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第二章 遺跡

第12話 遺跡って実はアレなんです

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途中、ニックのところに寄りオークを卸すが、多めに卸して欲しいと言われ十体ほど卸す。
「大丈夫なの? いつも多くて五体だよね?」
「それがな、解体依頼がなくてな他の連中もヒマこいているんだわ。なんなら、もう少し卸してくれてもいいぞ」
「そう? なら、俺の分も一緒に解体してもらえるなら、もう少し出しますけど?」
「おう、兄ちゃんはどのくらい欲しいんだ?」
「俺の分は三体分欲しいんですけど、いいですか?」
「三体か。なら、もう十体ほどいいか。その位なら他の連中にも手伝わせるから」
「分かりました。じゃ、ここに」
ニックの指示でもう十体。合わせて二十体のオークを出してから、解体小屋から出る。

「もしかして、意外とヤバい?」
「レイ、魔の森のことを考えると、そんな場合じゃないと思うけど?」
「もう、エリスは固いな。どうせ、討伐に行くんだしちょちょいのちょいだよ。ね、ソルト」
「バカだな」
「あ~バカっていう方がバカなんだよ」
「なにそのバカっぽいの」
「ひどい! エリスまで……」
解体小屋を出てから、屋敷に戻るまでそんな調子でおしゃべりをしながら、途中で子供達へのお土産を買いながら、歩く。

「それで、レイは子供の名前は考えたの?」
「ふふふ、エリス。よくぞ聞いてくれたね。もう、バッチリだよ。ソルトのアドバイス通りにちゃんと考えたのさ」
「へ~それは楽しみね。で、ちゃんと子供達の容姿とか考えて決めたんだよね?」
「……」
「ん? どうしたの」
「考えてなかったんじゃないの。だろ、レイ」
「……だって、二十人分の名前を考えるだけでいっぱいいっぱいで」
レイが言い訳にならない言い訳をするのを聞いて、ソルトが助け舟を出す。

「なら、子供達を並べてから、その候補に合う子を選んじゃダメかな」
「ソルト、それはあんまりだよ」
「エリス。そうかもしれないけど、今はそれで勘弁してもらえないかな。あとは、子供達に自分で選んでもらうとか」
「それも、ダメ! 名付けは親の仕事だもん。ごめんね、エリス。ちゃんと子供達を前にして、名付けるからさ」
「レイ、親って。別にレイが親な訳じゃないし」
「ソルト。確かに私は親じゃないけど、親代わりとしてやれることはやってあげたいと思うの。だから、名付けは私に最後までさせて欲しいの」
「分かった。レイの思う通りにすればいいさ。良くも悪くもレイの責任になるけどな」
「もう、水を指すようなことは言わないの!」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆
屋敷に戻るとレイが食堂に保護した子供達を集めて欲しいとティアにお願いする。
急に集められた子供達はキョトンとしているが、ソルトが鑑定した年齢順に並べられ、なにが始まるのかと不安を感じている。
「え~突然ですが、今から名前を決めたいと思います。はい、拍手~」
レイに煽られる形で訳も分からないまま、キョトンとした顔で拍手をする子供達。

ソルト達は食堂の隅でその様子を眺めているだけで、レイのすることに対し口出しをすることはない。
「急に集まってもらってゴメンね。でもね、あなた達には名前が必要だと思うの」
「なまえ?」
保護した子供達の中で三歳くらいの子がレイに聞き返す。

「そう名前。赤ちゃん……あなた達が産まれた時にお父さん、お母さんがね、産まれてきた子供のために最初にあげるプレゼントが名前なの」
「おとうさん?」
「おかあさんってだれ?」
子供達はレイが話す言葉が理解出来ていないみたいで、親ってなに? お父さんって誰? お母さんはどんな人? と口々に質問する。
「そっか、あなた達はお父さん、お母さんを知らないんだね」
「うん、知らないよ。だれのこと? 養護院のおじさんは違うよね?」

ティアが思わず、その子を抱きしめる。
「ねえ、おねえさん? 苦しいよ」
「なる! 私達があなたのお母さんになる! お父さんにもなる! だから、お願いだから……」
「おねえさん、なんだかいい匂いがする。ねえ、もう少し強くしてもらっていい?」
「いいわよ! いつでも、いくらでも抱きしめてあげるから!」
「……ぐすっ」
ティアに抱かれた女の子が不意に泣き出す。

「なんで、泣いてるの?」
「分からない。でも……ぐすっ……でも、ずっとこうされていた気がするの。うわぁぁぁん……」
「……」
ティアは無言で、その子をずっと抱きしめて大丈夫、大丈夫だからと言い続ける。
やがて、子供が泣き止み寝息を立て始めると、今日はやめましょうとエリスから提案され、皆を大部屋へと連れて行く。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「なあ、レイはさ、お菓子とか料理とか作れたりしないの?」
「ソルト、ケンカ売ってる?」
「いや、そういう訳じゃないけどさ。例えば、トンカツなら肉に小麦粉塗して、溶き卵にくぐらせて、パン粉を付けてとか手順があるじゃない。料理はダメでも手順として、覚えていることがあるんじゃないの? 料理はダメでもさ」
「ぐっ、料理がダメって二回も言った。でも、ソルトが言いたいことは分かった。要は私がアドバイスしてトンカツとかが食べたいってことよね?」
「そう、分かってくれた?」
「ソルトが言いたいことは分かる。でも、私が知っているとは思わないで!」
「え?」
「ソルト、女子だから、料理が出来るって言うのは、幻想だから」
「そうなの。でも、エリスは出来るけど?」
「私だって、二百歳を越えれば出来ると……思う」
「ふ~ん、レイはそう思っているんだね」
「なに? エリス、ちょっと怖いんだけど……」

戯れ合う二人は放っておき、厨房へと向かうとサリュとミディが昼食の準備に忙しそうにしていた。
「ねえ、ちょっとお願いがあるんだけど?」
「ソルト君、なに? 見ての通り忙しいんだけど」
「ちょっと、サリュ。とりあえず、どういうことか聞いてみようよ。さ、話してみて」
「えっとですね。おかずを一品作って欲しくて」
「追加して欲しいの? それって、美味しいの? 手間はどうなの?」
サリュが矢継ぎ早に言ってくるが、ソルトがまずは手順をみて欲しいとお願いし、サリュとミディの前で実演してみせる。

用意するのは、小麦粉、パン粉、溶き卵に熱したラード。
ソルトがオークのロース肉を取り出すと、脂身に切り込みを入れ、包丁の背で筋を切り、小麦粉を塗し溶き卵に潜らせるとパン粉を付け熱したラードの中に投入する。
手順としては、あとはオークカツの衣が小麦色に変わるまで揚げるだけとソルトがサリュとミディに説明する。

やがて、オークカツの一枚がこんがり小麦色に揚がるとソルトはその一枚を鍋から取り出し、まな板の上で一口サイズに切り味見と称してソルト、サリュ、ミディ、エリスにレイで揚がったばかりのロースカツを皆で試食する。
「「「「うまっ!」」」」
「久々に作ったにしては上出来。あとはキャベツにトンカツソースがあれば完璧だけどね」
ソルトが分かったかなと言う前に、サリュ、ミディが完璧な流れ作業で、ロースカツを次々と揚げていく。
「ジャマ!」
「ごめんなさい」
サリュに厨房から追い出されるソルトであった。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆
昼食ということで、ソルト達と一緒に保護した子供達も一緒にテーブルに着き、食事が準備されるのを待つ。
「ん? 見たことがないおかずがあるな。ミディ、これはなんだい?」
旦那に聞かれたミディがそれはロースカツだと答え、皆もその一品に注目する。
「ソルト君が教えてくれたの。まずは食べましょうか。いただきます!」
「「「いただきます!」」」
ミディの号令で一斉にロースカツに手を伸ばす。
保護されたばかりの子供達は遠慮がちに手を伸ばしていたために、少々出遅れたが大丈夫とティアが、それぞれの皿へと取り分けてくれた。
「「「ありがとう、お姉ちゃん」」」
「ふふふ、いいのよ。遠慮しないでいいからね」
「「「うん」」」

「それにしてもソルトがこんなに料理が出来るなんてね」
「一人暮らしナメンナ。揚げ物なら、大抵は出来るぞ。なんせ消費量がヤバいからな」
「そうなんだ」
「逆にレイはなんで知らないんだ?」
「だって、食べたい時はコンビニに行けばあるし。自分で作らなくてもよくない?」
「これだから、お嬢様は……」
「別にお嬢様って訳でもないんだけどさ、料理作ってくれる人がいなかっただけなんだ」
「なんで? 親はいるんだろ」
「戸籍上の親はね。帰るといつも、テーブルの上にお金と『今日はこれで食べてね』って書いたメモがあるだけ。『今日は』じゃないだろ! っていつも突っ込んでいたよ」
「そうか。そこで自分で作ろうとはならなかったんだな」
「そうだね、コンビニが近くにあったし、そんなにアレ食べたいとか欲求もなかった気がする」
「お前……寂しいな」
「放っといてよ! そういう、ソルトはどうなのよ!」
「まあ、俺も鍵っ子だったからな。お前と似たようなもんだ。あとは遊ぶ金欲しさに自炊を覚えたことくらいか」
「そっちも十分、寂しいじゃないの」
「まあな、でもこうして役に立ってるぞ」
「ぐっ……」
「次は唐揚げだな。いっそ、ワイバーンでも狩れればいいんだけどな」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆
その後、落ち着いた子供達を前にレイが一人ずつ名前を決めていき二十人の名付けを終わらせる。

「終わった~」
「お疲れ様」
「本当だよ」
「でも、やり甲斐はあったんじゃないの?」
「エリス。それはもちろんだよ。見てよ! ほら、あの子達。嬉しそうに互いに名前を呼び合ってるじゃない。あれ、見てるだけでも私の苦労は、報われるってもんだよ」
「レイ、やり切った感があるけど、その前に汚部屋の掃除も済ませような」
「ソルト、なに言ってんの? 大部屋はキレイにしてるじゃない?」
「そこじゃない。屋根裏のお前の部屋のことだ」
「別にあそこはそのままでいいじゃない。なに言ってんの?」
「『なに言ってんの』と言いたいのはこっちだ。いいから、掃除しろって。ティアさんに頼んだけど、午前中で終わらなかったと聞いてるぞ。だから、お前が率先して掃除して来い!」
「どうしても?」
「ああ、どうしてもだ」
「そんなことより、遺跡はどうしたのよ。遺跡に行こうよ!」
「お前の部屋の片付けが出来てからな」
「ぶぅ~」

レイを部屋の掃除へと追いやると、エリスがソルトに話しかける。
「ソルトは、どうするの?」
「どうって?」
「だから、帰りたいとか、そういうのはないの?」
「あ~そういうこと。俺は正直ないよ。もう、親とは何年も会ってないし、兄弟ともそんなに親しくしている訳でもないしさ、親しい友達もそんなにいないし。だから帰ってもいいことないしね」
「ふ~ん、そうなんだ。でも、どうなの? 実際に帰れそうなの?」
「……」
エリスの質問にソルトが黙り込む。

「なにも言わないってことは、やっぱりないのね」
「それは『今はない』ってだけで、それに遺跡にもなにか情報があるかもしれないしさ」
「気休めね」
「気休めでも言わないと、レイが保たないと思ってな。アイツは俺みたいに元の世界に帰るのを諦めている訳でもないからな。だから、向こうの世界を大事にしているレイや、アイツらはなんとか返してやりたいと思っているのが、俺の本音だな」
「随分と優しいのね」
「年下には優しくするもんだろ?」
「あら、ソルトも見かけ通りの歳じゃないの?」
「ああ、そうだな。どうやら、そうらしい。なんでこうなったのかは分からないがな」
「ふ~ん、そう」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆
翌朝、ゴルドと街の門で待ち合わせをし、遺跡を目指して魔の森へ向かうソルト達四人。ショコラとリリスはお留守番だ。

「ギルマスから聞いての通り、魔の森の様子がおかしい。今日は、それの調査もあるからな」
「ゴルド、しつこい! 十分、分かってるって」
 
魔の森への入口の前でゴルドが真剣味が足りないレイに最後尾を着いて来るようにと言う。
「……本当に?」
「ああ、本当だ。だから、お前は最後から着いてくるんだな」
「いやよ! そんなのやられたら、誰にも気づかれないじゃない!」
「お! 少しは分かるようになったか」
「分かるわよ! だから、先頭がゴルド、次にエリス、私、ソルトの順番よ!」
「まあ、理想だな。なら、これで行くか」

魔の森から遺跡までルートを確認しつつ、異変の調査も行いつつ、魔の森の中を進んでいく一行。
「ギルドで聞いた通りだな。なんの気配も感じられない」
「そうなの、ソルト」
「ああ、いつもならゴブリンもコボルトも魔の森の入り口から入ってすぐに襲ってくるんだけど、今日はそれがない」
『ソルトさん、ここから三十メール先で待ち伏せされています』
「みたいだね。気配察知にちょっとだけ反応がある」
「なに? ソルト」
「ゴルドさん、この先、待ち伏せされてます!」
「そうか。ならソルト頼めるか」
「分かりました。『錬成』」
土魔法でキラーアントが待ち伏せしていた穴を固めると、ゴルドさんと一緒に待ち伏せされていた穴に近付く。
「まだ、生きてますからね。注意してくださいよ」
「ああ、分かってる」
穴の中には触角を動かしながら、こちらを警戒しているキラーアントがこちらを見上げている。

「このままじゃ大きさとか分かりづらいな。ソルト、出してくれ」
「いいですよっと」
土魔法を使い、固めたキラーアントの周りも一緒に地面の上へと持ち上げる。
「うわぁ、大きい~さすが、異世界だね。蟻もこんなにでかいんだ」
「レイ、こいつはキラーアントだ。大きさは三メールに届かないくらいか。おそらく兵隊蟻だろうな」
「そうなんだ。でもさゴルド、こいつらは土の中なんでしょ? どうやって、退治するの?」
「問題はそいつだ。巣の中への入り口を見つけられればいんだが。まずは、こいつを仕留めるか」
ゴルドに頼まれ、ソルトが頭と胴体を繋ぐ首の部分だけ魔法を解除して露出させると、ゴルドが一閃、キラーアントの頭と胴体が離れる。
「ソルト、回収を頼む」
「はい」
ソルトはキラーアントの死体と頭を回収すると、その辺の生木を集め、火を着け風魔法で、キラーアントが待ち伏せした穴の中へと生木から出る白煙を誘導する。

「ソルト、なにしてんの?」
「なにって、燻して誘い出すのは基本でしょ」
その内、魔の森内のあちこちから白煙が出て来る。

ソルトがざっと確認出来ただけでも煙の柱は十本程度。
「しょうがないな。面倒だが、一つずつ潰していくか。多分、穴からはキラーアントが飛び出してくるぞ。皆、気をつけるんだ」
「「「はい」」」

そこからはゴルドの指示で、巣穴の入り口に近付き穴から這い出てくるキラーアントをソルトが束縛し、他のメンバーが首を刎ね、穴から出てこなくなったところで、ソルトが穴を塞ぎ、簡単には出られないようにすることを繰り返し、残りは目の前の一つとなった。

「ここで、最後だけど出てこないわね」
「エリス、まだ女王が確認出来ていない。巣穴の中でくたばっているのか、気絶しているかは知らんが、確かめない訳にはいかないだろう」
『ソルトさん、地面の中にまだ数体残っています。かなり大きな個体もいます。おそらく、これがキラーアントの女王なのでしょう』
「そうか、分かった。ありがとうな」

ルーとの会話の後にゴルドにここの下に女王がいることを話す。
「それは分かったが、どうやって、そこに辿り着く?」
「そうですね、こうしましょうか。『穴掘り』x10」

ソルトが放った魔法で、女王のいるであろう巣まで繋がる。そして、突然、開いた天井に向かって、無数とも言えるキラーアントが黒い塊となって、地上を目指して這い上がって来る。
「う~なんか気持ち悪い!」
「そうね、虫系はこれがあるから嫌なのよね」
「無駄口叩いとらんで、さっさと構えろ! 来るぞ!」
「虫なら、まずは寒さに弱いはずでしょ。『吹雪ブリザード』」
急激な温度の低下で、体の自由が効かなくなり、壁を這い上っていたキラーアントの群れが穴の底へと落ちていく。

「ソルトのバカ!」
「なんだよ、レイ。動きが鈍くなったんだから、やり易くなっただろ?」
「そうじゃないでしょ! なんで、地面の上に出て来るまで待たないのよ! これだと中に入らないとダメじゃない!」
「ああ、そういうこと。じゃ、俺は先に行くから」
「あ……」
ソルトはそういうと、穴の中に飛び込み一気に底へと降り立つ。

穴の底にはまだ満足に動けないキラーアントの首を刎ねながら無限倉庫へと回収しながら、女王の元へと近付いていく。

巣穴の一段高くなった位置に女王は大きな腹を横たえる様にうつ伏せの状態でいた。
女王の周りには食い散らかされた魔物と、冒険者らしい人の一部も散逸している。女王は今も卵管から卵を生み出しているが、その目には自分の巣穴を攻撃してきたソルトに対する憤怒の情が見てとれる。

「よほど悔しいみたいだな。女王様」
『ギシャァァァ!』
女王が叫びながら、蟻酸らしき液体をソルト目掛けて吐き出す。

「うわっ危ないな。あまり、動くなよ。『捕縛』」
女王の自由を奪うと女王の首に近付き、その首を刀で刎ねる。

女王の死体を回収すると、冒険者の亡骸も無限倉庫に収納し、地上へと戻る。
「ソルト! 終わったの?」
「ああ、終わった。女王様がいたから、始末してきた。もう、この巣穴はいらないな」
ソルトはそういうと、巣穴を土魔法で全てを埋める。

「これで、魔の森の異変は終わったと思っていいのかな?」
「ソルト、まだ安心するのは早いと思うぞ。まだ、帰るには早いしもう少し行ってみるか。レイ達はどう思う?」
「私はいいと思うよ」
「そうね、私もまだそれほど疲れてないし、いいわよ」
「じゃ、決まりだな」
「ゴルド、俺には聞かないのか?」
「聞く必要があるのか?」
「ないけど……」
「ないなら、いいだろ。ほれ、早く行くぞ」
ゴルドの張り切りになんとなく着いていけないソルトだが、ゴルドが続けて話す内容に責任を感じてしまう。

「ゴルドさん、そこまで張り切らなくてもいいんじゃないの?」
「ソルトよ。これは俺の推測なんだけどな、このキラーアントの異常な繁殖は俺達のせいかもしれない」
「ん? どういうこと?」
「俺達はコロニーを中心に討伐してただろ?」
「うん、そうだね」
「だから、それが原因で魔の森の中のパワーバランスが崩れて、キラーアントの異常繁殖に繋がったんじゃないかと俺は思う」
「え? でも、ゴブリンとかは別に他の場所でもコロニーは作っているんじゃないの?」
ゴルドの話す内容にソルトも反論するが、ゴルドはほぼ確信を持っているようだ。

「まあ、それはそうだが、アイツらもあまり自分達のコロニーの範囲外まではそうそう出てこないからな。だから、俺達のコロニー潰しがバランスを崩したってのが遠因の一部だろうな」
「一部ってことは他にもあるの?」
「お前は感じないか?」
「なにを?」
「いや、少しばかりな魔素が濃くなっているような気がするんだが……」
「魔素ね……」
『ルー、魔素って判定出来る?』
『魔素ですか……少々お待ち下さい。地図スキルをバージョンアップしました。これで魔素の影響範囲が分かるようになります』
『ありがと』
ソルトが視界の隅に映る地図をなにかモヤがかかった様な薄い膜が地図上に表示されている。
『ルー、魔素の影響の強弱で色分け出来るかな』
『地図スキルをバージョンアップしました。魔素の影響が濃い範囲を段階別に色分けしました。一番濃い所が赤く表示されます』
『分かった』
地図を凝視していたソルトがあることに気付く。

「あ~嫌な予感が当たったかも……」
「ソルト、どうした?」
「ゴルドさん、魔素が一番濃い所が分かったんですけどね」
「お、分かったのか? なら、そこに行けば、この魔の森が活性化した原因が分かるかも知れないな。よし、行こう。その場所を教えてくれ」
「遺跡です」
「そうか、遺跡か……遺跡だと!」
「ええ、どうも遺跡がその中心みたいですね」
「そうか……」
「どうします?」

ゴルドがしばらく考え、ソルト達に伝える。
「今日はここまでだ。ソルト、ギルマスの部屋に行ってくれ」
「それはいいけど……」
「いいから! 早く!」
ゴルドのいつもと違う様子に驚くソルトだったが、言われた通りにギルマスの部屋へと転移する。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ギルマスの部屋へと転移したソルト達にギルマスの怒声が浴びせられる。
「ソルト! お前はいつもいつも! 何度言っ「ギルマス、話を聞いてくれ!」……ゴルド、どうした?」
「実はな……」
ソルトを怒鳴りつけようとしていたギルマスをゴルドが止め、話を聞いてくれとさっきまでのことを事細かに説明する。

「なるほどな。ゴルドの言いたいことは分かった。要は遺跡になにかが起きて、魔の森の魔素が異様に溢れ出していることが、魔の森の活性化に繋がっているかも知れない。と、そう言うんだな」
「ああ、そうだ」
「なら、魔の森への探索はしばらくは禁止としよう」
「すまない」
「だが、誰かが遺跡まで行って対処しないことには、今以上のことが起きる可能性があるんだろ」
「ああ、それは確かだな」

ギルマスとゴルドはそれぞれ腕を組み目を閉じ、思案顔になる。

「ねえ、ソルト。これってさ、展開的には私達が行く話だし、行かないとダメなんだよね」
「まあ、そうだな。色々調べたいこともあるし、見付けたい物もあるしね」
「でも、どんなことが起きるか分からないんでしょ?」
「エリス、だからギルマスは悩んでいるんだと思うよ。俺達には転移があるし、いつでも逃げられるとは言っても、まだランクも低いしな。それにゴルドさんもパーティの一員として、連れて行っていいものかどうかも悩ましいな」
「それはどうして?」
「レイ、ゴルドさんには家族がいる。俺達と違ってな。まあ、屋敷にいるのも家族同然だが、ゴルドさんは本物の家族だから、未踏の地に行くのを躊躇するのも分かるだろ」
「そっか、そうだよね。私の家族はここにはいないけど……」

やがて、ギルマスが顔を上げ、ゴルドもそれに遅れて顔を上げる。
「すまない」
ギルマスがゴルドにそう告げ、頭を下げるとゴルドがギルマスの肩に手を乗せ、気にするなと言う。

「よし! 俺達『探求者』は明日の朝、遺跡を目指して、魔の森を踏破する!」
「えっと、ゴルドさんはそれでいいの?」
「言うな! そりゃ、俺だって怖いさ。だけど、誰かが行かないと、この街までアイツらが襲って来るかも知れない。そうなったらと思うと、居ても立っても居られない。だから、その前に出来る奴が出来ることをするまでだ」
「ゴルドさん」
ゴルドの手を見ると、両拳をギュッと力強く握っているのが分かった。

「ソルト、私はなにを準備すればいいかな」
「そうだな。まずはパンだな。あとは、調味料に肉以外の野菜とかの食材があればいいか。テントはいらないし……うん、そんなもんだな」
「分かった。エリス、行くよ」
「あ、もう待ちなさいよ」
レイはエリスの腕を引っ張ると、ギルマスの部屋から出ていく。

「ソルト、お前はなにも言わないのか?」
「ギルマスが俺達じゃないと難しいと判断したんでしょ。なら、それに応えるしかないじゃない」
「でも、お前はまだここに来て、日が浅いだろ。なのに……」
「ギルマス、もう俺はここに、この街に屋敷も買って、人も雇って、家族同然の暮らしをしているんだよ。そいつらを危険に晒したまま、逃げるってのは出来ないでしょ。ねえ、ゴルドさん。ゴルドさんもそれが出来ないから悩んでいたんでしょ」
「ふん、年下のお前に言われることでもない! 俺はこの街で生まれ、育って、夫婦になって、子供も産まれて家族が出来た。それをぶち壊されるのが嫌なだけだ」
「もう、怖いなら、さっさと逃げればいいのに」
「それが出来ればどれだけ楽か……」
「ごめんね、そうだよね」

ギルマスがソルトにまで頭を下げる。
「すまんな。今の俺にはこれくらいしか出来ん」
「いいよ、気にしないで。でも、魔の森の調査結果はいいとして、依頼は継続でいいんだよね?」
「いや……だが、それでは」
「ギルマス、俺達が依頼されたのは魔の森の異変に対する調査と、その原因の対処でしょ。なら、調査内容としては中途半端だし対処も出来てないから、このままでいいでしょ?」
「ふむ、ソルトの言うことが正しいな」
「ゴルドまで、そんなことを言うのか?」
「いいから、ギルマスはそこで俺達が報告しに帰ってくるのを待っててよ」
「そうだぞ、ギルマス。もう、心配で抜け落ちる毛髪はないようだが、あまり心配するな。俺達を信用してくれ」
「ゴルド! 俺はワザと剃っているんだからな! よし、その証拠にお前らが帰って来るまで、この頭は剃らずにそのままにして置こうじゃないか。あまりにも遅いと、ロン毛になってしまうぞ。だから……だから、ちゃんと帰って来いよ。いいな!」
ソルトとゴルドはなにも言わずにただ、ニヤリと笑って見せると、ギルマスの部屋を出ていく。

「本当に帰って来るんだぞ……」


~~~~~
と、いう訳でここまでを第二章としたいと思います。
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