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第六章 いざ、王都へ

第8話 気は進まないけど

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 お宝のあった場所に羊皮紙の束があったので、ソルトはソレを手に取る。

「なんだコレ? エリス、分かる?」
「何があったの?」
「コレなんだけどさ」

 ソルトは拾った羊皮紙の束をエリスに見せると「貴族の紋章ね。それと教会のもあるわね」と答えた。

「そんな物がなんでここにあるんだ?」
「そんなことも分からないの?」
「レイは分かるのか?」
「ふふん、この美少女探偵レイ様に分からないことはないのよ!」
「美少女云々は置いといて、なんなの? 勿体ぶらずに言いなさいよ」
「もう、エリスは形式美ってのが分かっていないんだから。ソルトは分かるわよね?」
「いや、最近のアニメの話は分からないんだけど」
「え~」
「「いいから!」」
「もう、分かったわよ。いい? コイツらは野盗でしょ。そして、ココには貴族の紋章がある。それはいいわよね」
「ああ、それは分かっている。だから、なんなんだよ」
「そうよ。先に進みなさいよ」
「分からないの?」
「分からないわよ!」
「エリス、ちょっと待て。もしかするとだぞ」
「ソルト、言っちゃダメだよ!」

 何かを感じ取ったソルトが多分、答えと思われる考えを口にしようとするとレイがそれじゃ面白くないとソルトを止めようとするが、ソルトは構わずに話し出す。

「推測だけどな。ココにある紋章は襲わない様に言われているんじゃないのだろうか」
「そうね、教会の紋章もあるからね。それは十分に考えられるわね。レイも同じ考えだったの?」
「う、うん。そう……そうだよね」
「ホントに?」
「イ、 イヤだな~何言っているのかな。エリス君は」
「なんだか怪しいわね。まあいいわ。でも、これだけじゃ証拠にはならないわよ」
「そうか? ココにある紋章の連中が被害にあっていないことが分かるだろ?」
「そんなのたまたまだと言われたら、それでお終いよ」
「それもそうか。レイもそう思うか?」
「う、うん……そうだね」
「「……」」

 エリスの追求に言葉を濁したレイだが、レイが考えていたのはソルトの考えとは逆で野盗に羊皮紙の紋章を襲うように依頼された考えていたのだった。今、落ち着いて考えてみれば教会が絡んでいるのだから、ソルトの考えが合っていると思ったのだが、あれだけ大見得を切って今更違いますとは言えないレイだった。

 まずは他にも隠されていないかを確認した後はお宝をソルトが回収してからアジトの外に出たのだが、そこでソルト達が見たのは女性達が手に石を持って抵抗できない野盗達を滅多打ちにしているところだった。

「ちょっと何をしているのよ!」
「「「止めないでください!」」」
「だから、止めなさいって! ちょっと、ソルトもエリスも! 黙って見てないで止めてよ!」
「「……」」
「ソルト! エリス!」

 石を振りかぶっている女性の後ろからレイがしがみ付いて必死に止めるが、他の女性達は気にすることなく石を振り続ける。

 野盗達は「うぐっ」「ぐえっ」「ごほっ」と短く息を吐くだけで立ち上がることも振り下ろされる石から身を守ることも出来ずに一方的に殴られるだけだった。

 必死に止めようとしているのはレイだけでソルト達はただただ黙って見ているだけだったので、レイはそんなソルト達に女性達の暴力を止めるように言うが、動く気配はない。

「なんでよ!」
「レイ、離れなさい」
「なんで、離れたら殴るでしょ」
「だからよ」
「イヤよ! いいから、止めてよ!」
「もう、しょうがないわね」

 レイの言葉に動き出したエリスだが、その手はレイに回され、ゆっくりと女性から離される。自由になった女性はエリスに軽く会釈すると、石を振りかぶり倒れている男をその石で打ち付ける。

「なんで! 死んじゃうよ。なんでなの!」
「分からないの?」
「分からないわよ! だって死んじゃうんだよ」
「だからよ」
「え?」
「あのね、あの女性ひと達が一人で護衛も付けずに街道を歩いていたとでも思っているの?」
「いくらなんでもそんなことはしないでしょ。危険だもの」
「なら、なんであの女性達しかいないの?」
「それは……」
「分かった? あの女性達が乱暴されたことの痛みや恨みもあるかもしれないけど、殺されたパートナーや仲間の分の恨みを晴らしても罪じゃないでしょ」
「でもそんなの「ここは違うのよ」……分かっているわよ!」
「分かってないわよ。もし自分があの女性達と同じ立場になったら、どうするの? ただ泣くだけなの? それでアイツらが許せるの?」
「でも、それなら衛兵に突き出せば」
「それで亡くなった人達は帰ってくるの?」
「……でも、それはアレも同じじゃないの?」

 レイは今も石を振り下ろし続けている女性達を指差して訴えるが、エリスは黙って首を横に振る。

「同じじゃないわ。少なくとも仇を討ったと胸をはれるもの」
「でも……」
「レイ、これがここでのやり方なんだ。分かれとは言わないが慣れるんだ」
「……」

「ふぅ~ふぅ~……」

 やがて疲れたのか手に持っていた石を手放し一人の女性が立ち上がると、一人、二人と次々に立ち上がる。
 女性達は野盗の返り血を浴びて真っ赤に染まっているが、その顔は何かをやりきったように満足げだ。

「あの顔を見てもまだ間違っていると言える?」
「……でも」

 エリスの問い掛けに何かを言いかけたレイの頭をソルトはそっと撫でる。

「レイ。何もお前が間違っているとは言っていない。でも、ここは日本ではないし、法治国家でもない。『やられたらやり返す』これが正しいとは言わないが、他に納得する手段がないことも確かだ」
「ソルト……」

 レイはまだ何か言いたそうだったが、黙ってソルトの胸に顔を押し付けると静かに嗚咽する。

「ソルト、息があるのはどうする?」
「あ~ちょっと待って。ルー」
『三人は息がありますが、他のはもうダメですね』
「そうか。じゃあ、そいつらは最低限の回復でいいからお願い」
『分かりました。私も正直なところ気は進みませんが……回復ヒール
「ありがとう」
『ちょっとレイさんを甘やかし過ぎだと思います。私だって頭ポンポン……』
「……」
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