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第62話 バースたちの勘違い
しおりを挟む引き続き、バースたちがたむろする酒場。
「でも、あいつ妙に強くなかった?」
モモはソータたちが苦戦せずにハイリザードを倒したことがずっと気になっていた。
ハイリザードは下級パーティが倒せるほど弱い魔物ではない。
モモはオリバからソータは何もできないくらい弱いと聞いていた。
ハイリザードを軽くあしらえるほど強いのであれば、オリバのいたパーティでも多少は活躍ができたのではないか。
真剣な顔でそう考えるモモに対して、バースとケインは余裕の表情をしていた。
「確かに、ハイリザードを倒したときには驚いた」
「でしょ?」
「でも、後から考えれば、あのクソガキがハイリザードを倒せた理由は簡単に分かった……ハイリザードが死ぬ寸前だった。ただそれだけだろ?」
バースは一瞬真剣な顔をした後、ニヤッと笑みを浮かべる。
それを見たケインも同意見なのか、深く頷いてから鼻で笑う。
「そもそも、あんな子犬相手に苦戦するハイリザードなんかみたいこともない。見ただろ? 子犬に頭突きされてフラフラしてたんだぞ、あのハイリザード」
「確かに、なんかじゃれているだけにしか見えなかったよね」
モモはケインの言葉に強く頷く。
しかし、バースたちは重要なことに気づいていなかった。
ケルがケルベロスであることや、ソータが古代魔法の使い手であることに。
そして、オリバたちが強いと言われてS級まで成り上がった功労者がソータであったことに。
ソータのことを弱い者と決めつけて話を進める彼らには、いつまで経ってもその事実に気づけるはずがなかったのだ。
モモは誤ったバースたちの考えを聞いて、自分の勘違いに気づいたように安堵のため息を吐く。
それから、あっと何かに気づいたような声を漏らした。
「ていうか、なんで『魔物呼びの笛』なんてもの持ってるなら、さっき使わなかったの?」
「こいつ、宿に置きっぱなしにしていたらしいぜ」
「うそ、よくそんな危ない物宿に置いていったわね」
モモの言葉にケインが笑いながら答えると、バースは不機嫌そうに顔を背ける。
「別に、いいだろうが。結果として、安心した奴らを突き落とせるんだから最高だろ?」
バースはそう言うと、酒を一気に煽ってから振り向いて遠くの方に座っている男を見る。
「御者! 今回は残念だったが、次は乗客の有り金全部貰えるから少し多く恵んでやる! だから、今回は我慢しておいてくれ!」
「そ、そんな金いらないと言っているだろ! それよりも、家族には何もしてないだろうな!」
馬車の御者は微かに体を震わせながら、バースたちをじっと見る。
その御者の震えを見ながら、バースたちはくすくすと笑う。
「おまえが裏切らなければ、金だって渡すし、家族にも手は出さない。ずっとそう言ってるだろ?」
御者はバースたちに脅されて、バースたちの思い通りに動くことしかできなくなっていた。
バースたちの行いを冒険者ギルドにチクったら、家族の安全は保障できない。
そんな脅し文句を言われ、バースたちからは口止め料として多額のお金も押し付けられていた。
悪いことをしている自覚があっても力がないから逆らえず、悪いことに加担してしまっていることから、誰にも相談ができない。
御者はそんな悔しさと罪悪感を呑み込むように、一気に酒を呷っていた。
「有り金全部奪う気かよ、バース」
「俺らを馬鹿にしたんだ。それでも足りねーくらいだよ」
バースはケインの言葉に強く頷いて、言葉を続ける。
「まぁ、クソガキが魔物の群れに殺されれば、乗客たちはいくらでも金を積むだろうぜ。自分たちを守ってもらうための多額のチップをな」
バースはモモから受け取った『魔物呼びの笛』を眺めながら、ニヤッと不敵の笑みを浮かべるのだった。
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