どうかそのまま真実の愛という幻想の中でいつまでもお幸せにお過ごし下さいね。

しげむろ ゆうき

文字の大きさ
3 / 5

3

 私達はあれから応接室に集まっていた。
 そして、皆がソファに座るなり、すぐモルガン伯爵令息が頭を下げてきたのだ。

「本当に申し訳ない。僕がきちんとレイダー伯爵令嬢を見られていなかったばかりに……」

 そう言って申し訳なさそうに——と、私は首を横に振る。

「いいえ、それを仰られるなら私も同罪になりますのでおきになさらず。何しろ王太子殿下がレイダー伯爵令嬢と会っていた事に気づけませんでしたので……」

 こちらはそういうことに注意していたはずなのに気づけなかったのだから、むしろ、落ち度はこちらにあると思いながら。
 つまりは私こそが……
 頭を下げようとするとモルガン伯爵が慌てて言葉で止めてきたが。

「頭を下げるのだけはおやめ下さい。貴女がどれだけ大変な思いでお妃教育を受けていたのかはここにいる全員が理解しています。だから、どうかご自分だけは責めないでいて下さい」

 まるで、私の心を読んでいるかのように。
 思わず涙が出てきそうな優しい言葉を……

「……ありがとうございます」

 ただ、私は何とか耐えると彼に尋ねたが。

「いつからなのですか?」

 きっと、話し合いをしていたのだから、こちらよりは知っているだろうと。
 そう考えているとやはり正解だったらしく、彼がすぐに答えてくれる。

「本人達が言うには、半年前に行われた教会への出資パーティーがきっかけということになりますね。確かに、あそこからボランティアに目覚めたと言ってレイダー伯爵令嬢は僕とはあまり会わなくなったので。しかも、徐々に会う回数も減っていって。まあ、僕達の婚約は領地経営の都合で結ばれたものでしたから、彼女には好きなようにすればと言っていたので気にはしていませんでしたが……」

 わかりやすいほど、出会いのきっかけになってしまう状況を。
 ただし、貴族じゃなく平民であったならの話しだけれど。本来なら、そういうことは学んでいるはずなので。
 特に王太子殿下の立場なら。
 いや、彼がしていなくてもきっと周りが……

「でも、良くお二人はバレずに会えましたね。従者や周りに人がいたはずなのに」

 すると、その疑問に父が眉間に皺を寄せながら答えてくれる。

「レイダー伯爵や王太子殿下を操りたい貴族が介入したんだ」

 もっとも、シンプルで納得できる答えを——と、私は腑に落ちる。
 「なるほど、そうだったのですね」と呟き、真実の愛とやらだけでなかったことに少しだけ気持ちが楽になりながら。
 何しろ、政治が絡んでいるなら私個人ではどうしよもないので。恋愛感情で動いてしまうような彼ならなおのこと。私達には仲間意識みたいなものはあっても恋愛感情はないので付け入る隙は沢山あっただろうから。
 ただ、そうは言っても父には申し訳ない気持ちだったけれど。きっと、幻滅させてしまっただろうし……
 不甲斐ない娘だと。

「リリーナが幼い頃から、ずっと頑張ってきた努力をあいつらめ……」

 そう言って悔しげにテーブルを叩く父を見なければ——と、私は心底驚いてしまう。
 将来、王妃になるはずだった私には莫大なお金が使われているのに、それが藻屑になったのだから、少なからずも怒ってると思ったので。

「すみません、お父様は私にがっかりされてるとばかりに……」
「そんな事は一度たりとも思った事はないが……まさか、私にそう思われていると思って修道院に行こうとしていたのか? それはすまなかった。私はいつも言葉足らずだな……」

 そう言って父が項垂れた瞬間、その考えは消えてしまいも。

「ねっ、早まっちゃ駄目って言ったでしょう」

 父の手を握りながら母がそう言ってきたら跡形もなく。
 だから、兄が「まあ、これは普段ムスッとしてる態度の父上が悪いね。リリーナは気にする必要はないよ。それで、お二方の目的は他にあるのだろう?」
 そう言ってモルガン伯爵とモルガン伯爵令息の方を向いたことで気持ちをすぐに切り替えたが。モルガン伯爵だけでなく、お二人で来るぐらいだから、きっと、先ほどとは別に大事な話があるのだろうと。
 もしかしたら派閥争いの件とか。

「ええ、今回の件で双方、婚約者がいなくなりましたので、それでぜひ、レンブラント公爵令嬢に我が息子の婚約者になって頂きたいと」

 モルガン伯爵がそう言ってきたことで予想は外れてしまったが。全く、想像していなかった方に——と、私はすぐに口を開く。

「私にですか?」
「ええ、あなたの様に聡明な方が、我が領地を息子と切り盛りして頂けたらどんなに素晴らしい事かと」

 その言葉を聞き、嬉しさと共にすぐにモルガン伯爵家の領地の情報を思いだしも。
 山と海に囲まれた自然豊かな場所で、特に茶葉と海産物に力を入れており、王都にも出荷していて領地経営は上手くいっていることを。
 つまりは申し分ない縁談話しであると。文武両道、正義感も強く人当たりも良いと評判のモルガン伯爵令息が相手であるのならなお。
 まあ、だからこそ、なぜレイダー伯爵令嬢はこの方じゃなく王太子殿下を選んだのだろう? そう疑問にも思ってしまったけれど。

「本当に急な話で大変申し訳ありません」

 モルガン伯爵令息が申し訳なさそうに言ってきたらなおさら。言葉だけでなく態度からも彼の真摯さが伝わってくるので。
 ひしひしと。
 ただし、続けて「この非常識な話で貴女のことを更に傷つけてしまうか心配しています」
 そう言ってきたことで首を傾げてもしまったけれど。

「えっ、なぜですか?」
「それは、あなたの心は今とても傷ついているのに、その日のうちにいきなり婚約してほしいなんて非常識だと思ってますので。けれども、王妃陛下から言われてしまって……」

 彼の真意を理解しながも——と、私はすぐに口を開く。

「王妃陛下が仰ったのですか?」

 頭の中が疑問だらけになって。
 だって、彼女こそもっとも私に失望しているだろうから。
 これからのことを考えれば。

「ええ、きっとレンブラント公爵令嬢は落ち込んで変な事を考えるだろうから、その前にあなたが婚約者になりなさいと。もちろん、耳を疑いましたよ。傷ついている人に付け入るような真似はしたくないと進言も。ただ、その考えができるなら大丈夫だから今すぐ後を追いなさいと言われまして……。ああ、だからといって、この話は断っていただいても結構ですから。ただ、これは王妃陛下から言われただけでなく、僕個人としても貴女が婚約者になってもらえればとても嬉しい、そう心から思っていることでもありますので」

 まあ、彼からそう聞いたことで私は全容を理解すると同時にまた勘違いしていたことに気づいてしまったけれど。

 ただし、父と違って王妃陛下の場合は何か含んでいそうだけれど……

 そう考えながら、私はモルガン伯爵令息を一瞥する。
 感情論でなく貴族視点で、この縁談を断る理由が見つからないと思いながら。
 何しろ、王太子殿下やレイダー伯爵令嬢のように感情に流されて私は彼と婚約をするわけにはいかないので。
 それは家族も——と、彼らを見ると皆、笑顔で頷いてくる。

「私は賛成だ。モルガン伯爵令息とは何度か会って仕事ぶりを見せてもらったが立派にこなしていたからね」

 父がそう言うと母も。

「実を言うと何度かうちに来て相談を受けていたのよ。どう償えばいいかって。必要ないのに何度も頭を下げてこられて……」
「全く、誰かに爪の垢を飲ませてやりたいね。まあ、だから彼なら心配してないよ。それに領地経営も上手くいってるし、将来はぜひうちと提携して欲しいしね」

 そして、兄も。
 まあ、ただし兄は一番貴族らしい考え方での了承だけれど——と、私はモルガン伯爵令息に頷く。

「では、私で良ければよろしくお願いします」
「ありがとう、レンブラント公爵令嬢」

 そして、二人して微笑み合いも。
 新たな婚約に今度は明るい未来を期待をしながら。
感想 21

あなたにおすすめの小説

婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他

猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。 大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。

ローザとフラン ~奪われた側と奪った側~

水無月あん
恋愛
私は伯爵家の娘ローザ。同じ年の侯爵家のダリル様と婚約している。が、ある日、私とはまるで性格が違う従姉妹のフランを預かることになった。距離が近づく二人に心が痛む……。 婚約者を奪われた側と奪った側の二人の少女のお話です。 5話で完結の短いお話です。 いつもながら、ゆるい設定のご都合主義です。 お暇な時にでも、お気軽に読んでいただければ幸いです。よろしくお願いします。

真実の愛だった、運命の恋だった。

豆狸
恋愛
だけど不幸で間違っていた。

「婚約破棄だ」と笑った元婚約者、今さら跪いても遅いですわ

ゆっこ
恋愛
 その日、私は王宮の大広間で、堂々たる声で婚約破棄を宣言された。 「リディア=フォルステイル。お前との婚約は――今日をもって破棄する!」  声の主は、よりにもよって私の婚約者であるはずの王太子・エルネスト。  いつもは威厳ある声音の彼が、今日に限って妙に勝ち誇った笑みを浮かべている。  けれど――。 (……ふふ。そう来ましたのね)  私は笑みすら浮かべず、王太子をただ静かに見つめ返した。  大広間の視線が一斉に私へと向けられる。  王族、貴族、外交客……さまざまな人々が、まるで処刑でも始まるかのように期待の眼差しを向けている。

許すかどうかは、あなたたちが決めることじゃない。ましてや、わざとやったことをそう簡単に許すわけがないでしょう?

珠宮さくら
恋愛
婚約者を我がものにしようとした義妹と義母の策略によって、薬品で顔の半分が酷く爛れてしまったスクレピア。 それを知って見舞いに来るどころか、婚約を白紙にして義妹と婚約をかわした元婚約者と何もしてくれなかった父親、全員に復讐しようと心に誓う。 ※全3話。

王太子の愚行

よーこ
恋愛
学園に入学してきたばかりの男爵令嬢がいる。 彼女は何人もの高位貴族子息たちを誑かし、手玉にとっているという。 婚約者を男爵令嬢に奪われた伯爵令嬢から相談を受けた公爵令嬢アリアンヌは、このまま放ってはおけないと自分の婚約者である王太子に男爵令嬢のことを相談することにした。 さて、男爵令嬢をどうするか。 王太子の判断は?

穏便に婚約解消する予定がざまぁすることになりました

よーこ
恋愛
ずっと好きだった婚約者が、他の人に恋していることに気付いたから、悲しくて辛いけれども婚約解消をすることを決意し、その提案を婚約者に伝えた。 そうしたら、婚約解消するつもりはないって言うんです。 わたくしとは政略結婚をして、恋する人は愛人にして囲うとか、悪びれることなく言うんです。 ちょっと酷くありません? 当然、ざまぁすることになりますわね!

君に愛は囁けない

しーしび
恋愛
姉が亡くなり、かつて姉の婚約者だったジルベールと婚約したセシル。 彼は社交界で引く手数多の美しい青年で、令嬢たちはこぞって彼に夢中。 愛らしいと噂の公爵令嬢だって彼への好意を隠そうとはしない。 けれど、彼はセシルに愛を囁く事はない。 セシルも彼に愛を囁けない。 だから、セシルは決めた。 ***** ※ゆるゆる設定 ※誤字脱字を何故か見つけられない病なので、ご容赦ください。努力はします。 ※日本語の勘違いもよくあります。方言もよく分かっていない田舎っぺです。