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第九章

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◇◇◇

「いない、か」

レミィはティアと最初に出会った街の外れにある塔に訪れていた。
薄暗くて何の気配もない。ティアを傷つけてしまった記憶が甦りレミィは双眸を伏せた。
何気なく呟いた声は低く割れた。
罪の意識に胸が痛む。

塔の窓から外を見下ろす。眼下にはロゼがいた。

黄金の毛並みが月の光に照らされてキラキラと輝いている。

レミィの視線を感じたロゼが振り向く。レミィは首を横に振りティアがいない、と仕草で伝えるとロゼが分かったと頷いた。

猫系統の半獣は稀だ。
王族の血族は猫系統が生まれる。
この国の王子の名前を知らない国民はいない。

この少年は、王子と同じ名前の『ロゼ』である。しかも、ライオンの特徴を有した猫系統の半獣人である。

このロゼがこの国の王子であろうが、レミィには全く関係ない。と普段なら気にも止めないが、もしあの『ロゼ』ならティアの弟という事になる。

「ロゼ、お前はこの国の王子か?」

もし、エメラルドが横にいたら『レミィちゃんったら単刀直入すぎよ!』と慌てるかもしれない。
だが、レミィは回りくどい手段が必要ではない相手になら手を抜いて馬鹿正直になる、のも手であると考える。裏表なく接する事も時として有効。

「だったら、何だよ」

挑戦的な強い光がロゼの瞳に宿る。
真っ直ぐな視線。純粋で嘘を厭う少年特有な強かな目の力。
レミィは思わず視線を外したくなった。自分は汚れている大人だからだ。

「ティアはここに居た。王女が眠る塔とされる場所で、ロゼはこの事を知っていたのか?」

「最近、知った。アホだよな。自分が許せねぇよ」

目の力が弱くなりロゼは唇を噛んだ。15才は脆い。大人と子供が半分ずつ。日々葛藤している。

「ティアに会いたいのか?」

「会いたいに決まってるだろ!会って母の腹の中にいる時から会いたかったって伝えたい…誤解されてたら、何よりも辛いし悲しい」

その切実なロゼの言葉を聞いてレミィは安心した。
傷つけるために会いたい、ではないのが一目瞭然で分かる。

「じいさんとして一回会ってるとか、アホ過ぎる!可愛い声のじいさんだな、とは思ったけど!!あーくそ!俺の馬鹿野郎!」

自分の最大の失敗を思い出して頭をかきむしるロゼ。あの時気が付けば、良かった。誤解を解いて今頃仲良く魚を食べていたかもしれない。ロゼはライオンの半獣人だが魚も好きだ。
動物の半分だけの特徴を持つが半獣人は人間とさほど変わらない。
人間よりは嗅覚等優れてはいるが、魔法が存在する世界では大差はない。

「…じいさんが姉だとは思わない。気づかなくても無理はないだろう」

レミィは思わず慰めの言葉をかけた。
生き別れの自分の姉がエロ目の眼鏡を掛けてじいさんに扮している、とは誰も想定しないであろう。

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