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《140》楽しい遠征?
しおりを挟む「二人とも、楽しそうだね」
ノワの肩を、後ろからやってきたレイゲルが叩く。
「随分奥まで来た。日が暗くなる前に腹を満たして、今日はここらで森の様子を見てみよう」
レイゲルの提案にロイドが頷いた。
1チームに配給されたのは、最低限の非常食と薄い寝袋、テントが二つ。
各々非常食をかじってから、テントを張る。辺りが薄暗くなる頃、レイゲルが立ち上がった。
「それじゃあ、俺とロイドはあっちのテントを使うから」
また明日、と手を振るレイゲル。
ノワは引き止めたい思いを我慢して、彼らを見送った。
恐れていた時間がやってきてしまった。
デリックとリダルの間には、険悪なムードが流れていた。気づいたのは、森に入った頃からだ。
ホーホーと梟の鳴き声が聞こえる。
彼らの間に何があったかは知らないが、巻き添えを食らうのは御免だ。テントを使わずに夜を凌ぐことを考え、ノワはすぐに首を振った。
勝手なことをして、ロイドやレイゲルに迷惑をかけることになるかもしれない。
(何も起こらないといいけど·····)
ノワは祈りながらテントに向かった。
「パトリックくん」
テントには既に寝袋が広げられている。
端に、デリックが身を縮めて座っていた。
「リダルは?」
「さあ·····知りません」
はにかんだデリックが即答する。
リダルを相当嫌っているようだ。
あの性格では無理もない。ノワは話題を変えた。
「じゃあ、先に寝よう。あいつなら、気にしなくても大丈夫だろうから」
リダルの実力はこの目で確認済みだ。
「彼の事、信頼してるんですね」
「?うん」
2人を隣で寝かせる訳にはいかないので、仕方なく中央に寝転がる。デリックは座ったままだった。
「寝ないの?」
「パトリックくんの隣に寝転がるなんて、出来ません」
「??」
また、訳の分からない拘りを口にする。
「あのさ」
ノワは、言い聞かせるように言葉を紡いだ。
「デリック、僕と仲良くなりたいって、言ったでしょ?」
「はい」
良い返事だ。
「じゃ、まず、呼び方を名前にしよう。敬語は···そっちの方が話しやすいなら仕方ないけど···友達なんだから、隣に寝るのも変なことじゃない」
「え·····」
ランプに照らされたデリックの表情には、困惑と喜びが混じっている。
「そうしないと、仲良くなれない」
ノワは、半ば強引に決めつけた。
デリックが口を開きかけ、閉じる。
彼は無言で横になり、幻でも見るようにこちらを凝視していた。
夜の森は、昼間の蒸し暑さが嘘のように涼しかった。
「幸せです」
縮れた髪の下で、デリックはくしゃりと笑った。
ただ嬉しくて仕方が無いような笑顔だった。
「こんなに幸せで·····」
ノワはギョッとした。
シャープな頬を、澄んだ雫が滴り落ちる。
「泣いてるの?」
涙は、夏の緑を移したような瞳から、いくつも溢れ出た。
「俺、泣いてますか?」
デリックが、まるで他人事のように聞く。
大粒の涙が寝袋に染みてゆく。ノワは彼の涙を拭った。
「どこか痛いの?大丈夫·····?」
触れた顔が熱い。
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