地味令嬢と地味令息の変身

宝月 蓮

文字の大きさ
17 / 18
番外編

兄弟姉妹

しおりを挟む
 ある日の昼休み、食堂にて。
「うーん……どうしようかな?」
「あら、ラファエル様、どうかなさったのでございますか?」
 いつもの六人で昼食を取っている時、ラファエルが何かに悩んでいる様子だった。サラは不思議そうに首を傾げている。
「家族へのお土産で少し悩んでいるんだ。もうすぐ長期休みだから、僕はガーメニー王国に帰国するんだけどさ、そろそろお土産もマンネリ化してきたんだ。折角だし、父上と母上、それから兄上や弟妹ていまい達全員個別に買いたいんだけど、まあ九人分買うのは大変だ」
 ラファエルは苦笑しているがどこか楽しそうである。
「九人……かなりの人数でございますね」
「ラファエル殿のお父上とお母上で二個、残り七個となると、ラファエル殿は八人兄弟ということですね」
 ミラベルとナゼールはラファエルの家族構成に目を見開いている。
「まあね。父上曰く、貴族として血筋は残しておくべきらしいけれど、父上は母上をこれでもかと言う程愛しているみたいだからね」
 ラファエルは苦笑する。
「確かに、辺境伯閣下は辺境伯夫人を溺愛なさっておりましたからね。何と申し上げましょうか、独占欲の強さも感じられましたわね。……それに、夫人に対して仄暗い欲望を抱いているような……」
 サラは思い出したように苦笑する。最後は誰にも聞こえない程の小さな声であった。
「そういえば、わたくしは皆様の兄弟姉妹などの構成についてあまり存じ上げませんわ」
 リリーは興味深そうにふふっと微笑んだ。
「確かに、リリー様やサラ様とは趣味の話をすることが主でしたので、ご家族のことはあまり知りませんわね」
 ミラベルもふふっと微笑む。
わたくしには三つ上の兄と二つ下の弟がいるのですが、ミラベル様はご兄弟はいらっしゃるのですか?」
 リリーはミラベルの方を見てそう聞いた。
わたくしには一つ上の兄がおりますわ。ナゼール様は、以前兄にお会いしていましたよね?」
「はい、ミラベル嬢の兄君エクトル殿はとてもお優しいお方でした」
 ナゼールは表情を緩める。
「ナゼール様の妹君であられるアンナ様も、とてもお優しくてお話ししていて楽しいお方でしたわね」
 ミラベルはナゼールの家族に会った時のことを思い出し、ふふっと控え目に微笑んだ。
「そう言えば、オレリアンには二つ上に双子の姉君と兄君がいたよね? 双子の場合、家や爵位を継ぐのはどっちだい?」
 ラファエルは興味ありげに首を傾げている。
「姉のアンリエットだ。兄のジョルジュより数分早く産まれたからね。兄上はグラス侯爵家への婿入りが決まっている」
 オレリアンはそう答え、食後の紅茶を一口飲む。
「やはり皆様ご兄弟がおられますのね。サラ様はいかがなのでございますか?」
「あ、リリー嬢、サラ嬢はその……」
 興味ありげにサラに目を向けるリリー。しかしラファエルが言いにくそうにリリーを制する。オレリアンも少し気まずそうな表情である。
「ラファエル様、別に隠すようなことではございませんわ」
 サラは気にしていないと言うかのように微笑み、話を続ける。
「私わたくしには兄弟がおりませんわ」
「現在は、と仰るともしかして……」
 ミラベルは瞬時に事情を察し、グレーの目は悲しげになる。
「ええ、二つ上の兄がおりましたが、わたくしが五歳の時に亡くなりましたわ。兄はとても病弱でございましたから」
 過去を懐かしみ、兄を思い出すサラ。
「あ……申し訳ございません。わたくし何も存じ上げずサラ様にご兄弟のことをお聞きしてしまいましたわ」
 サラに話を振ったリリーは、心底申し訳なさそうである。
「リリー様、お気になさらないでくださいませ。皆様も、そのように暗い表情をなさらないでください」
 サラは柔らかに微笑んだ。
わたくしも幼少期は兄と同じように病弱でございましたの。ですが、今はこの通り健康でございますわ」
 ふふっと自信満々に微笑むサラ。
「だけどサラ嬢、体力はあまりないよね。いつも重いものは僕が持っているじゃないか」
 ラファエルは少し悪戯っぽく笑う。
「いいではありませんか。ラファエル様の方が力も体力もございますもの」
 ふふっと笑うサラ。
 周囲の空気も柔らかくなった。
 また六人はいつものように談笑しながら昼休みを過ごすのであった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子

ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。 (その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!) 期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

処理中です...