今さら救いの手とかいらないのですが……

カレイ

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8話

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 それからもうテオドールのことも、周りのこともどうでも良くなったのよね。

 ルイーズの存在は、オデットにとってとても心強いものとなった。というより、オデットの固定概念を溶かしてくれた。
 自分を信じてくれる人が一人でもいるということが、これほどまでにオデットを勇気づけ、しがらみから解放してくれるものなのか。
 両親からは叱責されたが、うまくやれなくてごめんなさいと一言。口を聞いてくれることは無くなったが、元々愛情の薄い人たちだからショックはあまり感じなかった。
 もう恐れることも、じっと我慢することも、なにもない。
 それからのオデットは、評判は地に落ちたが、まるで別人のように生き生きした表情で日々を過ごした。
 周りから揶揄されても雑音にしか聞こえない。
 授業は先生の話だけに集中して休み時間は息抜きに裏庭で読書、昼食はルイーズととり、他愛もない会話をする。
 テオドールとシェリーシアの絡みを見ることはあったが、声が聞こえない距離を維持して近づくことはなかった。向こうは勿論、周りの目を気にしないイチャイチャようで目立つので、ばったり遭遇しそうになった時は、オデットは向こうがこちらに気づくよりも早く避けることが出来ていた。
 そんな日々をオデットは気に入っていた。

「ルイーズには感謝してもしきれないわ」
「照れるな。しかし私もオデットの役に立てたようで良かった」
「役に立ったなんて程度の話じゃないよ。貴方は本当に……私の大切な友人ね」

 オデットの言葉に珍しくルイーズは赤面する。
 普段は冷静沈着で貫禄のあるルイーズでも、褒め言葉には弱いのだ。

「あまりこちらが照れるようなことを口にするでない。恥じらいというものがらないのか」
「恥じらいより、感謝の方が上なだけよ」
「うむ……」

 自分は躊躇いなく人に手を差し伸べ思いを伝えるというのに、人から思いを伝えられたときは素直に受け取れないのがルイーズらしい。
 黙ってしまったルイーズを見てオデットは笑った。
 そしてこんな幸せな日常を続けていきたいものだと思っていたが……それなのに、どうして今更になって彼らは話しかけてきたのか。それも「許してあげる」などと。

「なにが目的かしら……」
「概ね、支持率の低下が理由だろう。夢物語から目を醒ます人々が増えて来たというわけだ。……私の努力が報われる日も近いな」
「なんか言った?」
「いや、何も」

 最後の方は聞き取れなかったが、確かに最近は前よりも雑音ーー陰口、悪口が少なくなった気がするし、挨拶をしたら返されることはまだないが、舌打ちをされる回数は減った気がする。
 あんな盲目的に支持されていたテオドールとシェリーシアなのに、こうもあっけなく人の思いは変わっていくのかと思うと、何だか恐ろしいような気もする。

「支持率低下ねぇ……婚約しちゃったのに、大丈夫かしら」
「もうオデットが心配することではない。放っておけ」
「それもそうね。それよりーー」

 話題はすぐに別のものへと変わった。
 勿論その時にはテオドールとシェリーシアのことなんか忘れている。
 こうして好きなことについて語り合う時間が二人とも大好きなのだ。
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