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24.それから
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マリカの花が甘い匂いを放っている。
カリーナは、渡されたブーケに顔を近づけてその香りを吸い込んだ。
初夏の夜風がベールを揺らし、沿道に並ぶ参列客らが掲げるランプの炎もチラチラと靡いた。
白いレンガの道は、この先にある教会に続いている。
カリーナは顔を上げた。
丘の上に立つ白い教会の背景には、今夜も満天の星空が広がっている。
手を引いて先導してくれるのは、侍女長だ。
そして、教会には愛しい婚約者が待っている。
優しい声援の中、カリーナはゆっくり歩いていく。
そして、あの日、ガルシア国からジスペインに帰国した時の事を思い出していた。
最後のゲートをくぐった頃には日が落ちかけていた。
カリーナはアルフレッドにしがみついた。
高速移動は、周囲の景色が目まぐるしく過ぎ去るので、視覚から疲労すると説明され、カリーナはずっと目を閉じていた。
本日何度目かの体が浮遊する感覚に襲われたことで、カリーナは旅の終わりを知った。
目を開けると、アルフレッドの肩越しに見慣れたジスペインの神殿が見えた。
「カリーナ!ミルト君!」
背後から声を掛けられて振り向くと、ジュード叔父が満面の笑みで立っていた。
その隣には、一足先に着いていたバートン改めレイモンドがいる。隠れ里のメンバーが揃ったことになる。
「ジュード様、お久しぶりです」
アルフレッドがカリーナを支えながら挨拶すると、ジュードが手を広げて駆け寄ってきた。
「大きくなったなぁ!それに何て男前なんだ。予想以上の成長ぶりだな、コイツめ!」
アルフレッドをカリーナごと抱き締めた。
「おじさま、苦しい…」
カリーナが抗議するが、ジュードはぎゅうぎゅう抱き締めて離さない。
「カリーナ!」
兄の声が聞こえた。
側で微笑む王妃が抱えているおくるみが目に入ったカリーナは、ジュードの腕を振り外して駆け寄った。
おくるみにくるまれて、すやすや眠る小さな幼子を見て、小さく感嘆の声を上げた。
「なんて可愛いの…」
目を潤ませて王妃を見上げた。
「お義姉さま、お疲れ様。たいへんだったでしょう?お身体は大丈夫なの?」
王妃は、にっこり笑い小声で返す。
「全然平気よ。もしかしたら、カリーナの婚約者も来ると聞いていてもたってもいられなかったわ!ねぇ、すっごく素敵な人ね」
カリーナは、隣の兄を仰いだ。
「本当に、あの難攻不落と名高い副団長を連れて帰るとはな。カール陛下から聞いた時はまさかと思ったが…」
ニヤリと笑う。
「でかした。妹よ」
カリーナは何と言って良いかわからず、口ごもった。
兄は、アルフレッドに歩み寄った。
アルフレッドが気付いて、左手を胸に当てて低頭した。
「ジスペイン王陛下、この度の妹君に対する強引な行為、お詫び申し上げます」
「破天荒な王女だが、私の唯一の兄妹だ。企みに乗るのは正直言って躊躇したが…まあ、手ぶらで帰って来なくて良かったと言うべきか」
アルフレッドは、視線を上げて兄を真っ直ぐ見つめた。
カリーナもその側に走り寄った。
「陛下、カリーナ王女との婚姻をお許しいただけないでしょうか。必ずお守り致します。何より、私はカリーナ王女以外の伴侶など考えられないのです」
カリーナは、アルフレッドに寄り添って、兄を見上げた。ジュードとレイモンドもその様子を見守っている。
兄は、大きく息を吐くと告げた。
「…いいだろう」
アルフレッドが頭を下げた。
ジュードが「やったー!宴だ~!」と叫びながら、レイモンドに抱きついた、レイモンドは嫌そうにしながらも、こちらを見て微笑んでいる。
王妃も皇太子を揺らしながら笑っている。
「お転婆で気の強い奴だが、よろしく頼むよ。引き受けてくれて感謝する」
兄の言葉にムッとしたカリーナの肩をアルフレッドが抱き寄せた。
「そういう所も全部含めて大好きなんです。お任せください」
兄は、一瞬虚をつかれた表情を浮かべた後、またニヤニヤ笑った。
「さすがカリーナ商会だな、こんな優良物件を掴むとは」
「アルフレッドは非売品!誰にもあげないから!」
カリーナがぎゅっとアルフレッドに掴まると、アルフレッドが嬉しそうに抱き返して、顔を寄せてきた。
さすがに人前で恥ずかしくなったカリーナが赤面しながらいつも通りぎゅうぎゅう押し返した。
カリーナは、渡されたブーケに顔を近づけてその香りを吸い込んだ。
初夏の夜風がベールを揺らし、沿道に並ぶ参列客らが掲げるランプの炎もチラチラと靡いた。
白いレンガの道は、この先にある教会に続いている。
カリーナは顔を上げた。
丘の上に立つ白い教会の背景には、今夜も満天の星空が広がっている。
手を引いて先導してくれるのは、侍女長だ。
そして、教会には愛しい婚約者が待っている。
優しい声援の中、カリーナはゆっくり歩いていく。
そして、あの日、ガルシア国からジスペインに帰国した時の事を思い出していた。
最後のゲートをくぐった頃には日が落ちかけていた。
カリーナはアルフレッドにしがみついた。
高速移動は、周囲の景色が目まぐるしく過ぎ去るので、視覚から疲労すると説明され、カリーナはずっと目を閉じていた。
本日何度目かの体が浮遊する感覚に襲われたことで、カリーナは旅の終わりを知った。
目を開けると、アルフレッドの肩越しに見慣れたジスペインの神殿が見えた。
「カリーナ!ミルト君!」
背後から声を掛けられて振り向くと、ジュード叔父が満面の笑みで立っていた。
その隣には、一足先に着いていたバートン改めレイモンドがいる。隠れ里のメンバーが揃ったことになる。
「ジュード様、お久しぶりです」
アルフレッドがカリーナを支えながら挨拶すると、ジュードが手を広げて駆け寄ってきた。
「大きくなったなぁ!それに何て男前なんだ。予想以上の成長ぶりだな、コイツめ!」
アルフレッドをカリーナごと抱き締めた。
「おじさま、苦しい…」
カリーナが抗議するが、ジュードはぎゅうぎゅう抱き締めて離さない。
「カリーナ!」
兄の声が聞こえた。
側で微笑む王妃が抱えているおくるみが目に入ったカリーナは、ジュードの腕を振り外して駆け寄った。
おくるみにくるまれて、すやすや眠る小さな幼子を見て、小さく感嘆の声を上げた。
「なんて可愛いの…」
目を潤ませて王妃を見上げた。
「お義姉さま、お疲れ様。たいへんだったでしょう?お身体は大丈夫なの?」
王妃は、にっこり笑い小声で返す。
「全然平気よ。もしかしたら、カリーナの婚約者も来ると聞いていてもたってもいられなかったわ!ねぇ、すっごく素敵な人ね」
カリーナは、隣の兄を仰いだ。
「本当に、あの難攻不落と名高い副団長を連れて帰るとはな。カール陛下から聞いた時はまさかと思ったが…」
ニヤリと笑う。
「でかした。妹よ」
カリーナは何と言って良いかわからず、口ごもった。
兄は、アルフレッドに歩み寄った。
アルフレッドが気付いて、左手を胸に当てて低頭した。
「ジスペイン王陛下、この度の妹君に対する強引な行為、お詫び申し上げます」
「破天荒な王女だが、私の唯一の兄妹だ。企みに乗るのは正直言って躊躇したが…まあ、手ぶらで帰って来なくて良かったと言うべきか」
アルフレッドは、視線を上げて兄を真っ直ぐ見つめた。
カリーナもその側に走り寄った。
「陛下、カリーナ王女との婚姻をお許しいただけないでしょうか。必ずお守り致します。何より、私はカリーナ王女以外の伴侶など考えられないのです」
カリーナは、アルフレッドに寄り添って、兄を見上げた。ジュードとレイモンドもその様子を見守っている。
兄は、大きく息を吐くと告げた。
「…いいだろう」
アルフレッドが頭を下げた。
ジュードが「やったー!宴だ~!」と叫びながら、レイモンドに抱きついた、レイモンドは嫌そうにしながらも、こちらを見て微笑んでいる。
王妃も皇太子を揺らしながら笑っている。
「お転婆で気の強い奴だが、よろしく頼むよ。引き受けてくれて感謝する」
兄の言葉にムッとしたカリーナの肩をアルフレッドが抱き寄せた。
「そういう所も全部含めて大好きなんです。お任せください」
兄は、一瞬虚をつかれた表情を浮かべた後、またニヤニヤ笑った。
「さすがカリーナ商会だな、こんな優良物件を掴むとは」
「アルフレッドは非売品!誰にもあげないから!」
カリーナがぎゅっとアルフレッドに掴まると、アルフレッドが嬉しそうに抱き返して、顔を寄せてきた。
さすがに人前で恥ずかしくなったカリーナが赤面しながらいつも通りぎゅうぎゅう押し返した。
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