地味令嬢と地味令息の変身

宝月 蓮

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本編

強くなるミラベルとナゼール

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 ミラベルとナゼールは少しずつ、確実に良い方向に変わっている。
 見た目が洗練され以前より社交的になったミラベルは、サラやリリーと共に植物研究室の一画で香水の調香をしていた。
 薬品などを取り扱うこともあるので、三人はまたパンツドレスを着用し、その上から白衣を羽織っている。
「この香りはいかがでしょうか? 百合の香りにほんのりスパイシーさを加えたものと、薔薇の香りとベリーの香りを組み合わせたものでございます」
 ミラベルは自ら調香した香水をサラとリリーに試してもらっている。
「百合の方は、甘く可憐なだけでなくどことなくクールさが感じられますわね。少し大人っぽくなれる気がしますわ」
 リリーはエメラルドの目を輝かせている。
「薔薇の方は、ベリーが加わることでより可憐さが増していますわ」
 サラはうっとりとした表情だ。
「ありがとうございます」
 ミラベルはホッと肩を撫で下ろした。
「ミラベル様、少しその香水のサンプルをいただけないでしょうか? 実はこの香水を紹介したい方々がいらっしゃいますの」
「他の方に紹介できる代物かは分かりませんが……後ほどお渡しいたしますわ、サラ様」
 ミラベルは嬉しそうにムーンストーンの目を細めた。





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 そして二人は自分達を馬鹿にしてきた相手に対しても言い返せるようになっていた。

「何だかんだナゼールのは結局気持ち悪い機械オタクじゃないか」
「役に立たない知識身につけて何になるんですかね?」
「モンカルム侯爵家はこの先どうなるのやら」
 ダゴーベール達がいつものようにナゼールを馬鹿にしている。
「別に役に立っても立たなくても君達には関係のないことだと思います。僕のことをそう言っている暇があればもっと時間を有効に使えばどうですか?」
 ナゼールは真っ直ぐダゴーベール達の目を見て言い返した。ちなみに、ナゼールはもうすっかり痩せている。
「なっ!……ナゼールの癖に生意気なんだよ」
 ダゴーベールはまさか言い返されるとは思っていなかったらしく、そう吐き捨ててその場を去るのであった。
 それを物陰から見ていたオレリアンは満足そうに微笑んでいた。
「ナゼール、ちゃんと言い返せるようになってよかった」





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 一方、ミラベルもバスティエンヌ達に絡まれていた。
「見た目は多少マシにはなりましたけど、ミラベル様は社交面がまだまだですわね」
「ねえミラベル様、また算術の課題やっておいてもらえますわよね?」
「でしたら私の刺繍の課題も」
 ニヤニヤと笑うバスティエンヌ達だが……。
わたくしの社交面がまだ未熟だったとしても、貴女達には関係のないことでございますわ。それに、課題は自分でやるものです。わたくしは現在忙しいので他の方の課題までは手が回りませんわ。お手伝いなら他を当たるとよろしいかと」
 ミラベルはバスティエンヌ達の目を見てはっきりとそう言った。
「何ですって!? 私達の課題を手伝わないなんて!」
「……もう良いわ、マドロン様。行きましょう」
 バスティエンヌ達は不満そうにその場を立ち去った。
 この場面も、オレリアンは物陰からしっかりと見ていた。
「ミラベル嬢も、出会った頃よりもきちんと相手に物を言えるようになっている。……ナゼールもミラベル嬢も、お互いの為に頑張っているのかな」
 オレリアンは満足そうにアメジストの目を細めた。





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 昼食時も、ミラベルとナゼールは二人だけでなく、オレリアン、ラファエル、サラ、リリーの六人で過ごすようになっていた。
「ではナゼール様、紡績機の改良はもう少しで終わりますのね」
 ナゼールから紡績機の改良の進み具合を聞いたミラベルは、嬉しそうにムーンストーンの目を細めた。
「ええ。上手くいけば来週には完成する予定です。ミラベル嬢や皆さんにも是非見ていただきたいと思っています」
 ナゼールの表情は明るい。そして左手で器用にアプリコットのソースがかかったポークソテーを切り、口に入れる。
「楽しみにしております」
 ミラベルはふふっと微笑む。
「僕も、電池で動く紡績機を見るの楽しみだよ」
 ラファエルはペリドットの目をキラキラと輝かせて太陽のような笑みを浮かべ、バゲットを食べる。
「電池で動くというのは画期的なアイディアでございますわね」
 サラは興味深そうに微笑んでいる。
「電池……わたくしにはまだよく分かりませんが、どうなるのか見てみたいですわ」
 リリーがふわりと微笑み、メインに添えてあるブロッコリーを食べた。
「ナゼールの機械関連の技術や知識には本当に舌を巻くよ」
 オレリアンはナゼールに尊敬の眼差しを向けた。ナゼールは少し照れてしまう。
 六人は談笑しながら昼食を取っている。
「ミラベル様が調香した香水を、ナタリー王妃殿下のサロンに持っていきましたら、王妃殿下は絶賛されておりましたわ。それに、前女王陛下であられてこの学園の理事長を務めるルナ女大公閣下も大層気に入っておられましたわ」
 サラが食後の紅茶を飲みながら微笑む。
「え……! 王妃殿下のサロンに……!?」
 ミラベルはムーンストーンの目が零れ落ちそうなくらい大きく見開き、驚愕していた。ラファエル以外の者達も驚いている。
「ええ。以前、ミラベル様が調香された香水を紹介したい方々がいらっしゃると申し上げましたが、王妃殿下と女大公閣下のことでございますわ」
 サラは悪戯っぽくふふっと微笑んだ。
「ちょっと良いかな、サラ嬢。君は……王妃殿下のサロンに招待されているのかな?」
 オレリアンはさらっと出された情報に混乱していた。王族のサロンには、基本的にその道の第一人者や余程優秀な者しか招待されない。ましてやサラのようなまだ十四歳の成人デビュタント前の令嬢が招かれるようなことはほとんどないのだが。
「ええ、左様でございますわ」
 涼しい笑みで当たり前のように答えるサラ。
「な、なんと……!」
 ナゼールはヘーゼルの目を大きく見開き、口をパクパクとさせている。
「サラ嬢は優秀だからね。この前サラ嬢が書いた化学論文と生物学論文がこの国の国王陛下のサロンでも認められたんだよ。本当に凄いよね。サラ嬢は理事長である女大公閣下に匹敵する頭脳の持ち主とも言われているんだ」
 ラファエルは誇らしげだった。
「買い被りすぎでございますわ、ラファエル様」
 サラは少し頬を赤く染め、紅茶を飲む。
「それに、オレリアン様のお母様だって、女大公閣下がまだ女王として即位なさっていた頃、薬学サロンのメンバーでいらっしゃったではありませんか。宮廷薬剤師でもいらっしゃいますし。それに、わたくし達が生まれる前、疫病の特効薬を開発して流行前に抑えることが出来たと」
 サラはふふっと微笑みオレリアンを見る。
 リリーはその情報を聞き、何か思い当たる節があるようです少し考え込む。
「確かにそうだが……サラ嬢の方が凄い」
 オレリアンは完全にサラに脱帽していた。
「実はナゼール様の紡績機の件も、ガブリエル国王陛下にお伝えしたところ、大層ご興味を持たれていらっしゃいましたの」
「へ……!?」
 ナゼールはとてつもない情報にヘーゼルの目を白黒させている。
「もしかしたらミラベル様もナゼール様も、国王陛下や王妃殿下、もしくは『薔薇の会』からお声がかかるかもしれませんわね』
 サラがふふっと微笑むが、ミラベルとナゼールの脳内はパンク寸前だった。
「ナ、ナゼール様、王族のサロンと『薔薇の会』でございますよ」
「そ、そうですね……。仮にもしお声がけいただけたら……どうしたら良いんでしょう」
 ミラベルもナゼールも、嬉しいような困ったような感情になっていた。他の者達はそれを微笑ましげに見守っている。
 ミラベルとナゼールを取り巻く環境は確実に良い方向に変わっていた。
 しかし、それを良く思わない者達がいる。
 ダゴーベールやバスティエンヌ達だ。
 彼らは物陰からミラベルとナゼールの様子を睨みつけていた。
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