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本編
相手の為に変わる決意
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「サラ嬢! こっちで一緒に食べない?」
ラファエルは満面の笑みである。
ラファエルに呼ばれてやって来たのは、ウェーブがかったブロンドの髪にアクアマリンのような青い目の、少し冷たい雰囲気の美女だ。
「あら、賑やかでございますわね」
冷たい印象とは打って変わり、ラファエルの婚約者は優しく可憐な笑みを浮かべている。
ラファエルはミラベルとナゼールに向かって婚約者を紹介する。
「彼女はサラ嬢。この国のヴァンティエール侯爵家の長女で、僕の婚約者なんだ」
「ナゼールもミラベル嬢も、国王陛下が他国との同盟強化の為に、国境を堺に隣接する二家の者達を政略結婚させているのは知っているよね?」
オレリアンが補足する。
「存じ上げております」
「ああ……。僕の妹のアンナも、それでアリティー王国のマントヴァ侯爵家に嫁ぐから」
ミラベルとナゼールは控え目にそう答えた。
「ヴァンティエール侯爵領はガーメニー王国のランツベルク辺境伯領と隣接しているから、この二人は婚約することになったんだ」
「一応僕らは政略結婚だけど、きちんとサラ嬢のことを愛しているよ」
太陽のような笑みでさらりと言うラファエル。聞いているミラベルとナゼールの方が赤くなってしまう。
「ラファエル様はそういうお方でしたわね」
サラは困ったように微笑んだ。そしてミラベルとナゼールに目を向ける。
「改めまして、ヴァンティエール侯爵家長女で次期当主の、サラ・エルミーヌ・ド・ヴァンティエールでございます。どうぞよろしくお願いします、モンカルム侯爵令息ナゼール様、ルテル伯爵令嬢ミラベル様」
サラは優美な笑みである。
ミラベルとナゼールは目を大きく見開き驚いている。サラとは初対面のはずなのに、名前を呼ばれたからだ。
「あの……何故私達の名前をご存知なのです?」
ミラベルは控え目に質問した。するとそれにはラファエルが答える。
「サラ嬢は記憶力がいいんだ。全校生徒の顔と名前を覚えているし、教科書も全て暗記済みなんだよ。近隣諸国の言語も全てマスターしているし」
「そ、それは……凄いですね」
ナゼールはたじろいだ。
それからミラベルとナゼールも改めて軽く自己紹介をした。
「サラ嬢は僕達より一つ下の十四歳だけど、飛び級して第五学年に所属しているんだ。凄いよね」
ラファエルはサラに尊敬の眼差しを向けている。
「あ……では、学園で唯一の飛び級者というのは……」
ミラベルはハッとしてサラを見る。
「僭越ながら、私のことでございますわ」
サラはふふっと微笑む。
「第五学年……アンリエット様やジョルジュ様と同じ学年……」
ナゼールはポツリと呟く。
「ナゼール様、その方々は……?」
聞き慣れない名前が聞こえたので首を傾げるミラベル。
「オレリアンの姉君と兄君で、僕の従兄姉です。アンリエット様とジョルジュ様は双子でして……」
ナゼールは少し控え目な声で答え、ミラベルに微笑んだ。
それから、ミラベルとナゼールはオレリアン、ラファエル、サラの三人を加えて昼食を取っていた。
「それでザーラ嬢……あ、すまない。またガーメニー語の発音になったね、サラ嬢」
「気にしておりませんわ、ラファエル様。ナルフェック語とガーメニー語は発音が違いますもの。たまに間違えることだってございますわ」
「名前の発音って国によって変わることがあるのか。ナゼールとミラベル嬢は知っていたかな?」
オレリアンは内向的な二人に話を振ってくれる。
「……ああ。……僕も、妹から聞いたことがある」
「私も、何となく存じ上げております」
二人は緊張しながら控え目に答えた。
「そうか。ラファエルも確か、ナルフェックとガーメニーで名前の発音少し変わったっけ?」
「うん。ナルフェックでは、ラファエル・リュカ・フォン・ランツベルクって名乗っているけれど、ガーメニーに戻るとラファエル・ルーカス・フォン・ランツベルクになる」
それを聞いたミラベルはコソッとナゼールに聞く。
「ナゼール様……確かガーメニー王国の国王陛下のお名前は、ルーカス陛下でございましたよね?」
「ええ、ミラベル嬢。……僕の記憶でもそうです」
「お二人の仰る通りだよ。実はガーメニー王国の国王陛下と僕の父上は友人同士でね。丁度ランツベルク城にいらしていた時に母上が産気づいたんだ。それで国王陛下に名付けてもらったわけ」
二人の会話が聞こえていたので、ラファエルが入ってくる。
「こ、国王陛下が名付け親ですか……」
「凄いですわね……」
さらりと国王陛下に名付けてもらったと聞き、ナゼールとミラベルは慄いてしまった。
「サラ嬢の名前は、ガーメニー語ではどのように発音するのかな?」
オレリアンが興味ありげに聞いた。
「ザーラ・ヘルミーネ・ド・ヴァンティエールになるみたいでございます。ナルフェックでは発音しない音も発音するので少し戸惑ってしまいますわ」
サラはふふっと微笑んだ。
内気なミラベルとナゼールは自ら話を振ることが出来ず、オレリアンやラファエルやサラから振られた話に答えるだけであった。
(私はやはり社交性が問題あるようね……)
ミラベルは心の中でため息をつく。
(こんな大人数の中で僕は何も話せない……。やっぱり僕は社交性のない気持ち悪い奴だ……)
同じく、ナゼールも心の中でため息をついて俯く。
(だけど……)
ミラベルは目の前にいるナゼールを見る。
(ナゼール様は私のお陰で学園が楽しくなったと仰ってくださったわ。……ナゼール様の為にも、これから色々頑張りたいわ)
ミラベルは前を向いた。グレーの目は輝き始める。
一方、ナゼールもそれは同じだった。
(でも、ミラベル嬢はこんな僕と仲良くなりたいと仰ってくれた。ミラベル嬢の為にも……前を向いて頑張らないと)
俯くのをやめたナゼール。ヘーゼルの目が輝き始めた。
ミラベルとナゼールは、お互いの為に変わる決意をしたのだ。
ラファエルは満面の笑みである。
ラファエルに呼ばれてやって来たのは、ウェーブがかったブロンドの髪にアクアマリンのような青い目の、少し冷たい雰囲気の美女だ。
「あら、賑やかでございますわね」
冷たい印象とは打って変わり、ラファエルの婚約者は優しく可憐な笑みを浮かべている。
ラファエルはミラベルとナゼールに向かって婚約者を紹介する。
「彼女はサラ嬢。この国のヴァンティエール侯爵家の長女で、僕の婚約者なんだ」
「ナゼールもミラベル嬢も、国王陛下が他国との同盟強化の為に、国境を堺に隣接する二家の者達を政略結婚させているのは知っているよね?」
オレリアンが補足する。
「存じ上げております」
「ああ……。僕の妹のアンナも、それでアリティー王国のマントヴァ侯爵家に嫁ぐから」
ミラベルとナゼールは控え目にそう答えた。
「ヴァンティエール侯爵領はガーメニー王国のランツベルク辺境伯領と隣接しているから、この二人は婚約することになったんだ」
「一応僕らは政略結婚だけど、きちんとサラ嬢のことを愛しているよ」
太陽のような笑みでさらりと言うラファエル。聞いているミラベルとナゼールの方が赤くなってしまう。
「ラファエル様はそういうお方でしたわね」
サラは困ったように微笑んだ。そしてミラベルとナゼールに目を向ける。
「改めまして、ヴァンティエール侯爵家長女で次期当主の、サラ・エルミーヌ・ド・ヴァンティエールでございます。どうぞよろしくお願いします、モンカルム侯爵令息ナゼール様、ルテル伯爵令嬢ミラベル様」
サラは優美な笑みである。
ミラベルとナゼールは目を大きく見開き驚いている。サラとは初対面のはずなのに、名前を呼ばれたからだ。
「あの……何故私達の名前をご存知なのです?」
ミラベルは控え目に質問した。するとそれにはラファエルが答える。
「サラ嬢は記憶力がいいんだ。全校生徒の顔と名前を覚えているし、教科書も全て暗記済みなんだよ。近隣諸国の言語も全てマスターしているし」
「そ、それは……凄いですね」
ナゼールはたじろいだ。
それからミラベルとナゼールも改めて軽く自己紹介をした。
「サラ嬢は僕達より一つ下の十四歳だけど、飛び級して第五学年に所属しているんだ。凄いよね」
ラファエルはサラに尊敬の眼差しを向けている。
「あ……では、学園で唯一の飛び級者というのは……」
ミラベルはハッとしてサラを見る。
「僭越ながら、私のことでございますわ」
サラはふふっと微笑む。
「第五学年……アンリエット様やジョルジュ様と同じ学年……」
ナゼールはポツリと呟く。
「ナゼール様、その方々は……?」
聞き慣れない名前が聞こえたので首を傾げるミラベル。
「オレリアンの姉君と兄君で、僕の従兄姉です。アンリエット様とジョルジュ様は双子でして……」
ナゼールは少し控え目な声で答え、ミラベルに微笑んだ。
それから、ミラベルとナゼールはオレリアン、ラファエル、サラの三人を加えて昼食を取っていた。
「それでザーラ嬢……あ、すまない。またガーメニー語の発音になったね、サラ嬢」
「気にしておりませんわ、ラファエル様。ナルフェック語とガーメニー語は発音が違いますもの。たまに間違えることだってございますわ」
「名前の発音って国によって変わることがあるのか。ナゼールとミラベル嬢は知っていたかな?」
オレリアンは内向的な二人に話を振ってくれる。
「……ああ。……僕も、妹から聞いたことがある」
「私も、何となく存じ上げております」
二人は緊張しながら控え目に答えた。
「そうか。ラファエルも確か、ナルフェックとガーメニーで名前の発音少し変わったっけ?」
「うん。ナルフェックでは、ラファエル・リュカ・フォン・ランツベルクって名乗っているけれど、ガーメニーに戻るとラファエル・ルーカス・フォン・ランツベルクになる」
それを聞いたミラベルはコソッとナゼールに聞く。
「ナゼール様……確かガーメニー王国の国王陛下のお名前は、ルーカス陛下でございましたよね?」
「ええ、ミラベル嬢。……僕の記憶でもそうです」
「お二人の仰る通りだよ。実はガーメニー王国の国王陛下と僕の父上は友人同士でね。丁度ランツベルク城にいらしていた時に母上が産気づいたんだ。それで国王陛下に名付けてもらったわけ」
二人の会話が聞こえていたので、ラファエルが入ってくる。
「こ、国王陛下が名付け親ですか……」
「凄いですわね……」
さらりと国王陛下に名付けてもらったと聞き、ナゼールとミラベルは慄いてしまった。
「サラ嬢の名前は、ガーメニー語ではどのように発音するのかな?」
オレリアンが興味ありげに聞いた。
「ザーラ・ヘルミーネ・ド・ヴァンティエールになるみたいでございます。ナルフェックでは発音しない音も発音するので少し戸惑ってしまいますわ」
サラはふふっと微笑んだ。
内気なミラベルとナゼールは自ら話を振ることが出来ず、オレリアンやラファエルやサラから振られた話に答えるだけであった。
(私はやはり社交性が問題あるようね……)
ミラベルは心の中でため息をつく。
(こんな大人数の中で僕は何も話せない……。やっぱり僕は社交性のない気持ち悪い奴だ……)
同じく、ナゼールも心の中でため息をついて俯く。
(だけど……)
ミラベルは目の前にいるナゼールを見る。
(ナゼール様は私のお陰で学園が楽しくなったと仰ってくださったわ。……ナゼール様の為にも、これから色々頑張りたいわ)
ミラベルは前を向いた。グレーの目は輝き始める。
一方、ナゼールもそれは同じだった。
(でも、ミラベル嬢はこんな僕と仲良くなりたいと仰ってくれた。ミラベル嬢の為にも……前を向いて頑張らないと)
俯くのをやめたナゼール。ヘーゼルの目が輝き始めた。
ミラベルとナゼールは、お互いの為に変わる決意をしたのだ。
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