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第二部
第5話 申し込まれる
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「イッシュバルド卿、同じ男として、この辛さをわかってくれますか?」
「いや、それはわからん」
無視すれば良いのに、真面目に哲平は答えを返した。
たぶん、好奇心が勝ってるんでしょうね。
こんな人、滅多にいないから面白がってるんだわ。
「永遠の愛を誓ったボートワール嬢には、僕よりも好きな人ができてしまったって言うんです!」
「その時点で永遠の愛じゃねぇじゃねぇか」
哲平がまた真面目に言葉を返した。
それにしても、ホットラードはいつまで話し続けるつもりなのよ。
大体、あんただってアリスと婚約中に他の女と恋愛して、彼女との婚約を破棄したくせに何を言ってんのよ。
自分がそんな事をするから返ってきてるだけじゃないの。
「婚約破棄や解消をしていないんなら、その永遠を誓った相手といつかは結婚はできますよ。大体、あなたも婚約者じゃない女性と、今現在2人でお茶してるんですから、人を責められる立場ではないのでは?」
「んっ? んん!?」
会話に割って入ったのは悪手だったみたいだった。
ホットラードはにんまりと笑みを浮かべたかと思うと、私に向かって聞いてくる。
「キュレル子爵令嬢は僕を諦められていないんだね?」
「はあ?」
――バカなの?
もしかして、違う言語話してる?
何でそんな事になるのよ!?
「いや、わかる、君の気持ちはわかるよ! だって僕はこんなに素敵だからね」
ホットラードは自分の胸に手を当て、なぜか立ち上がって私にアピールしてくる。
こんなに素敵とは?
あんたのどこが?
まあ、人の好みはそれぞれだし、口に出してはいけないから頭の中で思うだけにするけど、私にしてみたら、あんたはただのナルシストにしか見えないんだけど…?
というか、バカをうつされそうだから必要以上に近付かないでほしい。
もう最悪だわ…。
せっかくのパフェがゆっくり味わえない。
「また改めて来ないと駄目ね」
ため息を吐いてから、哲平に向かって言うと、彼が答える前に、席に座り直したホットラードが言葉を返してくる。
「いいだろう。一緒に来てあげるよ?」
「いらん」
私だけではなく、哲平も一緒に断ってくれた。
素っ気なくされるのが好きなのか、ホットラードは嬉しそうに話しかけてくる。
「キュレル子爵令嬢、本当に君は変わったね。昔の君は僕眩しすぎて視線も合わせられなかったのに」
うざいから、視線を合わせたくなかっただけでしょ。
「キュレル子爵令嬢。君の気持ちに気付くのが遅くなって申し訳なかった」
聞こえていないふりをしながらも、一応、聞いておく。
嫌な予感しかしないけど。
「そんなに君が僕を好きだなんて知らなかった」
「は?」
私の代わりにまた、哲平が聞き返した。
もう気持ち悪いし面倒くさい。
というか、今すぐホットラードの頭を殴りたい。
出来ればお腹に一発蹴りを入れてから…、次にパンチを…。
「そんなに僕の気を引きたいんだね。悪い子だ」
考えている内にホットラードは暴走する。
私はたしかに良い子ではないし、悪い子だと言われたらそうだと思う。
だけど、少なくとも礼儀は大事にしているし、思いやりの心だって大事にしているつもりよ。
スプーンを一度、パフェの容器の上に置き、ホットラードの方に顔を向けると、笑顔でお願いする。
「食べ終わったんなら、今すぐ店から出ていってくれません? 目障りですし、待っている他の人にも迷惑ですから」
食後すぐに出ていけとは言わないし思わない。
すぐに動けないという気持ちはわかる。
けれど、たくさん人が外で待っているんだから、食べ終わった後にゆっくり話す場所ではない事くらいわかりなさいよね!
「ちょっと! 無礼じゃない?」
私の言葉に反応したのは、ホットラードではなく、連れの女の方だった。
名前がわからないわ…。
なんて呼んだらいいの、A子?
もうA子でいいわよね?
名前を覚えるのも嫌だし。
A子に向かって、私は言葉を返す。
「無礼なのはホットラード卿の方でしょ。私には連れがいるし、ホットラード卿にはあなたがいるのに、あなたを放ったらかして私に話しかけてきてるんだから」
「ルーベン様は素敵だからいいんです!」
「おい。頭、大丈夫か」
意味のわからない返答が返ってきたからか、哲平が思わず突っ込んだ。
A子はギロリと哲平の方を睨んだけれど、思ったよりも哲平の顔がタイプだったのか、彼の顔を見た瞬間、何か言おうとした口を恥ずかしそうに閉じた。
なんなの、この茶番。
「アリス」
なぜか、ホットラードが親しげに名を呼んで、座ったまま身を乗り出してくる。
え、なに、気持ち悪い。
でも、気持ち悪いは失礼だし、なんて言ったらいいのか。
あなたの顔を見ると気分が悪くなるとか…?
「ニヤニヤされると、気持ち悪いんで近寄らないで」
考えているうちに、どんどん近付いてくるから、結局、言いたいことを言ってしまった。
「アリス。どうしてもっと前から君の本当の姿を見せてくれなかったんだい?」
「……は? あなたが私の良さを見抜けなかっただけじゃないんですか?」
「そうだ。そうかもしれない。ああ、今の君なら、ぜひ結婚したい。お願いだ。また、僕の婚約者になってくれないか?」
「は?」
私は眉間にシワを寄せただけだったけど、聞き返した哲平は明らかに気分を害したようで、声のトーンがいつもより下がっていた。
ホットラードの頭の中って、本当にどうなってるの?
「いや、それはわからん」
無視すれば良いのに、真面目に哲平は答えを返した。
たぶん、好奇心が勝ってるんでしょうね。
こんな人、滅多にいないから面白がってるんだわ。
「永遠の愛を誓ったボートワール嬢には、僕よりも好きな人ができてしまったって言うんです!」
「その時点で永遠の愛じゃねぇじゃねぇか」
哲平がまた真面目に言葉を返した。
それにしても、ホットラードはいつまで話し続けるつもりなのよ。
大体、あんただってアリスと婚約中に他の女と恋愛して、彼女との婚約を破棄したくせに何を言ってんのよ。
自分がそんな事をするから返ってきてるだけじゃないの。
「婚約破棄や解消をしていないんなら、その永遠を誓った相手といつかは結婚はできますよ。大体、あなたも婚約者じゃない女性と、今現在2人でお茶してるんですから、人を責められる立場ではないのでは?」
「んっ? んん!?」
会話に割って入ったのは悪手だったみたいだった。
ホットラードはにんまりと笑みを浮かべたかと思うと、私に向かって聞いてくる。
「キュレル子爵令嬢は僕を諦められていないんだね?」
「はあ?」
――バカなの?
もしかして、違う言語話してる?
何でそんな事になるのよ!?
「いや、わかる、君の気持ちはわかるよ! だって僕はこんなに素敵だからね」
ホットラードは自分の胸に手を当て、なぜか立ち上がって私にアピールしてくる。
こんなに素敵とは?
あんたのどこが?
まあ、人の好みはそれぞれだし、口に出してはいけないから頭の中で思うだけにするけど、私にしてみたら、あんたはただのナルシストにしか見えないんだけど…?
というか、バカをうつされそうだから必要以上に近付かないでほしい。
もう最悪だわ…。
せっかくのパフェがゆっくり味わえない。
「また改めて来ないと駄目ね」
ため息を吐いてから、哲平に向かって言うと、彼が答える前に、席に座り直したホットラードが言葉を返してくる。
「いいだろう。一緒に来てあげるよ?」
「いらん」
私だけではなく、哲平も一緒に断ってくれた。
素っ気なくされるのが好きなのか、ホットラードは嬉しそうに話しかけてくる。
「キュレル子爵令嬢、本当に君は変わったね。昔の君は僕眩しすぎて視線も合わせられなかったのに」
うざいから、視線を合わせたくなかっただけでしょ。
「キュレル子爵令嬢。君の気持ちに気付くのが遅くなって申し訳なかった」
聞こえていないふりをしながらも、一応、聞いておく。
嫌な予感しかしないけど。
「そんなに君が僕を好きだなんて知らなかった」
「は?」
私の代わりにまた、哲平が聞き返した。
もう気持ち悪いし面倒くさい。
というか、今すぐホットラードの頭を殴りたい。
出来ればお腹に一発蹴りを入れてから…、次にパンチを…。
「そんなに僕の気を引きたいんだね。悪い子だ」
考えている内にホットラードは暴走する。
私はたしかに良い子ではないし、悪い子だと言われたらそうだと思う。
だけど、少なくとも礼儀は大事にしているし、思いやりの心だって大事にしているつもりよ。
スプーンを一度、パフェの容器の上に置き、ホットラードの方に顔を向けると、笑顔でお願いする。
「食べ終わったんなら、今すぐ店から出ていってくれません? 目障りですし、待っている他の人にも迷惑ですから」
食後すぐに出ていけとは言わないし思わない。
すぐに動けないという気持ちはわかる。
けれど、たくさん人が外で待っているんだから、食べ終わった後にゆっくり話す場所ではない事くらいわかりなさいよね!
「ちょっと! 無礼じゃない?」
私の言葉に反応したのは、ホットラードではなく、連れの女の方だった。
名前がわからないわ…。
なんて呼んだらいいの、A子?
もうA子でいいわよね?
名前を覚えるのも嫌だし。
A子に向かって、私は言葉を返す。
「無礼なのはホットラード卿の方でしょ。私には連れがいるし、ホットラード卿にはあなたがいるのに、あなたを放ったらかして私に話しかけてきてるんだから」
「ルーベン様は素敵だからいいんです!」
「おい。頭、大丈夫か」
意味のわからない返答が返ってきたからか、哲平が思わず突っ込んだ。
A子はギロリと哲平の方を睨んだけれど、思ったよりも哲平の顔がタイプだったのか、彼の顔を見た瞬間、何か言おうとした口を恥ずかしそうに閉じた。
なんなの、この茶番。
「アリス」
なぜか、ホットラードが親しげに名を呼んで、座ったまま身を乗り出してくる。
え、なに、気持ち悪い。
でも、気持ち悪いは失礼だし、なんて言ったらいいのか。
あなたの顔を見ると気分が悪くなるとか…?
「ニヤニヤされると、気持ち悪いんで近寄らないで」
考えているうちに、どんどん近付いてくるから、結局、言いたいことを言ってしまった。
「アリス。どうしてもっと前から君の本当の姿を見せてくれなかったんだい?」
「……は? あなたが私の良さを見抜けなかっただけじゃないんですか?」
「そうだ。そうかもしれない。ああ、今の君なら、ぜひ結婚したい。お願いだ。また、僕の婚約者になってくれないか?」
「は?」
私は眉間にシワを寄せただけだったけど、聞き返した哲平は明らかに気分を害したようで、声のトーンがいつもより下がっていた。
ホットラードの頭の中って、本当にどうなってるの?
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