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第18話 さらなる高みを目指して。 (陛下 *王妃 * 従者&侍女の視点)

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 マリアローザには、15万ポンドよりも価値がある。

 そんなことを思いながら、目の前にある書類にサインをしていく。
 彼女との婚姻が成立したことで、持参金の15万ポンド全額が支払われた。そして、婚姻の成功に気をよくしたのか、彼女の父は、子がデキたらさらに追加で祝い金を支払うと申し出てきた。
 彼女との間に子がデキることは、オレも望むところだが、そうやって喜ばしいことだと受け入れられれば、男として気分がいい。

 結婚して一か月。

 まだ妊娠の兆しは見えないが、毎夜愛し合っているのだ。そのうち吉報がもたらされるだろう。
 日に日に愛おしさが増してくる妻。初めて愛し合ったときは、オレの愛撫に、与えられる快楽にいっぱいいっぱいな様子だったが、今では、自分からオレを求めようと動いてくる。
 昨日など積極的に口づけを求めてきたし、自ら舌を絡めにこちらの口腔を犯しにきた。

 「リオネルさま」

 時折、恥じらうように名を呼ぶ。その声が愛おしくて抱き寄せれば、軽く頭をオレの胸にすり寄せてくる。そしてオレを見上げて、はにかんだように微笑む。
 愛らしいだけではない。彼女は、王妃としても最高の女性だった。

 成金女。金で地位を買った女。

 そう陰口を叩く貴族に対して、「金は、あって腐ることもなければ、困ることもない、最高の武器であり、道具ですのよ」と笑って返していた。
 マリア曰く、金さえあれば戦をせずとも相手を屈服させることは可能なのだそうだ。

 「相手国の生きてくのに必要な産業、たとえば小麦などを金にあかして買い占めます。もしくは、こちらの良質な小麦を安価で売りさばいて、市場であちらの小麦を誰も買いたがらないまでに追い詰め、産業を衰退させます。それから、販売から手を引いたり、市価の倍以上の値に吊り上げたりして混乱させれば、相手国は衰退の一途をたどりますよ」

 さすがに、この作戦を聞いたときには、為政者として戦慄を覚えた。
 一兵も使わず、相手を混乱させるのだ。金の力だけで。

 「だが、間に関税をかけ、安価で売れないようにされたらどうする?」

 「その場合は、小麦を手に入れにくくなった国民が暴動を起こすでしょう。安く手に入らない理由が国家にあるのなら、それに対する不満が発生します。それを上手く扇動しても悪くないですね」

 「他にも、どうしても戦で相手を潰したいのなら、最新の武器をそろえたり、傭兵を雇ったりすることもできます。もしくは、相手の上層部の誰かを金で買収して内部から瓦解させる方法も。金に困っている国に、莫大な借金をさせ、それを盾に言うことをきかせるという手もありますね。お金は、どのようにでも変化する、最高の武器であり、道具なのですよ」

 そう言ってニッコリ微笑まれる。こういう時、この女、そして彼女の実家が敵でなくてよかったと、心底思う。戦で疲弊していた我が国も、そうして乗っ取られる可能性だってあったのだ。

 まあ、今となっては、そのような方法で攻めてくることはないだろうが。

 一通りの書類にサインを終え、席を立つ。窓の外、眼下に広がる庭園には、貴婦人たちと談笑するマリアの姿。少し窓を開いてみれば、こちらに気づいたのだろう。マリアが、オレに向かってニッコリと微笑んでくれた。

 「なあ、ルシアン」

 マリアに軽く手を振り、サインを終えた書類をまとめにかかったルシアンに声をかける。

 「マリアローザをもっと悦ばす方法はないだろうか」

 彼女が貴婦人たちと話し始めたのを確認してから、窓を閉める。

 「いつも同じような愛し方しかしていない。もう少し違った方法を試したいのだが、ルシアン、知らないか?」

 「へ、陛下っ?」

 「ルシアン、お前ならよく知っているだろう? お前はオレより女の経験が多いからな」

 「ちょっ、そっ、あのっ、なにをっ……!」

 ルシアンが、書類を落としかける。珍しい。この男でも動揺することがあるのか。

 「オルガとかいう、マリアの侍女とまぐわっていることは知っている。お前たちは、どんなまぐわい方をしているのだ。マリアのために、それを教えろ」

 マリアをもっと感じさせて、幸せな気分にしてやりたい。もっと悦ばせたい。愛したい。
 マリアを幸せにすること。それは、二人のためだけではない。この国の未来のためでもあるのだ。

 だから。とっとと話せ、ルシアン。

*      *      *      *

 「ねえ、オルガ」

 庭園でのお茶会を終え、部屋に戻る途中、後からついてくるオルガに声をかけた。

 「リオネルさまをもっと悦ばす方法ってないかしら」

 窓辺に立って手を振ってくださったお姿を思い出す。

 「いつも、わたくしが受け身になってしまって。リオネルさま、わたくしとの夜を楽しんでいらっしゃるのかしら」

 「ひっ、姫さまっ?」

 「さっき、お茶会の席で聞いたのよ。殿方を悦ばせるのは、繋がるだけが方法じゃないって」

 「ちょっ、そっ、あのっ、なにをっ……!」

 オルガが、真っ赤になって立ち止まった。

 「アナタは、『濡れる』方法も知っていたもの。殿方を悦ばせる方法も知っているんじゃないの? 知っているなら、お願い。わたくしにも教えてちょうだい」

 政務でお疲れだろうリオネルさまを悦ばせて差し上げたい。わたくしと過ごすことで、幸せな気分にして差し上げたい。それは、この国のためにも、とても大切なことだわ。リオネルさまは、この国になくてはならない大切な方だもの。

 だから。教えてちょうだい、オルガ。

*      *      *      *

 この主は、なにを言い出すんだ――――っ!

 心のなかで思いっきり毒づく。
 訊いていいことと悪いことがあるだろうっ!
 まぐわいかたを、奉仕のしかたを、教えろってっ?
 冗談じゃない。誰がそんなことをって思うけど、拒否することは許されないんだろうな。

 「わかりました。お教えいたします」

 こうなったら、ヤケだ、ヤケ!

 どうにでもなれってんだ、このヤロー。
 徹底的に教えてくれるわ。
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