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第三章 遺跡の役目

第1話 遺跡に向かう途中で

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屋敷に戻ると保護した子供達の世話をしながら、一緒に遊び、昼寝をし、夕方には一緒に食事の支度をしたりとソルト達は過剰とも言えるほど世話をしまくった。

そして、翌朝になるとソルトは屋敷を出る前に雇っている獣人家族に十分な資金を預け、保護した子供達の分も含めたドーピング用の御守りも渡す。
「ソルト君、これはどういうことなの?」
「ティアさん。俺達はギルドからの依頼で少しの間、この街を留守にします。その間の食事や細かい経費は、渡した資金で間に合うかと思います。あと、ここの警備はギルドにも依頼するつもりなので、安心して下さい。それに警備の合間に訓練もしてもらうように頼みました」
ティアも買い物ついでに噂話を耳にすることもある。そして魔の森の変容に付いても自然と耳に入って来る。魔の森と言えば、この街の近くにある狩場で、ソルト達が狩場としている場所であることも知っている。
そして、このタイミングでソルト達が長期間の遠征に出ると言う。
頭の中でいろんなことが合致したティアがソルトに問いかける。

「そう。もう、ソルト君達が行くのね。私達には止めることは出来ないのね」
「ティア、やめなさい」
「ワーグ、でも……」
「私達の……この街のためでもあるんだよね?」
「……」
「答えないか。でも、もうそれが答えみたいなものだよ」
「ワーグ、詳細は言えないけど、ソルトも私も、もちろんエリスだって、イヤイヤ行くわけじゃないの。それだけは分かって欲しい」
「レイ。私はなにも反対している訳じゃない。「ワーグ!」聞きなさい、ティア」
「……」
「ソルト君達がとてつもない力を持っているのは、私達も薄々感じてはいる。だから、今回の遠征も多少の危険はあるだろうけど、ソルト君達ならやり遂げるだろうと信じている。でも、これだけは約束して欲しい。私達の子供が生まれる前にはあなた達の無事な姿を見せて下さい。必ず、ここに戻って来ると約束して下さい。お願いします」
「「「「「お願いします!!!」」」」」
いつの間にか屋敷の玄関前に集まっていた獣人家族と保護した子供達まで並んでソルトたちにお辞儀する。

「ねえ、ワーグさん。顔を上げてよ」
「では、約束してくれるのですね」
「ああ、するさ。もうここが俺の家だからね。ちゃんと帰って来るって。もちろん、お土産も忘れずにね」
「きっとですよ。約束しましたからね?」
「ああ、だから近いって」
ワーグはソルトの手を両手で握りしめ、顔を近付け迫っていた。

「分かりました。では、私はソルト君達がいつ帰ってきてもいいように庭の手入れを十分にしておきます。いろんな花を咲かせて出迎えられるようにしましょう!」
「なら、私はいろんな料理を覚えましょう!」
「なら、僕は……」
「俺は……」

いつまでも終わらない約束なのか宣言を聞かされ、正直面倒と思いながらもソルトは行ってくるねと右手を上げ軽く挨拶をすると屋敷の玄関から出て行く。

「うっ……」
「泣くな、ティア! ソルト君達は帰って来ると言ったんだ。それに私達に出来ることは無事に帰って来てくれることを祈るだけだ」
「でも、なにもあんな子供達が行くことはないでしょ!」
「ああ、俺だって出来れば代わりたいさ。でも、俺じゃソルト君どころかレイの代わりにもなれないんだよ。ごめんな」
「ワーグ……」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ギルドにより、ニックさんのところで十分な数のオークを卸し、ゴルドさんもいるであろうギルマスの部屋へと向かう。
「来たか」
「ギルマス、出る前にお願いがあるんだけど、いいかな」
「来るなり、いきなりだな。まあいい、言ってみろ」
「俺の屋敷の警備をお願いしたいんだ」
「ああ、商業ギルドのことが心配か?」
「まあ、そうだね。逆恨みが一番怖いしさ。ね、お願い!」
ソルトがギルマスに屋敷の警備と、ついでに武器を使った手解きもお願いする。

「そんなことして大丈夫なのか?」
「大丈夫。ちゃんとドーピング用のを渡したから」
「おい、大丈夫だろうな」
「なにが?」
「お前の特製だろ? 教える連中なんざ、すぐに追い越すんじゃないのか?」
「多分だけど、ちゃんと使いこなすには時間がかかると思うから大丈夫だよ」
「そうか。お前がそういうのなら……」

ギルマスとの話を終わらせたソルトはソファに座り、一人難しい顔をしているゴルドに話しかける。
「ゴルド、もういいの?」
「ああ、ちゃんとカミさんとも話したし、子供達は……まあ分かってないだろうな」
「じゃあ、もういいんだね」
「ああ、もう思い残すことはない」
「やめてよ、ゴルドさん。俺達は死にに行くんじゃないんだから、縁起が悪いよ」
「そうか? なら、俺のことはソルトが守ってくれるのか?」
「まあ、今の俺に出来ることはこれぐらいかな」
ゴルの前にソルトが無限倉庫から『聖魔法』『自然治癒力向上』『毒耐性向上』『障壁』『麻痺耐性向上』『物理耐性向上』『魔法耐性向上』に加え、各種魔法スキルを付与したゴブリンの魔石をブレスレットに加工した物を出す。
「ちょっと、ジャラつくかもしれないけど、我慢してね」
「まあ、ドーピングの内容は聞かないほうがいいんだよな」
「ゴルド、聞かない方がいいわよ」
「エリス。加工したのはお前か」
「そうよ、どんなおじさんにも合うようなデザインは難しいんだからね」
「おじさん……まあいい。ありがとうな」
ゴルドがブレスレットを装備するのを確認したソルトが言う。

「じゃあ、ここから転移するから。はい、集まって、掴まって」
「おいおい、もう行くのか?」
「ギルマス、こういうのは早い方がいいでしょ。じゃ、掴まったね。行くよ! 『転移』」

「行っちまったか……」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「レイラよ。勇者の手紙は誰宛だ?」
「はい、メルティア公国のエンディという街のギルドへの封書を『レイコ』という人物に宛てた物でした」
「メルティア公国か、随分と遠いな。しかもあそこは遺跡があると噂されている森があったな。まあいい、ご苦労だった」
「はい」
「して、お腹の子は順調か?」
「はい、日に日に大きくなるのを実感しております」
「そうか、タツヤの方は上手くいかなかったが、タイガが単純で良かったと喜ぶべきか。なんにしても一人捕まえれば、もう一人を見捨てることなど出来んのが、彼奴ら勇者の特性だ。この調子で頼んだぞ」
「はい、宰相様」

レイラが部屋から出るのを見送った後、宰相は禿頭を撫でながら、一人呟く。
「遺跡か……」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「やばっ! いきなりだね」
「ソルト! なに涼しい顔してるのよ! アンタがここに転移したんでしょ! さっさとなんとかしなさいよ!」
「ソルト、悔しいがレイの言う通りだ。ここはお前の責任だな」
「ゴルドも涼しい顔してないで構えなさいよ。もう、なんで、こんなことになってるのよ」
ソルト達が転移して来たのは、以前ホワイトウルフが巣として使っていた穴の中だった。

「ここなら、誰にも見られないと思ったからなのに……うまくいかないね」
「いいから、気持ち悪いんだから、早くどうにかしなさいよ!」
「まあ、今は障壁の中だから。そんなに焦らなくても大丈夫だって」
「「「そんな問題じゃない!!!」」」
「……」

ソルト達が転移した直後にキラーアントの群れがソルト達を目掛けて襲って来たので、ソルトが障壁を展開してキラーアントからの攻撃を防いでいる状態だ。

「じゃあ、やりますかね」
『ルー、周りにはキラーアントだけ?』
「はい、生きているのはソルトさん達だけですね』
『生きている?』
『ええ、残念なことですが……』
『そういうことか。分かった、ありがとう』
『いえ……』
ルーとの会話を切り、ソルトは自分達を囲む障壁に齧り付きなんとか壊そうと試みるキラーアントに対し、『目標固定ロックオン』『麻痺パラライズ』『毒針ポイズンニードル』と続け様に魔法を打ち込む。

「後は静かになるのを待てば、終わりだね」
「これだから、チート様は……」
「ソルトって、出来ないことあるの?」
「それにしても、この前キラーアントを討伐したばかりだというのに、またなんでこんなところに?」

やがて、最後のキラーアントが息絶えたことを確認すると、ソルトは障壁を解除し全てのキラーアントを無限倉庫へ収納する。
「「「へ?」」」
「なに?」
「いや、なにってお前……あれだけのキラーアントの死骸を一瞬で収納したのか?」
「そうだけど?」
「いや、もういい。気にしたら負けな気がしてきた。レイが言うチートの意味もなんたなくだが分かって来た気がする」

ゴルドがソルトのすることに驚くが、ソルトはソルトでなにかを拾い集めている。
「ソルト、なにしているんだ?」
「え~と、犠牲者達の遺品をね」
「そうか、やっぱりいたか」
「うん。俺達がここを放置したから、他の魔物が住み着いたんだと思うとね、ちょっと責任を感じちゃうよね」
「まあな」

「じゃ、この辺りでいいかな」
巣穴の中央でソルトが巣穴全体に『洗浄』を行った後にオーククイーンの魔石を取り出すと岩で祠のような物を作り上げ、中に設置する。
「ソルト、それは?」
「これは、『魔物避け』の実験」
「「「実験?」」」
「そう。オーククイーンの魔石に『障壁』『魔素吸収(微小)』『位置固定』『物理耐性』『魔法耐性』を付与してみました」
「そうか。だが、障壁を張られたら、俺達は出られないんじゃないのか?」
「大丈夫! 俺が付与した障壁同士は中和するからね。だから、ゴルドさん達は『障壁』を発動させれば障壁をすり抜けられるからね」
「そうか。それはいいとして、ここにその『障壁』を展開した理由はなんだ? この巣穴なら埋めてしまえば済む話だろ」
「うん、そうなんだけど、ちょっとね」

すると、ソルトは巣穴の中を確認するように歩くと、確かここだったかなと少しだけ穴を掘ると無限倉庫から頭蓋骨を取り出し掘ったばかりの穴の中へと収める。
『お兄様! それは、もしかして……』
『なんだか、懐かしい感じがするね』
「リリスは気付いたんだね。そうだよ、君達のお母さんの骨だ。ここにお墓を作ろうと思ってね」
『お墓を……ですか?』
『お墓って?』
「ショコラ、あなた達のお母さんが安らかに眠れますようにって、ここに安置して、皆でお祈りするの」
『そうなの?』
『ショコラ、今は分からなくてもいいです。ですが、今はお兄様への感謝と共にお母様へ安らかに眠ってもらえるようにお祈りしましょう』
『うん、分かった』
掘った穴の上から土を被せたソルトは、その上に墓石となる岩にフェンリルの意匠を彫り込む。

「こんなものかな。リリス、どうかな? それほど下手とは思えないけど」
『はい、お母様にそっくりです……うぅ……』
「リリス、今までショコラを守って来たんだよね。大変だったと思うよ。だって見つけた時にはまだ小さかったもんね」
『あの時、お母様にあなたはお姉ちゃんなのだから、弟を守るのよと言われ、今までも……その教えを守って来たつもりではいます。ですが、今だけは……今だけは、少しだけ……いいですか』
「大丈夫、誰も邪魔はしないし、ショコラを守れる仲間もいっぱいいる。リリス、もうショコラを守る必要はないんだよ。もう、普通の姉と弟でいいよ」
『お兄様……うぅぅうわぁぁぁん……』
洞窟の中で、リリスの嗚咽だけが響く。

『お姉ちゃんはなんで泣いてるの?』
「「「「……」」」」
「レイ、ちゃんと後で言い聞かせろよ」
「変なところまでレイの影響を受けているのかしらね」
「レイ、流石に今のはないな」
「え? 私のせいなの?」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『お待たせしました』
「リリス、もういいの?」
『ええ、スッキリしました。お兄様、ありがとうございました。ところで、ショコラはどうしたのですか? なにか心なしかズタボロにされているような気がするのですが……』
「リリスは気にしなくてもいいから」
『レイがそういうのでしたら』

若干、しょんぼりしているショコラを誰も気遣うことなく、リリス達の母親の墓所となった洞窟を抜け遺跡へと向かう。

「ソルト、ここから遺跡までどれくらいなの?」
「ん~そうだね、歩きで二日かな」
「え~なら、ボードで行こうよ」
「それは無理だな。だって、ほら」
そう言って、ソルトがレイに分かるように地面を指差すがレイはなにが原因かを分かってないようだ。
「なにが問題なの?」
「あのな、これだけ雑草や藪がすごいとボードが浮き上がる高さを超えるだろ?」
「だから?」
「だからって……分かったよ。なら、レイはボードを使えばいい。じゃ、行こうか」
「そうこなくっちゃ!」
レイがボードを取り出し意気揚々と足を乗せ、さあ行くわよと走り出そうとするが……浮かない……進まない……

「ちょっと、どういうことなの! ソルト、なんとかしなさいよ!」
「だから、言っただろ。じゃあね~」
「あ! ちょっと~」

ちっとも進まないボードを収納すると先に歩くソルト達に追いつこうとレイは走り出す。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「もう、待ってくれてもいいのに!」
「だから、こうやって止まって待っているだろう」
「もう、そんなのアイツらのせいじゃないの!」
そうやって不満を漏らすレイの前で、ソルト達は立ち止まって進行方向のある集団を見つめている。

「ゴルドさん、あれはなんですか?」
障壁を張ったソルト達に見た目は猿の魔物がこちらに向けて汚物を投げてくる。

「ありゃ、フォレストエイプだな。アイツらは見ての通りだ。人に向かって汚物や石を手当たり次第に投げつけてくる」
「なんでそんなのと遭遇するのよ~」

「まあ、とりあえずは黙らせるか『目標固定』からの『麻痺』と。ゴルドさん、こいつらって食べます?」
「肉は食えたもんじゃないが、毛皮はまあまま需要はあるぞ」
「分かりました。なら、今のうちに首を刎ねちゃいましょう。それと、障壁を解除すると、上のも落ちてくるんで、ここから出る時は気をつけてね」
ソルトの言葉にゴルド達はビクッとするが、ゴルドが待てとソルトに言う。

「ソルト、待て! 解除する前に『洗浄』すればいいだけの話じゃないのか? それにこの障壁から出ようにもどこもかしこもアイツらの汚物だらけだ。だから、頼む。ここは『洗浄』を使ってくれ」
「それもそうか。じゃあ『洗浄』からの『解除』」
「もう、障壁にへばりついたヤツだけじゃなく、地面に飛び散っているのも洗浄してくれればいいのに……」
「文句言う前に踏まないように気をつけろよ。踏んだら、エンガチョだぞ」
「うわっやば!」
「なんだ、そのエンガチョってのは?」
「まあ、子供の遊びだね。あまり気にしないで。ゴルドさん」

ゴルドさん達にフォレストエイプに止めをさしてもらいながら、無限倉庫へと収納していく。

「しかし、妙だな」
「妙って?」
「ああ、こいつらはな。もう少し奥に生息しているはずなんだ。それが、森から入ってそう遠くない場所にいるってことはだ……」
「「「ことは?」」」
「餌を求めて移動したか。それか……」
「「「それか?」」」
「奥で異変が起きたか……だな」
「それって、ヤバくない?」
「ああ、ヤバいな」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ねえ、もう三日経ったよね? なのに、まだ遺跡は見つからないの?」
「レイ、うるさい」
「あまり、うるさくすると気付かれるだろ」
「そうよ、レイ。まずは大人しくしなさい」
「もう。で、さっきから皆でなにを見てるの?」

レイがソルト達の間に割って入り見たものは、巨大な虎と恐竜を思わせる巨大なトカゲの一騎打ちだった。
「うわ、特撮っぽい。あ! ソルト、あれ!」
「ん? そういうことか」
「ソルト、なにがあったの?」
レイがソルトに伝え、ソルトはレイが指差すものがなにかを確認すると、この目の前で繰り広げられている怪獣決戦の巨大トカゲが狙うものが分かった。

そこにはまだ幼い虎の兄弟が、母親の戦いが気になるのか巣穴の外に出てこようとしていたのだ。母虎の首を狙い咬みつこうと後ろ足で立ち上がり、そのまま母虎へと迫る。
向かってくるトカゲに気付いた母虎が左前足をブンとトカゲに向かって振るうと、トカゲの頭は千切れて胴体と泣き別れになる。

「ありゃ、余計なことをしちまったか」
『そこの人間、余計な真似をしてくれたな!』
「すまん! でもよ、出て来そうだったのは本当だったろ?」
『ぐぬぬ。だが、私があんな奴に負けることなどないのだから、放っておいてくれてもよかったのだ。それなのに……』
ジロリと母虎が見る方向には、自分達が悪いことしたと思っているのか、小虎達がすまなそうに項垂れている。

『ふん、まあいい。感謝の代わりだ。命だけは勘弁してやろう。とっとと行くがいい』
「ええ、それだけ? せめてさ、あの子達かお前の体を触らせて欲しいんだけど……ダメ?」
母虎はリリスとショコラの顔を見ると、嘆息する。
『お前達の主だろ? なぜ止めないんだ?』
『申し訳ありません。なぜか毛のある生き物に興味があるようで……』
『でも、お兄ちゃんに触られるのは気持ちいいんだよ』
『そうか……変わり者なんだな……ぐふっ』
「ハァ~気持ちいい~」
『な、なにをするんだ。私は許した覚えはないぞ!』
「いいじゃん。別に減るもんじゃないしさ。ハァ~幸せ~」
母虎の尻尾は不機嫌にブンブン振られるがソルトはお構いなしに母虎の首にしがみついている。
「もう、ご機嫌斜めだね~ここかな?」
『あっ……そこは……ぐるぐるぐる』
ソルトに喉元を触られ、抵抗虚しく母虎は喉を鳴らしてしまう。

「あちゃ~陥落させちゃったよ」
『私のお兄様が……』

ソルトが心配だったが、飛び出してしまったソルトを抑えることも出来ず、怖さのせいで母虎に近付けなかったレイ達が見たのは、母虎を撫でまくり陥落させたソルトの姿だった。

「あ~満足した~」
『ちょっ、ちょっと、私をそのままにしていくつもりなの?』
「あ~それもそうだね。ゴルドさん達も手伝って! このトカゲを解体しちゃおう。で、肉はこの子達にあげて、俺達は調理代として皮をもらおうか」
「おいおい、勝手に話を進めるな! まず、そっちの親御さんとはお前しか話が出来んのだ。まずはちゃんと了解を取ってくれ」
「分かった。ってことで、このトカゲの解体はこっちでやらせてもらうね。んで、皮は俺らでもらうね」
『な、なんでだ! その獲物は私達のものだ!』
「まあまあ、そっちは皮までは食べないでしょ? なら、いいじゃない。その代わりトカゲはちゃんと調理するからさ。あと俺達ももらうけど、その分はオーク肉と交換ね」
『な……』
「まあまあ、出来上がりを待っててよ」
ソルトは母虎が騒ぐのも気にせずにトカゲを解体し終えると調理台を作り、竈も土魔法で用意する。

ソルトは調理台の上でトカゲの肉を使い唐揚げの準備をしながら、オークのラードを鍋に投入する。
「エリス、そっちのオークカツの準備は終わった?」

別の調理台でオークカツの準備をしていたエリスにソルトが声をかけると、もう準備は終わっていると言われたので、こちらも竈を用意しその上に鍋を据えるとオークのラードを大量に投入する。

「これであとは揚げるだけ。じゃ、レイとゴルドさん、あとはお願いね」
「熱いから嫌なのに……」
「俺もこの油が跳ねるのがな……」

母虎は戯れる小虎の相手をしながら、さっきから漂ってくる揚げ物の匂いに気を取られている。
『なあ、ヒトよ。この匂いはなんだ? さっきから私の鼻がむずむずしてたまらないんだが』
「まあ、もう少し待っててよ。それから、俺の名前はソルトね。ヒトじゃなくソルトだから、よろしくね。で、そっちの名前は?」
『私達には名を持つ習慣はない。なんなら、お前がつけてもいいんだぞ?』
「ホントに?」
『ああ、私が気に入れば……だがな』
「勝負という訳か。いいだろう」

ソルトが母虎と妙な約束をした後にエリスから、揚がったと報告があり、揚げ物が盛られた皿の前に集まる。
『たまらん! なんだ、この匂いは……』
『お母さん、なんの匂いなの?』
『母ちゃん、なに?』

ソルトは唐揚げとオークカツが入った皿を虎の親子の前に並べる。
「どうそ」
『いいのか?』
「ああ、いいぞ。トカゲの肉ももらったしな」
『お母さん、いいの?』
『いいの?』
『ああ、いいぞ』
母虎の了承の声と共に揚げ物が盛られた皿へと頭から突っ込む。
『うわ、なにこれ! いつも生だったけど、これはおいしいね』
『うん、食べたことない味。でも、これってオークとトカゲなんでしょ? いつもと違うね』
『そんなに?』
『『うん!』』

母虎も子供達の様子から堪らず皿に顔を突っ込む。
『ウマ!』

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