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ここは聖獣の棲家
しおりを挟む「ここって果樹ばかりなの?」
ダンジョン一層を物珍しげに進みながら、トムは所々に生える果樹を指差した。
小川で分たれた各スペースに生える木々は五本から八本くらい。それぞれ己の自己主張をしつつ、たわわに果実を実らせている。
ざっと見ても数十種類。トムの知るものもあれば、知らない物もあった。
「そうだな。果実が多い。中には果実と思って良いものかもあるが」
そういうと、ダレスが樹海のような森を分け入っていく。大人しくついていったトムは、拓けた草原に生える蔓草みたいな物に眼を見張った。ゴロゴロ転がる大きな実は、日本人ならお馴染みな黒い縞模様をしている。
「……スイカ。ええええーっ?」
「スイカ? っていうのか? これは重すぎてな。運ぶのに苦労するんで、持って帰ったことはないが、水気が多くて美味いんだよ。味的には果実だと思うんだが……」
植物は基本的に、木に実る物が果実。地面に生える物は野菜という簡単な棲み分けがある。それに照らし合せるとスイカは野菜という論が地球にもあった。
苺やメロンもそうだ。そして、枝に実るトマトやピーマンは、実は果物に分類されるのではないかとか。
嘘か真か知らないが、そんな与太話をトムも前世で見聞きしていた。
……世界が変わっても、人間の行き着く疑問は変わらないんだなぁ。僕的にはスイカは果物だと思うけど。もちろん、イチゴも。
バカっとスイカを剣の鞘で割り、ダレスはトムとカイルに振る舞った。その大雑把なスイカ割りに、思わずトムは笑う。そして懐かしい味を堪能した。
「……うっまっ! え? めちゃくちゃ美味いじゃん、これっ!」
滴り落ちるほど溢れる汁をじゅるるっとすすり、カイルがスイカに眼を見開く。
しゃくしゃく心地良い歯ごたえ。噛むほどに口中で暴れまくる甘さは、暴力的なまでにカイルの舌先を刺激した。
スイカは糖度の高い果実だ。非常に水分が多いため、まるでジュースを呑むかのようにその甘さが身体に染み入っていく。
「美味いよな。この欠片一つで、十分喉を潤せるし。すげぇ水分の塊みたいな果実なんだよ」
ダレスもスイカを手で割り、欠片にして口に運ぶ。
皆が美味い美味いと食べるなか、トムだけが妙な思案顔でスイカを見つめていた。
……でも、どうして地球の植物が、ここにあるんだろう?
しかも、品種改良されたモノばかり。
幼い頃には抱かなかった疑問が、トムの脳裏に押し寄せる。あの時は大好物を目にして、懐かしさと嬉しさで一杯だった。
だが成長したトムは、このダンジョンの異常さに気がついた。しかし、だからといって何も分からない。
しゃく……っと齧るスイカは、前世で食べたモノと全く同じ。むしろ、こちらの方が甘いように感じる。
久しく食べていなかったせいかもしれない。あるいは想い出補正か。
……でも、美味しいモノは嬉しい。良いよね、別に。食べ物に罪はないし。
このアトロスの世界は、文明はそこそこなものの、地味に物が希薄だった。特に食材関係。
貧しいという程ではないが、とかく種類が少ないのだ。ジャガタラと呼ばれる芋は地球でいうジャガイモ。これも二種類しかない。
他の野菜や穀物も似たようなモノで、とにかく種類のバリエーションが乏しい。トマトやナスなんかもあるが、小さくて食べでがない。
地味なエグみもあり生食に向かず、大抵は焼くか煮込むか。地球の野菜とは比べ物にならない貧相さなのだ。
そう脳内で独りごちるトムだが、前世でも幼かった彼は知らない。
地球で流通している野菜は、先人の努力によって改良されまくった宝石のような野菜だということを。そういうさわりを知っていても、詳しい内情までは知らないため、アレが野菜の基本になっているトムのアトロスに対する評価は非常に渋い。
品種改良とは一夕一朝で成せることではないのだ。言葉として理解はしていても、その難しさや険しさを理解していないお暢気なトムである。
「まあ、こんな感じでな。判断に困るモノや運ぶのに向かないモノとか色々あるんだよ、このダンジョンは」
「不思議だな。でも、植物ばっかとはいえ、食べれる物が豊富なのはありがたいよ」
ダレスの説明を聞きながら、カイルは目ざとく憂い顔な恋人を見つめた。
最初は喜色満面だったのに、しだいに難しい顔をしはじめたトム。食べ物大好きなトムが、美味しいモノを前にして、なぜにそんな顔をしているのか。
……聞いたら教えてくれるかな? でも、最近、トムの奴、隠し事ばかりしてる感じなんだよな。ロイドおじさんが怪我してから、すごく態度がなおざりで…… また悪戯してやろうか。気にせずにいられなくなるくらい……
むくむくと頭をもたげる、雄の劣情。計り知れない独占欲を伴ったソレに、カイル本人が驚いている。
そんな青春小僧を置き去りにし、トムはダレス達の案内で二層に続く場所へやってきた。
そこには不可思議な魔法陣と台座。台座には大きな水晶のような物が埋め込まれていて、ときおり走る光が、ぴし…っ、ぱし…っと弾けるような音を微かに響かせていた。
「ここが下の層に転移するポータルだ。ここから下は探索しつつ進むしか無い。アリの巣のように張り巡らされた地下をな」
どこのダンジョンも同じだが、一層の広いフロアから始まり、ポータルで下へ移動する。そこからは無秩序な空間の世界。徒歩で移動する他なく、セーフティエリアという小さな空間がいくつか存在し、そこで安全な小休止を取れた。
そしてセーフティエリアには必ずポータルがあり、一方通行で一層のポータルに戻れる。帰還専用。先に進むには歩くしかない。
だから、何十層あるか分からないダンジョンを、踏破した者は未だにいないのだ。
まず食糧が保たないし、食糧を現地調達出来たとしても、獰猛な魔物の蔓延る空間で長く滞在するのは精神的にも耐え難い。
結果、進めるだけ進んで、行き詰まったらポータルで帰る。そんな単調な探索が中心になるらしい。
……僕の見たアニメとかなら、ショートカットの転移陣とか当たり前にあったんだけど。……現実は甘くないってことだよね。
「俺らはある程度マップをつけてるから。五層辺りまでは把握済みだ。安心して探索を楽しめ」
にっと歯を見せるダレスに頷き、トムは何気ない仕草でポータルに触れた。あっ! と、ダレスが止める間もなく、トムの姿が光に溶けて消えていく。
「しまったっ!」
慌ててダレスが手を伸ばしたものの、それは半呼吸の差でトムを掴み損ね、突然消え失せた恋人にカイルは酷く動転した。
「トムっ?! ダレス、トムはどこへっ?!」
苦々しげなダレスは、しばらく己の手を見つめてから呟く。
「分からん。二層のどこかに飛ばされたはずだが…… まさか、すぐにポータルに触るなんて思わなくて、説明がおくれた」
そう。ポータルは、触れた者を二層のランダムな場所に飛ばす。同じ場所に飛ぶには、どこかしら仲間同士繋がっている必要があるのだ。
腕を組んだり、手を握ったり。そう説明を始めようと思った矢先、トムは、さらっとポータルを撫でてしまった。
「じゃ、今、トムは一人きりでっ?! 俺も行くっ!」
がむしゃらに暴れてポータルを掴もうとするカイルを羽交い締めにし、ダレスらは慌てて仲間等と腕を組む。
「大丈夫だ。このダンジョンにヤバい魔物はいないから。トムのことだ。あまり動かずにセーフティエリアでも探して、じっとしてるさ。俺等は五層あたりまで網羅してある。すぐにトムを見つけてやるよ」
半泣きで愚図るカイルを抱き締め、ダレス達も二層に飛んだ。
案の定というか、やはりトムの姿はなく、別な場所に飛ばされたであろうトムを求め、ダレスの仲間は二手に分かれるとマップを頼りに動き出す。
虱潰しにセーフティエリアを探して回るダレスの後を、必死にカイルが追っていた頃。
トムは見も知らぬ空間で絶句していた。
《よう来たな》
《そなたがやってくるのを待ち侘びたわ》
《ささ、近う寄れ》
あんぐりと口をあけるトムの前には巨大な小山が三つ。真っ白なソレは、遥か高みから少年を見下ろし、うっそりと獰猛な笑みを浮かべた。
……何が起きて?
突然の異常事態に、ただただ呆然とするほかないトムである。
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