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第五章 変わりゆく世界、変わらない世界

第9話 聞きたくなかった話を聞いた話

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ソルトは積み上げられた男達をジッと見る。
「ゴルドさん、コイツとコイツと……そこの奴。それ以外はいらない。どっかに捨ててきて」
「ダメ! ソルト、そんなことしたら、この人達殺されちゃうのよ!」
「いいよ。どうでも……」
「え?」
ソルトから告げられた冷淡な言葉にレイは一瞬、怯んでしまう。

「でも、ゴルドさんだけじゃ無理だね。レイ、ちょっと旦那衆を呼んで来て。あと、大八車もね」
「ソルト! 聞いてよ! 無視しないで!」
レイがソルトに対し、強い口調で訴える。そして、ソルトは嘆息しながらレイに話掛ける。
「レイ、こっちの三人はまだ救いがある。悪さに加担したと言っても、まだ人を殺めていないからね。でも、残りの連中は違う。躊躇うどころか進んで楽しんで人を殺している。だから、コイツらは救いようがないよ」
「でも……」
「レイ。確かに俺達がいたところでは人の命は何よりも重いって教えられてきたのは確かだ」
「でしょ! なら……」
「でも、ここは違う。人の命はその辺の石ころよりも軽いんだよ。分かるよね?」
「だからって……」
「なら、レイはコイツらが殺した人達の家族に対して、『どうか許して下さい』って言えるの? それでコイツらがレイに感謝すると思うの?」
「……」
ソルトは少し強めの口調でレイに話しかけるが、レイはまだ納得出来ていないようだ。ソルトもそれはしょうがないと思う。ソルト達がこのまま、この転がっている連中をそのままにしておけば、確かにコイツらは助かるだろう。でも、コイツらが生きていれば、また誰かに悪さして誰かが不幸になることは分かっている。だけど、ソルトはまだ、自分の手で人の命を絶つことに躊躇いがある。だから、ここは飼い主に責任を取って貰うのが一番だと思うことにする。
「そして、俺は正義の味方でもなんでもないし、それに直接、手を下すのはまだ躊躇する。だから、コイツらはコイツらの飼い主に処分してもらう。それが一番いい方法だと思うよ」
「ゴルド……ゴルドもそう思うの?」
「ああ、悪いが俺もソルトの言うことに賛成だ」
ソルトが強い意志で、コイツらを助けるつもりは微塵もないということはレイにも分かった。でもどこか納得出来ない部分があり、ゴルドに助けを求めるが、ゴルドもそれを分かってか、ソルトの意見を肯定する。
「でも、今ならまだ助けられるんだよ! どうして、ダメなの!」
「ゴルドさん、ごめんね。ちょっと聞きたくないことかも知れないけど、レイに現実を見てもらわないと先に進めないからさ」
「いい。慣れてる。で、どうするんだ?」
「こうするんだよ。『遮音結界』からの『自白最高』!」
ソルトは山積みの男達の中から、一番罪が重いと思える男を一人抜き出すと、拘束の一部を解いて、話せるようにすると周囲に音や声が漏れないように結界を張ると、男に対し自白すと気分が高揚し幸福感が味わえる魔法を掛ける。

「これでよし。ゴルドさん、何か質問してみて」
「何かって、急に言われてもな~」
「ほら、ここ最近で犯人不明の奴とかさ」
「そうか。じゃあ、アレを聞いてみるか。おい、俺の声が聞こえるか?」
「なんだよ、おっさん」
「いいか、よく聞け。少し前に雑貨屋の主人が殺されただろ。お前は何か知っているのか?」
「知っているのかだって~知っているに決まっているじゃないか! バカなのおっさん」
「待て! それはどういう意味だ?」
「どういうも何も俺達がやたからに決まっているじゃん!」
「じゃん……って。なら、その前のジョーイが殺され、娘が攫われたことは?」
「あ~それな。攫ってくるだけの話だったのにさ、あの親父が騒ぐからよ。思わず殺しちまったじゃねえか」
「殺した……なら、それは誰に言われてやったんだ?」
「おっさんもバカだな~俺だぞ。この街で俺に命令出来るのは領主様だけだろうが! ホント、バカだな~」
「……」
ゴルドは男から出来るだけ聞き出そうと、不明になっている案件に対し、自分が知っている限りを男に対し質問する。
やがてゴルドからの質問が終わり、その全てを聞かされたゴルドの顔は苦虫を潰したように歪んでいる。
そして、それはレイも同じ様で胸の前で両手をギュッと握りしめる。
「レイ、これでも救う価値はあると思う?」
「……」
「無理して答えなくてもいいよ。でも、これで分かったでしょ。じゃ、ゴルドさん、人を呼んでくるから、そいつには猿轡でも噛ませといて」
「ああ、分かった」
ソルトはゴルドにそう告げると屋敷に戻り、獣人の旦那衆に大八車を持ってくるように頼むとゴルドの所へと戻る。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「どういうことだ! どうして、そうなった?」
「申し訳ありません。ギラン様」
領主の屋敷でギランに報告しているのは守備隊の若い男だった。
「それだけじゃ分からないだろ! 俺が聞きたいのはどうして、アイツらが捕まったのかと言うことだ。アイツらは俺の子飼いの中でも十分な腕利きを揃えたんだぞ!」
「そう言われましても、私達もゴルドが受けた連絡を元に件の屋敷に向かった時には既に捕らえられていましたので、私にはそれがどうやって捕縛されたのかサッパリでして」
「ちっ、なんだよ! 使えねえな~じゃあ、アイツが囲っている女は手に入らなかったってことかよ。くそっ!」
ギランはソルトの側にいる女性を狙ったのに一人も攫ってこなかったことに腹を立てていたが、ふとあることに気付く。
「なあ、その捕まった連中はどうした?」
「さあ、ゴルドはその場に残り、私を含めた他の者は帰っていいと言われたので……」
「そうか。じゃあ、どうなったかまでは知らないと」
「ええ。申し訳ありません」
「まあ、いいよ。でも、詰め所に戻されたのなら、また連絡ちょうだいよ。後はこっちでなんとかするからな」
「分かりました。失礼します」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

男が詰め所に戻ると、その詰め所の牢屋には拘束された男達が寝かされていた。
「ん? おい、あれはどうしたんだ?」
「ああ、あれはさっき、ゴルド隊長が連れて来て牢屋に運び入れました」
男に聞かれた守備隊の一人がそう説明する。そして、ゴルドに聞こうにもゴルドの姿が見えない。
「隊長はどうした?」
「さあ? アイツらを置いた後、すぐに出て行きましたけど?」
「いないんだ。じゃあ、都合がいいな」
「何か言いました?」
「いや、別に……」
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