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第63話 修行開始
しおりを挟む「さてと。それじゃあ、さっそく始めますか」
ヘリス高原にある宿に荷物を置いた俺たちは、修行のために宿から少し離れた野原に来ていた。
『魔力探知』で周辺を探っても、魔物はいなそうだし、民家もない。
修行の場所としてはもってこいの立地みたいだ。
サラさんは少し離れた頃で剣の修業をすると言って、見える位置で剣を振っている。
そんなサラさんのしなやかな剣を振る動きに、俺は少しだけ見惚れていた。
……本当にオリバも同じ剣士職だったんだよね? 動きが別物にしか見ないんだけど。
「ソータよ。ソータはどんな修行をするんだ」
俺がサラさんをしばらく見ていると、ケルが俺の脚に自分の前足を掛けて俺を見上げる。
くぅんと鳴きながら首を傾げる仕草を前に、俺は思わず微笑む。
「とりあえずは、魔法の発射位置の移動を極めたいかな。せっかく、地面から魔法を打てるようになっても、動く相手を仕留められないとどうしようもないしね」
自分の武器を増やすことも大切だけど、それと同じくらい扱える武器の熟練度は大切になる。
せっかく新しい武器を手に入れたんだから、とりあえずはそこを伸ばすことにしよう。
「動く敵か……」
ケルはそう言うと、少し考えてから足元にある小石を見つけて後ろを向く。
「ケル?」
ケルが後ろ足で小石を蹴ると、小石はヒュンっと結構な速度で飛んでいった。
そして、その小石はそのまま茂みの中へ。
「これくらいでよければ、手伝ってやってもいいぞ」
ケルはそう言うと、胸を張って誇らしげな笑みを浮かべる。
多分、今のケルが蹴った小石の速度に対応できるようになれば、早く動く魔物を相手にしても攻撃を当てることができるようになるだろう。
この修行法はかなり実践的な気がする。
「ケル、お願いしてもいいかな?」
「フフフッ。ソータよ、我の速度についてこれるかな?」
ケルはそう言うと、さっそく足元にあった二つの小石をピシピシッと蹴って遠くに飛ばした。
「『火球』、『火球』!」
俺は急いで地面に手を付けて、魔法の発射位置を移動させて二つの『火球』を発動させた。
しかし、地面から勢いよく出た『火球』はどちらもケルが蹴った小石を捉えることなく空を切った。
「くっ、中々当たらない」
「これは……中々面白いかもしれん」
悔しそうな俺に対して、ケルはパアッと明るい顔をして尻尾をブンブンッと振っていた。
どうやら、この修行法ならケルにとっても退屈にならないっぽい。
「ケル、この調子でいい?」
「任せてくれ、ソータよ」
それから、俺はキャッキャと楽しそうにケルが蹴り飛ばす小石を打ち抜く修行をすることになったのだった。
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