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二年目の冬の話

一 アクシデント

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 仕事中に、ルイスはふと不安にかられた。スーツのあちこちを探る。やはり携帯電話がない。
 少し離れた席に掛けて仕事をしていた南がルイスの様子に気づく。

「いかがされました」
「携帯が……」

 南の質問に曖昧に答えながら探る。いつもスラックスの後ろポケットに入れるが、入っていない。念のため上着なども調べる。自分は忘れ物をする性質ではなく、物の住所を決める習性があるので、予想外の場所に入っている可能性は低い。
 行動を思い返す。今朝、自宅マンションを出る直前に、外気温を確認してマフラーを選んでいたらレンが起き出して、ぼんやりしているレンにあれこれ構っていた記憶がある。午前六時のことだ。
 ルイスが起きると、夜遅くて辛いはずのレンも一旦起きる。それがいじらしいので、ついちょっかいを出してしまう。

「ポケットに入れ忘れたんだと思いますが……」
「念のため掛けましょう」

 といって南はすでに固定電話機を操作し、鳴らしている。
 ルイスは迷った。会議が始まる。資料を読みたい。時間がない。まあいいか。おそらく自宅にある。レンは出ないだろう。
 三コールで、誰かが通話ボタンを押した。落とし物を拾った人だろうかと南は思った。

『はい、ルイスさんの携帯電話です』

 誰かが出る。男性の声だ。ルイスはレンが出たことに少し驚く。
 南はルイスの様子を怪訝に思いつつ名乗る。

「秘書の南と申します。失礼ですが、お知り合いの方でしょうか」
『はい、知人の清水といいます。携帯、必要ですよね。近くなので、宜しければ置きにいきます』
「ありがとうございます」

 南は厚意に感謝し、会社の場所を知らないという電話口の青年に会社の住所と名前を教える。目印になる隣のビルのコンビニを伝えた。

「十五階建てのビルです。一階の受付で、社長室秘書課の南をお呼びください」

 といって電話を切る。
 南はルイスに対して言った。

「清水様という男性の方にお持ちいただけるそうです。お知り合いですか」
「はい。来たら呼んでください」

 ルイスはノートパソコンを見ながら南へ答えた。南は目を上げる。

「社長をですか?」
「そのまま彼とお昼に出ます。スケジュール空いてますよね」
「四十分程度なら」
「帰らないように引き留めておいてください」
「……承知しました」

 賓客だろうかと南は考える。
 聞いたことのない声だった。フルネームはわからないが、おそらく取り引きはない。個人的な付き合いなのだとしたら、ルイスに親族以外の個人的な付き合いがあったこと自体が驚きである。
 帰らないように引き留めろという指示も奇妙だ。まるで帰りたがることがわかっているかのようだ。
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