気弱令息が婚約破棄されていたから結婚してみた。

古森きり

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嫁入り 2

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 可愛すぎる、可愛すぎる!
 鼻血が出るかと思った。

「お疲れですよね。お部屋を用意しておりますので、今日はお休みください」
「いえ! まだまだ元気いっぱいです!」
「え? そうですか? えっと……それじゃあ、あの……お茶でもしながら今後のことをお話ししませんか?」
「はい! 喜んで!」

 ジェラール様とお茶ァ!

「では、わたくしはお土産をお渡ししてまいります。マルセル様、我が主人をよろしくお願いいたします」
「かしこまりました。……あの、ところで……フォリシア様の侍女は――」
「わたくしだけです。フォリシア様は基本的に自分のことは自分でなさるので」
「は…………は、はあ?」

 なんかマルセル氏の反応がずっと微妙なのはなぜだ?

「フォリシア嬢、お茶はお庭でもいいですか? 室内の方がいいですか?」
「はい、ぜひお庭で! 今すぐにまいります!」

 他の使用人がお庭にお茶の準備をしてくれており、私はジェラール様とお庭へ。
 ジェラール様は婚約期間も設けず、すぐに輿入れとなったことに対して改めて謝罪をしてきた。

「いくらフォリシア嬢のご両親に強く勧められ、体調を優先してしまったとはいえ……フォリシア嬢のご両親にご挨拶へ行くこともできず、申し訳ありません。体調が整いましたら、必ずや王都のフォリシア嬢のご両親にご挨拶に行きたいと思いますので」
「そんな! 両親が『早くもらってくれ』と無茶を言ったのですから!」

 主に母上が。
『あなたはジェラール様を逃したら絶対結婚できないから、急いで嫁げ!』って。
 その顔はもはやオーガのようだった。
 そしてジェラール様のご両親も「できれば早めに嫁いできていただけると!」「助かります!」と急かしてくださった。
 まるで私の感情を読み取ってくださっているようだった。
 両親たちのそんな態度に、あれよあれよと婚約期間をすっ飛ばし、婚姻関係が成立。
 結婚式は後日改めて日時を決めるから、とにかく可能な限り早く屋敷に来てほしいと頼まれて、今日という日を迎えたのだ!
 通常であれば結婚式の日に旦那様となる方の屋敷に入るのだが、これはもう既成事実を先に作れという義両親からのお告げで間違いないよな? な? はぁ、はぁ。

「それでも数週間で結婚だなんて。うちの両親も気持ちが急ぎすぎだと思うのです。けほ、けほ……!」
「大丈夫ですか?」
「あ、は、はい。王都にいた頃よりはかなり治っているんです。今は魔力量が増えてきていて……フォリシア嬢は僕の側にいて大丈夫ですか?」
「はい! まったく平気ですね!」
「よ、よかったです」

 本当に安堵した表情。
 ジェラール様、可愛すぎないか?
 私本当にこんなに可愛い合法ショタと結婚したの?
 いいの?
 婚姻届けは両親と私とジェラール様と記入しておいたけれど、もう受理された、と父上に聞いた。
 つまりもう、合法。
 そう、合法と言えばジェラール様は私の一つ年下の十八歳になったばかりらしい。
 我が国では男女十八歳から結婚が可能になる。
 ジェラール様との結婚は合法ってことだよ。
 つ、つまり、今夜は――はあ、はあ、はあ……!

「フォリシア嬢の侍女に教えてもらった魔石作りなのですが、彼女に魔方陣を作ってもらいたいのです。あれから色々考えたのですが、魔石を作って売って、生活費の足しにしようと思っていたのです。我が領はまだ両親が現役ですが、僕がいつか受け継ぐので今から知腰でも仕事を覚えていかなければいけないのです――」

 と深刻そうな表情でそう零すジェラール様。
 公爵家の仕事、というと……領地の運用、領地に出る魔物の討伐などの警備、国政の参加、王の相談役。
 第二王子アースレイ殿下はジェラール様と同級生。
 次期国王は第一王子コーネリス殿下が有力だろうけれど、両王子殿下はどちらも『キング』のクラス適性がある。
『キング』『クイーン』のクラス――人を導き、国を治める才能のことだ。
 王族に発現しやすいクラスだが、兄弟揃ってこのクラス適性に目覚めるのは繁栄の証だろう。
 しかも、ジェラール様はプロフェット。
 普通に考えればグレトゥーロ王国の安泰安寧を約束されたようなものなのだが――。

「プロフェットとして役に立たないのですから、せめて公爵として国を支えられるようにならないとと思って……」

 ジェラール様は、ご自分のことを殺してでも公爵として国を支えようと考えているのか。

「あ」
「え?」

 ジェラール様のご両親が私をジェラール様のところにと急いておられた理由がわかった。
 手の平に拳を叩いて納得した私は、ごそごそとポケットからハンカチを取り出す。
 そこには茸のように刺繍糸が立体化してなにが縫われているのかわからない刺繍。
 硬直するジェラール様。
 無理もない。
 私も自分で作り出してドン引きした。

「え、え? エ、えーと?」
「ジェラール様は刺繍をされたことはありますか? ちなみにこれは私が縫った刺繍です」
「し、刺繍!? 呪われたものではなく?」

 素晴らしい的確な表現だ、ジェラール様!
 私も最初呪いのハンカチが仕上がってしまったと思った!
 心なしかはみ出た立体の刺繍糸から『オオオオオオオオオ……』という妖気のような効果音が出ているような気がする。

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