌悪感を感じていた。
それに彼曰く高々アクセサリーの『誰にも必要とされない存在』に対する用件で生身でここまで来た理由もまだ分かっていないので聞き出す必要がある。私は今から、あの国に居た頃の清算をするのだ。
「やっと出て来たか、我が婚約者殿。俺を待たせるなんて、偉くなったものだな」
「まず一つ。私はもう貴方の婚約者ではありません。実家に勘当されましたから」
いざ私が目の前に現れてみるとジブリールは先程までの丁寧な口調と一転、私があの舞踏会で見た姿――高圧的な態度に変化する。もう本性を隠す必要も感じない程に、彼にとっての私には既に価値がないのだろう。
「あー。そのことか……知ってるか?カルカーン公爵とその夫人、俺の前に来てからやっとお前を勘当した事の重大さに気づいたみたいだったぜ。あとお前の家はもうない……俺が潰したからな。だってダメだろう?俺の婚約者を外に逃がすだなんて」
さも面白い事を話すように私の家を潰したことを話すジブリール。他人の人生など関係ない。自分が満足できればいいというような……そんな彼の姿を見て、戦慄した。なんて恐ろしい男なのだろう。いくら最低な私の両親だったとはいえ、潰したと、人の人生を転落させるようなことを自分から進んでやっておいて、笑い続けているのだ。
若干の恐怖は感じた。けれど、ここで負けるわけにはいかない。
だって家が潰れた――否、潰されたというのならば、尚更私が今ここで追い詰められている理由はないはずなのだ。
「カルカーン家が潰れた、ならば尚更私はもう貴方には関係な――」
「そんなわけないだろう!?逃がすものか……お前だけこの地獄から逃げ出すなんてこと、絶対に許さない。だってお前は俺のモノだろう?」
私が話しているのも遮り、瞬間的に距離を詰めて囁くように耳に吹きかけられたその言葉。声はまるで恋人に囁くかのように甘いのに、ぞっとするような執着を孕んでいるのを耳から、肌から感じた。
言いたいことは言ったというように離れたジブリールの顔。だがその瞳はこの世の絶望を煮詰めた様に昏く、底が見えない。
「……ふざけるな」
「ん?」
「だからふざけるなって言ったの!!なんで私が貴方なんかと一緒にその地獄に堕ちてやらないといけないわけ?」
「は……?」
「私は貴方のモノでもアクセサリーでも何でもないの!」
言い切った。あの日、あの場所で言えなかった言葉を。ずっと心に溜め込んでいた言葉をそのまま吐き出したのだ。
口に出してみると、少しだけスッキリしたような気がする。
「…………」
「な、んで黙っているの!?」
「はあああ――――」
飛んでくるのは反抗に対する怒号かそれとも静かな憤りか。どちらにしろ何を言われるだろうと構えていた私に待っていたのは空白だった。
嫌な予感を振り払うように、ジブリールに声を掛けるが、その一瞬後に大きな溜息が吐かれた。
「人形が自我を持っちゃ駄目じゃないか」
その言葉と同時に、剣を振るわれる。鍛練の成果によって、ギリギリ避けることは出来たが、当たっていたら確実に右腕が切り落とされていただろう。その光景を想像して、鳥肌がささくれ立つ。
「この叛逆者を殺せ」
その言葉が発されたと同時に、彼の背後にいた怪しい人間達が動き出した――。
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