辺境の魔術師、悟りを開き大賢者となる←【理想】/【現実】→煩悩を捨てなきゃダメなのに、毎日弟子たちが無自覚に誘惑するからそろそろ限界です……

日之影ソラ

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憤怒 / シアンの章

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 俺たちは次なる目的地を目指して移動を始めていた。
 ロール姫の調子もいつも通りになり、鬱陶しいと思うくらいには、彼女も元気になった。

「鬱陶しいなんてひどいなぁ」
「……心を読むな」
「わかりやすよ? 案外君って顔に出るから」
「初めて言われたな」

 弟子たちの前では気を付けているが、彼女は本当の俺を知っている。
 自然と気が抜けてしまうのは悪いことだろうか。

「で、次の目的地はそろそろだろう?」
「そうだね。というより、目的の地域にはもう入っているよ」
 
 俺たちは今、街から街へ移動するため整備された街道を歩いている。
 この周辺で、呪具の使い手が確認された。
 正確にはこの辺りのどこかを根城にして、毎晩暴れ回っているそうだ。

「はた迷惑だな。それも呪具の影響なのか?」
「おそらくね」
「【憤怒】だったか? 能力は?」
「恐ろしい力を発揮する……くらいしかわかっていないよ。作戦を担当した騎士たちは、全員帰らぬ人になっているからね」
 
 すでに五度、回収ならぬ討伐作戦が実行された。
 その凶暴性から魔物だと思って対処すべき相手と仮定し、相応の装備と作戦を持って挑んだそうだが、全員無慚な姿で発見されているそうだ。
 要するに今回も、能力の詳細はわかっていない。
 加えて使い手の情報も不足しており、この周辺で活動しているということ以外、いつどこに現れるかも不明だった。

「次の街に情報があるといいですね、先生」
「そうだね」
「歩き疲れたよぉ~」
「街に付いたら宿を探そうか」
 
 街から街へ、ほとんど休みなく移動していた。
 口に出したのはスピカだが、皆も疲れているはずだ。
 特に最近、シアンの元気がない。
 本人は普段通りに振舞っているつもりだが、時折どこか遠くを見つめている。
 街に付いたら話を聞こう。
 そう思って歩き、街にたどり着いたが……。

「なんだか騒がしいですね」
「この匂い……」

 街の出入り口に人が集まっていた。
 俺でもわかる。 
 鼻が曲がりそうな異臭。
 これは見るまでもなく……人が死んでいる。

「また出たのか」
「恐ろしい。一体何の目的でこんなことを……」
「すみません、何があったのか教えて頂けませんか?」

 俺は人混みで話している老人に話を伺った。
 どうやら最近、街に殺人鬼が現れるそうだ。
 殺人鬼の姿を見た者はいない。
 見た者は全員、無残な死を遂げている。
 
「お前たちは見なくていい」

 俺は一人、死体を確認しに向かう。
 聞いた通り無慚だ。
 顔面を砕かれ、手足も折られている。
 殺すだけならここまで痛めつける必要はない。
 この遺体からは……。

「明確な怒りを感じるね」
「……平気なのか? お前は」
「これでも長旅だったんだ。死体は何度か見たよ」
「そうか」

 ロール姫の言う通り、この死体には怒りの痕がある。
 悪意というより、敵意だろうか。
 目的があって殺しているというより、殺しそのものが目的のような……。

「呪具の使い手か」
「……」
「どうした?」
「いや、伝えるべきかと思ってね」
「何か知ってるのか?」
「……まだ不確定だけど、【憤怒】の呪具の使い手は――」

  ◇◇◇

「エルフ!?」

 一番に反応したのはシアンだった。
 当然だろう。
 彼女も同じ、エルフなのだから。
 俺たちは宿を取り、同じ部屋に集まりロール姫から情報を聞いた。
 
「黙っていたことは謝るよ。不確定な情報だし、変に意識させないほうがいいと思ったんだ」
「……」

 シアンの心を気遣ってくれていたのか。
 それなら責められない。
 もっとも、事実ならばいずれ彼女は対峙することになっただろう。
 同胞に。

「といっても、この情報だけじゃ何もわからないけどね」
「次に奴が現れる場所がこの街ならいい。そうじゃないなら、待つしかないか」
「そうだね。我慢比べになりそうだ」
「……一つ、心当たりがあるわ」

 長期戦の構えで行く話をしていた俺とロール姫に、シアンは提案をする。
 その提案を聞いて、俺たちは知る。
 この地の近くに、彼女の故郷があるということを。
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