29 / 36
本編
二人の友情は確固たるものに
しおりを挟む
「イルゼ・マルガレータ・フォン・ミュンヒハウゼン! 俺は君との婚約を破棄する!」
何と、夜会でヴォルフラムはそう宣言してしまったのだ。
「ヴォルフラム様、何故婚約破棄などなさろうとするのですか!?」
イルゼはショックを受けていた。
「イルゼ、君も気付いているのだろう? 俺は心から愛する人を見つけてしまったのだ! ユリアーナ・メビティルデ・ケーニヒスマルク嬢! 俺は貴女と結婚したいのです!」
高らかにそう宣言してしまったヴォルフラム。
(そんな……どうして……。それに、エッケンハルディン卿と結婚なんて絶対に出来ないわよ)
ユリアーナはヴォルフラムの宣言とイルゼの真っ青な顔を見て、頭が真っ白になってしまった。
周囲は「何と愚かな」とヴォルフラムを白い目で見ている。そしてユリアーナとイルゼを好奇の目で見る者もいる。
ガーメニー王国では上級貴族(公爵、侯爵、辺境伯、伯爵)と下級貴族(子爵、男爵)の結婚は認められていないのである。
「ユリアーナ嬢、俺はユリアーナ嬢でなければ」
ヴォルフラムはユリアーナの手を握る。
「や、やめてください!」
ユリアーナはヴォルフラムの手を強く払った。その後のことはよく覚えていない。
その夜会での騒動は、貴族社会にあっという間に広まった。
ヴォルフラムはエッケンハルディン子爵家当主、つまりヴォルフラムの父にこっ酷く叱られた末に、騒ぎを起こした罰として廃嫡になった。そして子爵家はミュンヒハウゼン男爵家への賠償もしっかり行った。しかし、新興貴族である男爵家と歴史ある子爵家では、歴史ある子爵家を支持する者が多い。よって、イルゼには全く非がないのだが、人前で婚約破棄されたことで傷物扱いである。それにより、イルゼの次の縁談は絶望的であった。縁談が全く来ないわけではないのだが、瑕疵のある令息だったり、一回り年上の男性の後妻としてだったりする。つまり、確実にイルゼが不幸になる縁談しかなかった。これにより、イルゼは自ら修道院に入ることを選んだのだ。そして、ユリアーナも社交界で好奇の目に晒されていた。
ユリアーナに非があったわけではないが、せめて一言でもイルゼに謝りたいと思った。ミュンヒハウゼン男爵家へ行くと、丁度修道院に向かおうとするイルゼと会った。
「イルゼ様、私は……」
そこで言葉に詰まるユリアーナ。
「ユリアーナ様……私はもう……」
イルゼは悲しそうに微笑み、そのまま何も言わず修道院に向かう馬車に乗り込むのであった。
ユリアーナはその後、イルゼと連絡が取れていない。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
「以上が私の過去でございます」
ユリアーナは悲しげに微笑んだ。
「ユリアーナ様……そのようなことがございましたのね」
エマは気付けばユリアーナの手を握っていた。
「だからユリアーナ様は男性からダンスに誘われた際に、婚約者がいるかを聞いたのですね」
エマは夜会でのユリアーナの振る舞いを思い出した。
「ええ。もうあのようなことがないように、確認するようになりましたの。それに、男性も少し苦手になってしまいまして」
ユリアーナは苦笑した。
「きっと私が、もっとエッケンハルディン卿を突き放していれば、あの様なことにはならなかったと思って仕方がないのでございます」
ユリアーナは俯いていた。
「ユリアーナ様が悪いわけではございませんわ。ミュンヒハウゼン男爵令嬢にも一切非はないでしょう」
「ありがとうございます、エマ様。そう仰っていただけると少し気が楽になりますわ。だけどイルゼは……」
ユリアーナはため息をつく。
「私は、ユリアーナ様にどのような過去がございましょうと、一緒におりますわ」
エマはユリアーナを優しく包み込むよに微笑む。
「エマ様……。私は、エマ様に初めて会った時、救われたのでございます」
そう言われ、エマはユリアーナがハッツフェルト伯爵令息にしつこくダンスに誘われていたことを思い出した。
「昨年のあの騒ぎの渦中にいて、誰も私を助けようとしてくれなかった。ですが、エマ様だけは私の過去を知らなかっただけかもしれませんが、私を助けてくださいました。それがどれほど嬉しかったか」
ユリアーナはヘーゼルの目に涙を浮かべていた。
「私は、過去など関係なく、ユリアーナ様を助けたいと思ったからあの時声をかけたのです。それに、ユリアーナ様と友人になれてとても嬉しいですわ。先程も、パトリック様とのことを聞いてくださいましたし」
エマは完全にではないが、明るさを取り戻していた。
「エマ様……」
ユリアーナは涙を浮かべたまま嬉しそうに微笑む。
「私達は、何があろうとずっと友人でございますわ」
エマはユリアーナの手を強く握った。
「エマ様、嬉しいです。私は、何があろうとエマ様の味方でございます」
ユリアーナのヘーゼルの目は、力強くエマを見つめていた。
こうして、二人の友情は確固たるものになったのだ。
何と、夜会でヴォルフラムはそう宣言してしまったのだ。
「ヴォルフラム様、何故婚約破棄などなさろうとするのですか!?」
イルゼはショックを受けていた。
「イルゼ、君も気付いているのだろう? 俺は心から愛する人を見つけてしまったのだ! ユリアーナ・メビティルデ・ケーニヒスマルク嬢! 俺は貴女と結婚したいのです!」
高らかにそう宣言してしまったヴォルフラム。
(そんな……どうして……。それに、エッケンハルディン卿と結婚なんて絶対に出来ないわよ)
ユリアーナはヴォルフラムの宣言とイルゼの真っ青な顔を見て、頭が真っ白になってしまった。
周囲は「何と愚かな」とヴォルフラムを白い目で見ている。そしてユリアーナとイルゼを好奇の目で見る者もいる。
ガーメニー王国では上級貴族(公爵、侯爵、辺境伯、伯爵)と下級貴族(子爵、男爵)の結婚は認められていないのである。
「ユリアーナ嬢、俺はユリアーナ嬢でなければ」
ヴォルフラムはユリアーナの手を握る。
「や、やめてください!」
ユリアーナはヴォルフラムの手を強く払った。その後のことはよく覚えていない。
その夜会での騒動は、貴族社会にあっという間に広まった。
ヴォルフラムはエッケンハルディン子爵家当主、つまりヴォルフラムの父にこっ酷く叱られた末に、騒ぎを起こした罰として廃嫡になった。そして子爵家はミュンヒハウゼン男爵家への賠償もしっかり行った。しかし、新興貴族である男爵家と歴史ある子爵家では、歴史ある子爵家を支持する者が多い。よって、イルゼには全く非がないのだが、人前で婚約破棄されたことで傷物扱いである。それにより、イルゼの次の縁談は絶望的であった。縁談が全く来ないわけではないのだが、瑕疵のある令息だったり、一回り年上の男性の後妻としてだったりする。つまり、確実にイルゼが不幸になる縁談しかなかった。これにより、イルゼは自ら修道院に入ることを選んだのだ。そして、ユリアーナも社交界で好奇の目に晒されていた。
ユリアーナに非があったわけではないが、せめて一言でもイルゼに謝りたいと思った。ミュンヒハウゼン男爵家へ行くと、丁度修道院に向かおうとするイルゼと会った。
「イルゼ様、私は……」
そこで言葉に詰まるユリアーナ。
「ユリアーナ様……私はもう……」
イルゼは悲しそうに微笑み、そのまま何も言わず修道院に向かう馬車に乗り込むのであった。
ユリアーナはその後、イルゼと連絡が取れていない。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
「以上が私の過去でございます」
ユリアーナは悲しげに微笑んだ。
「ユリアーナ様……そのようなことがございましたのね」
エマは気付けばユリアーナの手を握っていた。
「だからユリアーナ様は男性からダンスに誘われた際に、婚約者がいるかを聞いたのですね」
エマは夜会でのユリアーナの振る舞いを思い出した。
「ええ。もうあのようなことがないように、確認するようになりましたの。それに、男性も少し苦手になってしまいまして」
ユリアーナは苦笑した。
「きっと私が、もっとエッケンハルディン卿を突き放していれば、あの様なことにはならなかったと思って仕方がないのでございます」
ユリアーナは俯いていた。
「ユリアーナ様が悪いわけではございませんわ。ミュンヒハウゼン男爵令嬢にも一切非はないでしょう」
「ありがとうございます、エマ様。そう仰っていただけると少し気が楽になりますわ。だけどイルゼは……」
ユリアーナはため息をつく。
「私は、ユリアーナ様にどのような過去がございましょうと、一緒におりますわ」
エマはユリアーナを優しく包み込むよに微笑む。
「エマ様……。私は、エマ様に初めて会った時、救われたのでございます」
そう言われ、エマはユリアーナがハッツフェルト伯爵令息にしつこくダンスに誘われていたことを思い出した。
「昨年のあの騒ぎの渦中にいて、誰も私を助けようとしてくれなかった。ですが、エマ様だけは私の過去を知らなかっただけかもしれませんが、私を助けてくださいました。それがどれほど嬉しかったか」
ユリアーナはヘーゼルの目に涙を浮かべていた。
「私は、過去など関係なく、ユリアーナ様を助けたいと思ったからあの時声をかけたのです。それに、ユリアーナ様と友人になれてとても嬉しいですわ。先程も、パトリック様とのことを聞いてくださいましたし」
エマは完全にではないが、明るさを取り戻していた。
「エマ様……」
ユリアーナは涙を浮かべたまま嬉しそうに微笑む。
「私達は、何があろうとずっと友人でございますわ」
エマはユリアーナの手を強く握った。
「エマ様、嬉しいです。私は、何があろうとエマ様の味方でございます」
ユリアーナのヘーゼルの目は、力強くエマを見つめていた。
こうして、二人の友情は確固たるものになったのだ。
70
あなたにおすすめの小説
私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?
きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。
しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
親友に恋人を奪われた俺は、姉の様に思っていた親友の父親の後妻を貰う事にしました。傷ついた二人の恋愛物語
石のやっさん
恋愛
同世代の輪から浮いていた和也は、村の権力者の息子正一より、とうとう、その輪のなから外されてしまった。幼馴染もかっての婚約者芽瑠も全員正一の物ので、そこに居場所が無いと悟った和也はそれを受け入れる事にした。
本来なら絶望的な状況の筈だが……和也の顔は笑っていた。
『勇者からの追放物』を書く時にに集めた資料を基に異世界でなくどこかの日本にありそうな架空な場所での物語を書いてみました。
「25周年アニバーサリーカップ」出展にあたり 主人公の年齢を25歳 ヒロインの年齢を30歳にしました。
カクヨムでカクヨムコン10に応募して中間突破した作品を加筆修正した作品です。
大きく物語は変わりませんが、所々、加筆修正が入ります。
ヴェルセット公爵家令嬢クラリッサはどこへ消えた?
ルーシャオ
恋愛
完璧な令嬢であれとヴェルセット公爵家令嬢クラリッサは期待を一身に受けて育ったが、婚約相手のイアムス王国デルバート王子はそんなクラリッサを嫌っていた。挙げ句の果てに、隣国の皇女を巻き込んで婚約破棄事件まで起こしてしまう。長年の王子からの嫌がらせに、ついにクラリッサは心が折れて行方不明に——そして約十二年後、王城の古井戸でその白骨遺体が発見されたのだった。
一方、隣国の法医学者エルネスト・クロードはロロベスキ侯爵夫人ことマダム・マーガリーの要請でイアムス王国にやってきて、白骨死体のスケッチを見てクラリッサではないと看破する。クラリッサは行方不明になって、どこへ消えた? 今はどこにいる? 本当に死んだのか? イアムス王国の人々が彼女を惜しみ、探そうとしている中、クロードは情報収集を進めていくうちに重要参考人たちと話をして——?
魔女見習いの義妹が、私の婚約者に魅了の魔法をかけてしまいました。
星空 金平糖
恋愛
「……お姉様、ごめんなさい。間違えて……ジル様に魅了の魔法をかけてしまいました」
涙を流す魔女見習いの義妹─ミラ。
だけど私は知っている。ミラは私の婚約者のことが好きだから、わざと魅了の魔法をかけたのだと。
それからというものジルはミラに夢中になり、私には見向きもしない。
「愛しているよ、ミラ。君だけだ。君だけを永遠に愛すると誓うよ」
「ジル様、本当に?魅了の魔法を掛けられたからそんなことを言っているのではない?」
「違うよ、ミラ。例え魅了の魔法が解けたとしても君を愛することを誓うよ」
毎日、毎日飽きもせずに愛を囁き、むつみ合う2人。それでも私は耐えていた。魅了の魔法は2年すればいずれ解ける。その日まで、絶対に愛する人を諦めたくない。
必死に耐え続けて、2年。
魅了の魔法がついに解けた。やっと苦痛から解放される。そう安堵したのも束の間、涙を流すミラを抱きしめたジルに「すまない。本当にミラのことが好きになってしまったんだ」と告げられる。
「ごめんなさい、お姉様。本当にごめんなさい」
涙を流すミラ。しかしその瞳には隠しきれない愉悦が滲んでいた──……。
婚約解消は君の方から
みなせ
恋愛
私、リオンは“真実の愛”を見つけてしまった。
しかし、私には産まれた時からの婚約者・ミアがいる。
私が愛するカレンに嫌がらせをするミアに、
嫌がらせをやめるよう呼び出したのに……
どうしてこうなったんだろう?
2020.2.17より、カレンの話を始めました。
小説家になろうさんにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる