気弱な令嬢ではありませんので、やられた分はやり返します

風見ゆうみ

文字の大きさ
5 / 52

第4話  好みを知る

しおりを挟む
「少しでも早くに辞めたいみたいだから、お父様に伝えてくるわね?」 

 にっこり笑顔を作って部屋を出ていこうとすると、慌てて2人が引き止めてくる。

「ま、待ってください! どうしてそんなことを今更仰るんですか!?」
「そうです! 今までは何も仰らなかったじゃないですか!」
「私は今まで、あなた達に頼まずに一人で着替えていたの?」

 尋ねると、メイド達2人は顔を見合わせてから、代表して1人が私に顔を向けて答える

「お嬢様は小さな声で言葉を発されるので聞こえない事が多いんですよ。聞き返しても、やっぱりいいです、って言っていたのはお嬢様の方です!」
「ふぅん」

 アリスも悪いところはあるみたいね。
 だけど、アリスの性格を彼女達だって、ある程度すればわかっただろうから、気を利かせてやるのが普通でしょう。

「じゃあ、今まであなた達は私がオドオドしているのを見てどう思っていたわけ?」
「……言いたいことがあるなら、はっきり言えばいいのに…って思ってました」

 素直に答えてくるのは、まだ、私の事をなめてかかってるって事なのかしら?
 今まで通りにはいかないって事をちゃんと教えてあげないとね?

「じゃあ、はっきり言わせてもらうけど、何もしないで突っ立ってるだけなら、あなた達って必要? 私が気に入らないなら辞めてくれていいのよ?」
「そんな言い方しなくても良いじゃないですか!」
「そうですよ! 今まで仕事を与えてくれなかったのはお嬢様の方で…!」
「は? あなた達、一から十まで指示されないと何も出来ないの? メイドって仕事は決められた仕事をやるだけなの? 普通はその場その場で気を利かせて動くもんじゃないの?」
「そ、それは…!」

 メイド達は顔をまた見合わせあった後、まだ私に反論してくる。

「旦那様と奥様からお嬢様の嫌がる事はするなと言われていましたから、お着替えを手伝わなくても良いと思っていたんです。だから、何もしなかったというわけではありません!」
「百歩譲って着替えを手伝わなかったのは良いとしても、上手く着れてないのに教えないのはどうなの?」
「お嬢様はそれで満足されていたじゃないですか! 色合いだって一応お聞きしましたよ!」

 メイド2人が声を揃えて叫んだ。

 ちょっと待って?
 あのドレスはアリスの趣味だったって事?
 
 私と好みが合わないだけだったの?
 アリスの好みを否定してしまったみたいで申し訳なくなってきたわ…。

 まあ、それはそれとして、今は目の前の2人に集中する。

「今までの私はそうだったかもしれないけれど、今日からの私は違うから」
「どういう事でしょうか…?」

 メイド達は不安げな顔で私を見てくる。

「いい? 私を今までと同じと思わないで。大体、私が何も言わなかったからって馬鹿にしてもいいわけじゃないのよ。人を馬鹿にして笑うなんて人として最低の行為だからね。今までの様に働かないって言うんなら、お父様に言って、あなた達2人は今すぐにクビにしてもらうわ。お金の無駄よ」

 2人を睨みつけて言うと、メイド達はごくりと生唾をのみこんだあと、小さな声で言った。

「あの…、お着替えを、手伝わせてください」
「心からそう思ってる?」

 私が聞くと、2人は何度も首を縦に振る。

「もちろんでございます!」
「クビにされたくないから、いやいや言ってるんじゃないわよね?」
「そんな事はありません! お願いいたします! お着替えを手伝わせて下さい!」

 1人が頭を下げると、もう1人も慌てて私に頭を下げた。

 辞めさせられたくないから言っている感がどうしても強い気がするけれど、アリスにも原因があった事だし、もう少しだけ様子を見てみようかしら。

「そう? 助かるわ」

 笑顔を見せると、2人はホッとした様な顔になったから忠告しておく。

「さっきの様な態度をもう一度見せたら、その場で解雇するからね。冗談じゃないわよ? 私は本当に容赦なくお父様に頼むから」
「申し訳ございませんでした! これからは心を入れ替えますので、このお屋敷で働かせて下さい!」
「申し訳ございませんでした、お嬢様! お許し下さい!」
「謝るだけなら心が無くても出来るからね。謝罪の気持ちがちゃんと目に見える様に一生懸命働いてよね?」
 
 私の言葉に2人は何度も頷いた。

 寛大な態度を見せておいて恩を売ろうとする私も嫌な奴よね。
 でも、反省のチャンスを与えずに解雇してしまうのも違う様な気がするのよね。

 もちろん、態度が改まらない、もしくは陰でどうこう言うようなら容赦なく、この家からサヨナラ、それから、彼女達がメイドとして働き口が見つからないように手を回さなくちゃ。

 2人は私の変わりように驚きながらも、着替えるのを手伝ってくれた。

「お嬢様、終わりました」
「ありがとう」

 着替え終えてから鏡で確認してみると、パッと見た限り不自然な感じには見えないし、間違えた着方を教えてくれた様には見えない。

「あの、お嬢様…」
「何かしら?」
「短い髪もとてもお似合いです」
 
 私の機嫌をとり始めたメイド達に呆れはしたけれど、お礼は言っておく。

「ありがとう」

 礼を言ってから、改めて2人を見てから笑顔で念を押す。

「わかっていると思うけど次はないからね?」
「は…、はいっ!」

 メイド2人は声を震わせて頷いた。

 さて、この2人は今のところは無害として見ておく事にして、今からまず考えないといけないのは、婚約者をどう料理するかだわ。

しおりを挟む
感想 118

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

悪役令嬢まさかの『家出』

にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。 一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。 ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。 帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!

婚約者の命令で外れない仮面を着けた私は婚約破棄を受けたから、仮面を外すことにしました

天宮有
恋愛
婚約者バルターに魔法が上達すると言われて、伯爵令嬢の私シエルは顔の半分が隠れる仮面を着けることとなっていた。 魔法は上達するけど仮面は外れず、私達は魔法学園に入学する。 仮面のせいで周囲から恐れられていた私は、バルターから婚約破棄を受けてしまう。 その後、私を恐れていなかった伯爵令息のロランが、仮面の外し方を教えてくれる。 仮面を外しても魔法の実力はそのままで、私の評判が大きく変わることとなっていた。

婚約破棄された私。大嫌いなアイツと婚約することに。大嫌い!だったはずなのに……。

さくしゃ
恋愛
「婚約破棄だ!」 素直であるが故に嘘と見栄で塗り固められた貴族社会で嫌われ孤立していた"主人公「セシル」"は、そんな自分を初めて受け入れてくれた婚約者から捨てられた。 唯一自分を照らしてくれた光を失い絶望感に苛まれるセシルだったが、家の繁栄のためには次の婚約相手を見つけなければならず……しかし断られ続ける日々。 そんなある日、ようやく縁談が決まり乗り気ではなかったが指定されたレストランへ行くとそこには、、、 「れ、レント!」 「せ、セシル!」 大嫌いなアイツがいた。抵抗するが半ば強制的に婚約することになってしまい不服だった。不服だったのに……この気持ちはなんなの? 大嫌いから始まるかなり笑いが入っている不器用なヒロインと王子による恋物語。 15歳という子供から大人へ変わり始める時期は素直になりたいけど大人に見られたいが故に背伸びをして強がったりして素直になれないものーーそんな感じの物語です^_^

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

【完結】女王と婚約破棄して義妹を選んだ公爵には、痛い目を見てもらいます。女王の私は田舎でのんびりするので、よろしくお願いしますね。

五月ふう
恋愛
「シアラ。お前とは婚約破棄させてもらう。」 オークリィ公爵がシアラ女王に婚約破棄を要求したのは、結婚式の一週間前のことだった。 シアラからオークリィを奪ったのは、妹のボニー。彼女はシアラが苦しんでいる姿を見て、楽しそうに笑う。 ここは南の小国ルカドル国。シアラは御年25歳。 彼女には前世の記憶があった。 (どうなってるのよ?!)   ルカドル国は現在、崩壊の危機にある。女王にも関わらず、彼女に使える使用人は二人だけ。賃金が払えないからと、他のものは皆解雇されていた。 (貧乏女王に転生するなんて、、、。) 婚約破棄された女王シアラは、頭を抱えた。前世で散々な目にあった彼女は、今回こそは幸せになりたいと強く望んでいる。 (ひどすぎるよ、、、神様。金髪碧眼の、誰からも愛されるお姫様に転生させてって言ったじゃないですか、、、。) 幸せになれなかった前世の分を取り返すため、女王シアラは全力でのんびりしようと心に決めた。 最低な元婚約者も、継妹も知ったこっちゃない。 (もう婚約破棄なんてされずに、幸せに過ごすんだーー。)

処理中です...