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本編

┗黄色い薔薇(イメルダ視点)-2

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 ザーグベルトが剣でロイクめがけて鋭い突きを放つ。
 それをロイクは剣を当ててザーグベルトの突きを滑らせ、受け流した。

「くっ……!」

 しかし、ロイクの腕にザーグベルトの剣がかすめた。ロイクの燕尾服のジャケットを切り裂いて血が滲む。

「何をしているの!? 二人とも、やめて!」

 イメルダが剣を交えるロイクとザーグベルトに声を荒げる。

「無駄よ。さっきあたしが言っても駄目だったもの。ザーグベルト様は、あたしの術でちょっと理性が飛んじゃったみたい。気の毒だけど、ロイクを殺すまで剣を止めないわ」

 殺す? ロイクを……? この女はどこまでふざけているのか。
 しかし、今すぐ怒りに任せてセイラに掴みかかった所で、ロイクが助かる訳でもない。

 イメルダはこの状況を変えるべく考えた。

 ロイクはザーグベルトよりも剣の腕がある筈だが、一国の王子に怪我でも負わせようものならばロイクは極刑だろう。

 それ故にロイクはひたすら剣を受けるだけで、攻勢には転じていない。

 ロイクは何度も剣を受け流しているのか疲れが見え、先程から何度かザーグベルトの剣で斬りつけられている。

「ザーグベルト様! お辞めください!」

 イメルダは激しく剣を振るうザーグベルトに近づく事もできず、ただ叫んだ。

「だから、無駄だって。ロイクの事はもう諦めて。そうしたら……」

 カアァンーー!!
 突然、一層甲高い金属音がケロベロス伯爵邸の庭に鳴り響いた。

 ロイクの剣がザーグベルトの剣に弾き飛ばされ、空中を舞って地面に突き刺さる。
 それと同時にロイクはバランスを崩したのか、後ろに尻餅を突いた。

 イメルダはその光景を前に、セイラに何か言われた事は耳に入らなかった。

「ロイク、勝負は着いたね。イメルダの心を解き放てる時がきた」

 ザーグベルトは、傷だらけで呼吸を乱しているロイクに向けて剣先を向ける。

「ロイク!! ザーグベルト様剣を下ろして!」

 そう金切り声を上げて、イメルダは急いでロイクに駆け寄ろうとしたが、ザーグベルトが吠える。

「イメルダ、来るな!!」

 ザーグベルトが剣先をロイクの首元にぐっと近づけた為、イメルダは慌てて足を止める。

「ロイクを殺して、君は僕の妻になる。それでいいよね? 側室だけど、セイラよりも君を愛しているから……」

 ザーグベルトはいつものように、微笑しながらイメルダに語りかけた。
 イメルダが見た、ザーグベルトの青く美しい目に光は無い。

「ザーグベルト様。それ以上、卑怯な脅しをかけるならば。わたくしもそれなりの対応をいたします」

 イメルダが未だロイクを庇おうとした為か、ザーグベルトが激昂した。
 彼が何かを言おうとして口を開くが、イメルダは時を止める術を使う。

「ロイク、必ず助けます……!」

 イメルダはザーグベルトに向かって走り出す。以前ロイクを虎から庇ったように、ザーグベルトを突き飛ばそうと考えていた。
 しかし、すぐに時は動き出してしまう。

「うるさい! 卑怯な手でも使わないと駄目なんだ! だって君は」

 イメルダは、ザーグベルトの言葉など耳に入らず、もう一度時を止めて走った。

 心臓が痛い。負荷の強い術を連続で使用したためか、イメルダは息が出来なくなった。

 イメルダは焦るが、無常にもまた時が動き出す。
 ザーグベルトがロイクに向かって剣を突き立てようとしている。

「ロイクしか愛せないくせに!!」

 ザーグベルトが叫び、剣を振り下ろす。イメルダは呼吸ができず、苦しさから地面に膝をついた。

 もう一度、もう一度時よ止まれ! イメルダは薄れる意識の中、ロイクの顔を見ながら何度も念じて、彼に手を伸ばした――
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