地味令嬢と地味令息の変身

宝月 蓮

文字の大きさ
8 / 18
本編

相手の為に変わる決意

しおりを挟む
「サラ嬢! こっちで一緒に食べない?」
 ラファエルは満面の笑みである。
 ラファエルに呼ばれてやって来たのは、ウェーブがかったブロンドの髪にアクアマリンのような青い目の、少し冷たい雰囲気の美女だ。
「あら、賑やかでございますわね」
 冷たい印象とは打って変わり、ラファエルの婚約者は優しく可憐な笑みを浮かべている。
 ラファエルはミラベルとナゼールに向かって婚約者を紹介する。
「彼女はサラ嬢。この国のヴァンティエール侯爵家の長女で、僕の婚約者なんだ」
「ナゼールもミラベル嬢も、国王陛下が他国との同盟強化の為に、国境を堺に隣接する二家の者達を政略結婚させているのは知っているよね?」
 オレリアンが補足する。
「存じ上げております」
「ああ……。僕の妹のアンナも、それでアリティー王国のマントヴァ侯爵家に嫁ぐから」
 ミラベルとナゼールは控え目にそう答えた。
「ヴァンティエール侯爵領はガーメニー王国のランツベルク辺境伯領と隣接しているから、この二人は婚約することになったんだ」
「一応僕らは政略結婚だけど、きちんとサラ嬢のことを愛しているよ」
 太陽のような笑みでさらりと言うラファエル。聞いているミラベルとナゼールの方が赤くなってしまう。
「ラファエル様はそういうお方でしたわね」
 サラは困ったように微笑んだ。そしてミラベルとナゼールに目を向ける。
「改めまして、ヴァンティエール侯爵家長女で次期当主の、サラ・エルミーヌ・ド・ヴァンティエールでございます。どうぞよろしくお願いします、モンカルム侯爵令息ナゼール様、ルテル伯爵令嬢ミラベル様」
 サラは優美な笑みである。
 ミラベルとナゼールは目を大きく見開き驚いている。サラとは初対面のはずなのに、名前を呼ばれたからだ。
「あの……何故わたくし達の名前をご存知なのです?」
 ミラベルは控え目に質問した。するとそれにはラファエルが答える。
「サラ嬢は記憶力がいいんだ。全校生徒の顔と名前を覚えているし、教科書も全て暗記済みなんだよ。近隣諸国の言語も全てマスターしているし」
「そ、それは……凄いですね」
 ナゼールはたじろいだ。
 それからミラベルとナゼールも改めて軽く自己紹介をした。
「サラ嬢は僕達より一つ下の十四歳だけど、飛び級して第五学年に所属しているんだ。凄いよね」
 ラファエルはサラに尊敬の眼差しを向けている。
「あ……では、学園で唯一の飛び級者というのは……」
 ミラベルはハッとしてサラを見る。
「僭越ながら、わたくしのことでございますわ」
 サラはふふっと微笑む。
「第五学年……アンリエット様やジョルジュ様と同じ学年……」
 ナゼールはポツリと呟く。
「ナゼール様、その方々は……?」
 聞き慣れない名前が聞こえたので首を傾げるミラベル。
「オレリアンの姉君と兄君で、僕の従兄姉いとこです。アンリエット様とジョルジュ様は双子でして……」
 ナゼールは少し控え目な声で答え、ミラベルに微笑んだ。
 それから、ミラベルとナゼールはオレリアン、ラファエル、サラの三人を加えて昼食を取っていた。
「それでザーラ嬢……あ、すまない。またガーメニー語の発音になったね、サラ嬢」
「気にしておりませんわ、ラファエル様。ナルフェック語とガーメニー語は発音が違いますもの。たまに間違えることだってございますわ」
「名前の発音って国によって変わることがあるのか。ナゼールとミラベル嬢は知っていたかな?」
 オレリアンは内向的な二人に話を振ってくれる。
「……ああ。……僕も、妹から聞いたことがある」
わたくしも、何となく存じ上げております」
 二人は緊張しながら控え目に答えた。
「そうか。ラファエルも確か、ナルフェックとガーメニーで名前の発音少し変わったっけ?」
「うん。ナルフェックでは、ラファエル・リュカ・フォン・ランツベルクって名乗っているけれど、ガーメニーに戻るとラファエル・ルーカス・フォン・ランツベルクになる」
 それを聞いたミラベルはコソッとナゼールに聞く。
「ナゼール様……確かガーメニー王国の国王陛下のお名前は、ルーカス陛下でございましたよね?」
「ええ、ミラベル嬢。……僕の記憶でもそうです」
「お二人の仰る通りだよ。実はガーメニー王国の国王陛下と僕の父上は友人同士でね。丁度ランツベルク城にいらしていた時に母上が産気づいたんだ。それで国王陛下に名付けてもらったわけ」
 二人の会話が聞こえていたので、ラファエルが入ってくる。
「こ、国王陛下が名付け親ですか……」
「凄いですわね……」
 さらりと国王陛下に名付けてもらったと聞き、ナゼールとミラベルは慄いてしまった。
「サラ嬢の名前は、ガーメニー語ではどのように発音するのかな?」
 オレリアンが興味ありげに聞いた。
「ザーラ・ヘルミーネ・ド・ヴァンティエールになるみたいでございます。ナルフェックでは発音しない音も発音するので少し戸惑ってしまいますわ」
 サラはふふっと微笑んだ。
 内気なミラベルとナゼールは自ら話を振ることが出来ず、オレリアンやラファエルやサラから振られた話に答えるだけであった。
(わたくしはやはり社交性が問題あるようね……)
 ミラベルは心の中でため息をつく。
(こんな大人数の中で僕は何も話せない……。やっぱり僕は社交性のない気持ち悪い奴だ……)
 同じく、ナゼールも心の中でため息をついて俯く。
(だけど……)
 ミラベルは目の前にいるナゼールを見る。
(ナゼール様はわたくしのお陰で学園が楽しくなったと仰ってくださったわ。……ナゼール様の為にも、これから色々頑張りたいわ)
 ミラベルは前を向いた。グレーの目は輝き始める。
 一方、ナゼールもそれは同じだった。
(でも、ミラベル嬢はこんな僕と仲良くなりたいと仰ってくれた。ミラベル嬢の為にも……前を向いて頑張らないと)
 俯くのをやめたナゼール。ヘーゼルの目が輝き始めた。
 ミラベルとナゼールは、お互いの為に変わる決意をしたのだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子

ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。 (その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!) 期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

魔法学園の悪役令嬢、破局の未来を知って推し変したら捨てた王子が溺愛に目覚めたようで!?

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
『完璧な王太子』アトレインの婚約者パメラは、自分が小説の悪役令嬢に転生していると気づく。 このままでは破滅まっしぐら。アトレインとは破局する。でも最推しは別にいる! それは、悪役教授ネクロセフ。 顔が良くて、知性紳士で、献身的で愛情深い人物だ。 「アトレイン殿下とは円満に別れて、推し活して幸せになります!」 ……のはずが。 「夢小説とは何だ?」 「殿下、私の夢小説を読まないでください!」 完璧を演じ続けてきた王太子×悪役を押し付けられた推し活令嬢。 破滅回避から始まる、魔法学園・溺愛・逆転ラブコメディ! 小説家になろうでも同時更新しています(https://ncode.syosetu.com/n5963lh/)。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さくら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

処理中です...