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 グレン様の魔法で移動した先は、ヴァールハイト王国でも屈指の鉱山地帯。
 鉱山資源のほとんどは、この地域で採掘されるらしい。
 十年ほど前に発見されて以降、未だに新しい鉱物が発掘され続けているとか。

「いいんですか? ここって国の所有する鉱山ですよね?」
「それがどうした?」
「え、だって、私の鍛冶場で使う素材集めに、国のものを使うのは……」
「心配はいらない。俺が許可する」

 そんな勝手なことを言っていいのだろうか……。
 確かにこの国のトップはグレン様だし、彼が認めているならいいのかもしれないけど。
 レーゲンさんに迷惑がかかっていないだろうか。
 最近顔を合わせていないから、今度会った時にとりあえず謝っておこう。

「えっと、それじゃ行きましょうか」
「ああ」

 私たちは鉱山の入り口から中へと入る。
 中はすでに何度も探索された影響で、道もしっかり整備されていた。
 明かりも常備されているから、足元も見やすい。
 ここは現在も使われている鉱山だ。
 それにしては、私たち以外の人の姿が見当たらない。

「グレン様、ここで働いている人たちはいないのですか?」
「いるぞ」
「どこにも見えないのですが……」
「ここは今採掘しているのとは反対にある入り口だからな。作業員は一人もいない」

 そういうことだったのか。
 鉱山たちは複数の入り口があり、山の数だけでも十を超えている。
 グレン様の話によれば、月ごとにローテーションを組んで採掘作業をしているらしい。
 
 ローテーション?
 そんなことをする意味があるの?

 素直に疑問に思ったけど、私が知らないだけで何か意味があるだろうと思って尋ねなかった。
 それからしばらく奥へ進むと、徐々に道が険しくなってくる。
 なんだか空気も重い。
 整備され、王国に管理されているのだからありえないのに。

「なんだか魔物が出そうですね」
「出るぞ?」
「……え?」

 出るの?
 
 私の驚きに応えるように、小さな地震が発生する。
 ふらつく私の背中をグレン様が支えてくれた。

「大丈夫か?」
「あ、ありがとうございます」

 今の振動……自然ものじゃない。
 それにこの気配……やっぱりいるんだ。
 念のために武器を持ってきて正解だったかもしれない。
 もっとも、グレン様が一緒にいる時点で、不要な心配になりそうだけど。

「今の揺れは近かった。お前たち、戦う準備をしておけ」
「はっ!」
 
 同行していた騎士たちが、腰の鞘から剣を抜ける姿勢をとる。
 緊張感を漂わせながら、私たちはゆっくり先へ進んだ。
 ふいに殿下が立ち止まる。

「この辺りにいる」

 周囲にあるのは岩と小石。
 当然山の洞窟の中で、隠れる場所は限られている。
 私には気配を感じられない。
 けれど、魔王と称されるグレン様の目には、ハッキリ映っていたらしい。

「それで隠れているつもりか?」

 鋭い視線と殺気に充てられて、岩山が動き始める。
 魔物は岩に擬態していた。
 半分を地中に埋め、背中を突き出し岩のように見立てていたらしい。
 この魔物は私も知っている。
 洞窟や岩山などで生息し、岩に擬態し、鉱物を食べる特殊な生態の魔物。

「ロックエレメンタル!」
「よく知っていたな。見るのは初めてじゃないのか?」
「初めてです。本でしか知りませんでした」

 中々鉱山に入る機会なんてなかった。
 本から情報は読み取り覚えていたけど、実際に見るとすごい迫力だ。
 とにかく大きい。
 洞窟の上部を破壊するほどの岩の巨人だった。
 そしてもう一つ、なぜローテーションを組んで採掘をしていたのか。
 この高山地帯が、未だに資源が湧き続けている理由は、このロックエレメンタルにある。
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