気弱な令嬢ではありませんので、やられた分はやり返します

風見ゆうみ

文字の大きさ
32 / 52
第二部

第3話  しつこく話しかけられる

しおりを挟む
「どうも、アリスの現在の婚約者のイグス・イッシュバルドです」
「これはこれは、イッシュバルド卿にお会いできるなんて光栄です。ルーベン・ホットラードと申します」
「ホットラード卿、連れの女性がいらっしゃるようですから、こちらの事はお構いなく。ありすにとってはあなたは過去の婚約者ですので、ありすには話しかけないでいただきたい」

 だいぶ、哲平も言葉遣いがマシになってきた感じかしら?
 休みの日はたまに王都に行って、ラス様に色々と教えてもらってるから?

 今日は私と出かけてるから行ってないけれど、ラス様に礼儀作法や魔法などを教えてもらうために、学園が休みの日の哲平は王都に行っている日が多い。
 私もラス様に紹介してもらって、王都に友達が二人できたし、彼女達が空いている休みの日に会いに行こうと思っている。

 私が関係のない事を考えている間に、哲平は広げていたメニューに視線を移して私に問いかけてくる。

「さっさと注文して、食べ終えたら帰るぞ」
「わかったわ。で、どうする? チョコレート? フルーツ?」
「絶対にパフェにすんのか」
「そうしないと何のためにここに来たかわからないじゃない」
「とにかく食いきれるやつ頼めよ」

 哲平はテーブルに肘をつき、呆れた顔で言う。

 もちろんそれは頭ではわかってるんだけど、美味しいものをちょっとずつ食べたい、という気持ちもむくむくと浮かんでくるし、どうしたら良いのかわからないわ。

 チョコレートだと甘すぎるかもしれないから、残りを食べてもらうことを考えてフルーツパフェにしておこうかしらね。

「じゃあ、今日はフルーツパフェにするわ」
「へいへい」
「へい、って、ラス様にバレたら怒られるんじゃない?」
「兄さんの前では言わねぇよ。今はお前だけだからいいだろ」

 そう答えてから、哲平は通りかかった店員さんを呼び止めてオーダーしてくれた。

 ……にしても、まだ横から視線を感じる。

 本当に鬱陶しいわね。

 しかも、右隣の席と距離は人が一人すれ違えるかどうかの狭いものでしかないから、ホットラードの向かいに座っている、私からいえば右斜め前の女の子が、すごい形相で私を睨みつけているのが見たくもないのに視界に入る。

 ホットラードが私を見てるだけでも鬱陶しいのに、なんで、女性のまで私を見てくんのよ。
 あんたは私の方に視線を送ってきてると思われる、ホットラードというバカを叱りなさいよ。
 
 目が合ったりしたら嫌だから、顔を絶対に横に向けたりしてやらない。

 私の事はいいから、あんたらはあんたらで楽しんでよと思う。
 ……あれ?
 そういえば……。

「ねえねえ」
「ん?」
 
 テーブルに身を乗り出して、哲平の方に顔を近づけると、私の意図を察した彼も私の方に身を乗り出し、ホットラードに顔が見えない様に体を横に向けて、耳を貸してくれた。

「あいつの浮気相手、というか、アリスの後の婚約者ってあんな子だったっけ?」
「……たぶん違う」
「やっぱり?」

 手で口元を隠して聞くと、哲平が首を大きく縦に振るから、自分の記憶が正しかった事がわかる。
 やり返すリストを作る為に、ホットラードの事や新しいお相手の事なども調べたけれど、今、ホットラードの目の前にいる彼女とは似ても似つかないのよね…。

 だから、哲平に問うてみる。

「なんで、あいつ、婚約者以外の女とお茶してんのよ」
「知るか。俺にわかるわけないだろ」
「キュレル子爵令嬢」

 また、ホットラードが声を掛けてきたので無視する。
 
「……聞こえてるかい?」

 何で私に話しかけてくんのよ!
 私なんかより、目の前にいる女の子の相手してあげなさいよ。
 
 無視を貫き通す為、身を乗り出したままの哲平に話しかける。

「この状態でパフェを食べても美味しいかしら?」
「早食いしなければいいんじゃないか?」
「早食いするのは勿体ないわね」 
「おーい、キュレル子爵令嬢、聞こえてるかーい」

 ホットラードが本当にしつこい。
 いいかげんに無視されてる事に気付きなさいよ!
 
 さすがの私も堪忍袋の緒が切れそうになった時、私よりも先に、連れの女の方がなぜか私にキレてきた。

「ちょっと! 尻軽女のくせにルーベン様のお声がけを無視するなんて、どういうつもり?!」

 何で私が尻軽女なのよ!
しおりを挟む
感想 118

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

婚約者の命令で外れない仮面を着けた私は婚約破棄を受けたから、仮面を外すことにしました

天宮有
恋愛
婚約者バルターに魔法が上達すると言われて、伯爵令嬢の私シエルは顔の半分が隠れる仮面を着けることとなっていた。 魔法は上達するけど仮面は外れず、私達は魔法学園に入学する。 仮面のせいで周囲から恐れられていた私は、バルターから婚約破棄を受けてしまう。 その後、私を恐れていなかった伯爵令息のロランが、仮面の外し方を教えてくれる。 仮面を外しても魔法の実力はそのままで、私の評判が大きく変わることとなっていた。

悪役令嬢まさかの『家出』

にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。 一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。 ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。 帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!

婚約破棄された私。大嫌いなアイツと婚約することに。大嫌い!だったはずなのに……。

さくしゃ
恋愛
「婚約破棄だ!」 素直であるが故に嘘と見栄で塗り固められた貴族社会で嫌われ孤立していた"主人公「セシル」"は、そんな自分を初めて受け入れてくれた婚約者から捨てられた。 唯一自分を照らしてくれた光を失い絶望感に苛まれるセシルだったが、家の繁栄のためには次の婚約相手を見つけなければならず……しかし断られ続ける日々。 そんなある日、ようやく縁談が決まり乗り気ではなかったが指定されたレストランへ行くとそこには、、、 「れ、レント!」 「せ、セシル!」 大嫌いなアイツがいた。抵抗するが半ば強制的に婚約することになってしまい不服だった。不服だったのに……この気持ちはなんなの? 大嫌いから始まるかなり笑いが入っている不器用なヒロインと王子による恋物語。 15歳という子供から大人へ変わり始める時期は素直になりたいけど大人に見られたいが故に背伸びをして強がったりして素直になれないものーーそんな感じの物語です^_^

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

【完結】女王と婚約破棄して義妹を選んだ公爵には、痛い目を見てもらいます。女王の私は田舎でのんびりするので、よろしくお願いしますね。

五月ふう
恋愛
「シアラ。お前とは婚約破棄させてもらう。」 オークリィ公爵がシアラ女王に婚約破棄を要求したのは、結婚式の一週間前のことだった。 シアラからオークリィを奪ったのは、妹のボニー。彼女はシアラが苦しんでいる姿を見て、楽しそうに笑う。 ここは南の小国ルカドル国。シアラは御年25歳。 彼女には前世の記憶があった。 (どうなってるのよ?!)   ルカドル国は現在、崩壊の危機にある。女王にも関わらず、彼女に使える使用人は二人だけ。賃金が払えないからと、他のものは皆解雇されていた。 (貧乏女王に転生するなんて、、、。) 婚約破棄された女王シアラは、頭を抱えた。前世で散々な目にあった彼女は、今回こそは幸せになりたいと強く望んでいる。 (ひどすぎるよ、、、神様。金髪碧眼の、誰からも愛されるお姫様に転生させてって言ったじゃないですか、、、。) 幸せになれなかった前世の分を取り返すため、女王シアラは全力でのんびりしようと心に決めた。 最低な元婚約者も、継妹も知ったこっちゃない。 (もう婚約破棄なんてされずに、幸せに過ごすんだーー。)

処理中です...